甲虫
「好きなアーティストについて、オールタイムベスト的なのを作ってみよう」となった時、どんな基準を持ちながら選曲をすればいいのか。ことビートルズなんて、こすられにこすられまくった王道のような人達について、私なんかの選曲に愛を語る余地なんて残されているのか。そんな逡巡がある中、今年2月。18曲選んでみました。ビートルズのオリジナルアルバムは初期は14曲前後の曲数だったので、そこらへんに合わせようかなと思ったけど、絞れない絞れない。無理だよこんなの、の18曲です。今までろくに年間個人的ベストの選曲理由も書いてこなかった私ではありますが、最近結構いろんな人がオールタイムベストみたいなの選んでワクワクしてるのを見て、自分も自己満足程度に書き残しとくのもいいかもしれないと考えて、今回書いていこうと思います(本当のことを言うと、私が記憶に残る中で一番最初に聴いたのがビートルズの楽曲だったことからどっぷりはまったこの世界の中で、そろそろそんなよくわからない感情を自分の中で相対化しておこうかなという思いがありますおっと長くなるといけない)。それでは。曲順は順位ではなく、もしこの選んだ曲たちでアルバムを作るならというコンセプトで並べてあります。
1.Twist And Shout (1963 『Please Please Me』収録)
いきなりスタンダードでありながらのカバー曲からのスタート。このいかにもなジョンのかすれシャウト、このレコーディングでは風邪で声がただでさえ枯れていたものを更にからして歌っているわけです。もう魂。原曲はトップ・ノーツというR&Bボーカルグループだそう。初めて知りましたね。
そしてライブ活動時代のビートルズ、初期ではこの曲をラストに、後期では最初にさわりだけ披露するという感じで演奏しています。とにかくコーラスの掛け合いがいい。声の相性がいいんだと思う。声紋的に分析すれば何かしらの証明ができるのかな。このコーラスワークの凄さにはもっと注目されてもいいと思う。曲が終わるといちいち頭を下げるこの丁寧な行動も、リバプールの悪たれどもをこんな清潔感ある若者にした彼らのマネージャー、ブライアン・エプスタインの功績でしょう。
とまあ、このペースでやっていきます。事実と異なる部分はできるだけないよう、そもそももうちょっと思い出とか絡めながらやっていきます。
2.All My Loving (1963 『With The Beatles』収録)
もう、ド王道だと思う。改めて調べたらシングルカットされていないらしい。手紙の文面みたいな体裁をとっている歌詞なんだけど、こんな感じのど真ん中ラブソング、これ以外あまり選んでいないかもしれない。のちに紹介する後期の楽曲にものの数年、すごい速さで変化しちゃうというのが理屈ではわかっても納得がいかない。でもなんにせよ、こんなきざなこと言われたらそりゃあ失神しちゃうかもね。ビートルズのファン=ビートルマニアという現象はこの項目でWikipediaが作られているくらいのもので、当時は若者の退廃だとか言われてたらしい。どうだろう、数十年後かには何が普遍とされているだろうか。(ベースラインが改めて聞くとやっぱりおかしい、なんだかよくわからんけど変だよ、あとジョンのギターの素早い3連弾き、いいなあ) ジョンが嫉妬するポールのソングライティング、今回は選出少ないけど、何かしらの分厚い本が出ているのでいずれ私は読むべき。ジョンが狂信的なファンに命を狙われ、病院に運ばれたとき、この曲が流れていたそう。
3.Eight Days A Week (1964 『Beatles For Sale』収録)
せりあがるように曲が始まっている曲、読んでる人はあまり聴いたことないと思う。私もビートルズ以外にはほとんど聴いたことがない。フェードイン/フェードアウトというわけだけど、この歴史はこの記事に詳しい(本当はこのレベルの記事を書きたい。いざってなると書けない本当に苦手)。
https://ystmokzk.hatenablog.jp/entry/2021/07/23/191219
信じられないくらい忙しいスケジュールの中(これは分厚い伝記を読めばわかる。移動先の車内とかホテルの部屋で作曲してる)で、「1週間に8日分くらい仕事してるぜヤレヤレ」的な所から、「1週間に8日分愛してる」という趣旨の歌詞になるというわけで、ラブソングですね。子供心ながらに、合いの手で挟まれる手拍子が心地よくて、一緒に叩いていたのを覚えているから、小さい頃はこれが一番好きな曲だった気がする。同じタイトルを持つドキュメンタリー映画(要はめちゃくちゃ忙しいさまが流れている)がリマスターされたライブ音源や当時のファンクラブ限定のレアなクリスマスレコードでの肉声が聴けたり最高(実際めちゃくちゃしっかりライブ活動の終焉までが綺麗にまとまっていた)でした。こうやって良質な再構成が行われる様を見ることができるのも、後追い世代の特権よ。
4.You're Going To Lose That Girl (1965 『Help!』収録)
いわゆる中期になるかなといったところ。個人的にはビートルズのコーラスワークの一つの到達点なんじゃないかとくらい思う。掛け合いが綺麗すぎて本当に堪らない。映画「Help!」内での演奏シーンもかっこいい。たばこふかしながらギター弾いているのがいい。こっそりというとニコニコ動画で細切れでビートルズの映画は全て観ることができるんですね。映画に関しては私の過去ツイート(連ツイになってます)をどうぞ。
3000文字。内容がないわりにだらだらと。
5.Run For Your Life (1965 『Rubber Soul』収録)
不穏な曲。ジョンの嫉妬深い性格を曲にしたものはこのほかにもいくつかあって(特にこの曲はめちゃくちゃ歌詞が怖い)、この曲がすごいのはこれがアルバムの最後の曲ということ。「他の男に行くくらいなら死んでくれ(自分が死ぬわけじゃない!という)」みたいな内容の歌が、しかもフェードアウトで終わっていくという、何とも不安な締めくくり。ネットで評価を見てみたらこの曲すごく評価が悪かった。まあいいでしょう。他にも2曲ほど。
ジョンは以前の文章でも書いた通り、すごく切実に愛について考えていた部分があったと思っていて(それは母親を早くに失くした経験とかに依るのかな)、それらしい到達点が過去の嫉妬深い自分を顧みて反省する楽曲《Jealous Guy》だったのだと思うわけで。ジョンのハスキーな声はその発露みたいなものとすごくマッチしている(歌がある音楽について、その人の声という一番分かりやすい標識の存在を、意外と忘れがちだ)。
6.And I Love Her (1964 『A Hard Day's Night』収録)
Bright are the stars that shine
Dark is the sky
この倒置法が好き。あと転調。もうそれに尽きる。調べればカートコバーンもカバーしていたそうな。うーんって感じでした。わからない。奥田民生が《And I Love Car》というダジャレみたいな曲を出してます。HONDAのCMに使われてるやつ。
7.For No One (1966 『Revolver』収録)
色々ビートルズの私的ベストを書いている人の文章をそれなりに読んだけど、結構この曲が挙げられていたようなイメージ。冒頭の韻を踏んだ歌とホルンのメロディーが曲後半に一緒に流れるの(これが対位法か!)が本当に美しい。『Revolver』のB面は魔境みたいなものだと思っていて、この曲もあればポールのルーツを活かした楽曲《Got To Get You Into My Life》(後で紹介)もあれば、実験的過ぎて今でもビビる《Tomorrow Never Knows》みたいな曲もあって、当時このアルバムの曲はライブで演奏しない、そしてついぞライブ活動をやめてしまったビートルズの後期への接続点が見える。明らかに生演奏での再現を目的としていない。この曲に関してはストリングス以外では珍しく外部のホルン奏者(とても有名な人らしい)を招いています。今回の選出基準、なるべく4人がまとまって演奏している鍵括弧つきの「純粋さ」を重視したりしている(だから《Yesterday》とか《While My Guitar Gently Weeps》とかは入れてない、自分でベスト盤とか聴いてください)けど、ここ以降のそうじゃない楽曲は、余程のことがあって選んでいると思っていただければ。
8.Cry Baby Cry (1968 『The Beatles』収録)
このあたりのジョンはモチベーションが低かったらしい。だから新聞広告とかのフレーズを拝借して曲を作ることが多いのだけれど、この曲もそんな一曲(『Cry Baby Cry, Make Your Mother Buy(泣け赤ん坊よ、泣いてお母さんに買ってもらいなさい)』という広告らしい)。そこから架空の王室の風景に繋げる世界観の構築は見事だし、私はその部分に惚れている。サビ→Aメロ→サビ→Aメロの繰り返しという簡素なつくりでありながら、ずっしりしたドラムとギターの音色、ピアノが綺麗(王室の気高さみたいなのもあるかも)。
この曲も広告からのフレーズ拝借から作った曲。骨董品点で見つけた昔のサーカスのチラシからだそうな。
9.It's All Too Much (1969 『Yellow Submarine』収録)
この曲は、アニメ映画『Yellow Submarine』の映像込みで選んでいる部分があって、映像ないかなーとYouTubeを探したけどなかった。本当に華やかで、カタルシス効果がすごいシーンなんだよ。アニメでしか描けない、原色の風景。先程も書いたけど、ニコニコ動画にあるよ(小声)。ジョージのLSD体験がもとになっているそう。そうでなくたってイントロからギュイーンって腕引っ張られて変なとこ連れていかれる感じ。美しさで言えばこれが一番な気がする。ジョージでいえば『Abbey Road』で覚醒したみたいな言い方がよくされるけど、とんでもない、その1年前くらいにはとっくにこんな到達点となる曲を書き上げている、そう思うんです。あとリンゴのドラミングが最強。ベストアクトと呼ばれる《Rain》(後で紹介)との双璧をなしていると思う。
10.Nowhere Man (1965 『Rubber Soul』収録)
この曲も、『Rubber Soul』からというよりは映画『Yellow Submarine』から選んだといった方がいいかもしれない。何でもできるがゆえに友達がいないジェレミーという妖精(?)がビートルズとの出会いを通じて心を開く…みたいなシーンに挿入されるわけだけど、まあこのシーンが良い。とても良い。当時のジョンの思いが反映されている曲だと言われていたり、「no where」か「now here」のどっちかだったりして、という。
日本公演(武道館)の映像…なかった。数年前までは大量にあったような気がするのだけど、YouTubeを改めてしっかり稼働させようとしたタイミングで一斉削除されている。ここら辺の権利関係とかどうなってるんだろう。
11.Rain (1988 『Past Masters Vol.2』収録)
暴力的ですらあるリンゴのドラムプレイ。加えてジョンの享楽的でありながら皮肉っぽい歌詞。最高。コーラスワークも健在でありながら、遂に逆回転とかを使い始める時期にあって(1966年)、スタジオで実験的なサウンドを作り出し始める。プロモーションビデオも作られて(当時では珍しくMVのはしりになっている)、そういう意味でも中々な先進性がある。そんなビデオを。
If the rain comes, they run and hide their heads.
They might as well be dead.
12.Across The Universe (2003 『Let It Be... Naked』収録)
ビートルズのオリジナル曲は213曲?と言われていますが、ベストを選ぶ際にはそんなことは気にしたくない。こっちを聴いて育ってきたのだから。この曲のオリジナルはアルバム『Let It Be』収録ですが、こっちの方が好きです私は。ここ何が違うかというと、ビートルズは解散間際にゲットバック・セッションという、原点回帰ともいえるレコーディングに臨んで、多重録音とかを極力排除したライブアルバムを作ろうとしていたのだけれど、結局それはうまくいかず立ち消えになったと。その後フィル・スペクター(この間亡くなった)というプロデューサーがオーケストラとかをふんだんに盛り込んでリリースされたのが1970年『Let It Be』な訳で、ポール以外の3人はこの出来に満足して(その結果それぞれのソロ作品にも参加している)いる一方、ポールはこのアルバムを「当初から逸脱したもの」だと憤慨しているんですね。こういういきさつがあって2003年に極力ダビングを排除した、より本来の理想に近いリミックス盤を作ろうというのがこのアルバム(とはいえ、色々なテイクを組み合わせたという点ではやはりそれなりの編集が加えられている)。この曲に関しては、オーケストラとコーラスが入っているオリジナルバージョンと比較して、よりジョンのボーカルが前面に出ているようなイメージとなっています(キーも違う、テープの回転数でいじれるらしい)。この歌詞は本当にきれいで、声に出して読みたい英語。そこはかとなくインドに瞑想修行に行った経験が反映されていて、自然と一体化しそうなボーカリングは自身がその思想を伝えているよう。とても美しい曲です。
https://j-lyric.net/artist/a04d22c/l00b215.html
そして同名の映画があるんですが、これがビートルズの曲をたくさん使った映画で、舞台はビートルズから少し後のアメリカ、そしてベトナム戦争反戦のメッセージがビートルズの曲を通じて発せられている。歌詞の聴こえ方が物語を通じて変わってくる、かなり発見に満ちた映画でした。
13.Here Comes The Sun (1969 『Abbey Road』収録)
『Abbey Road』なんてアルバム通して聴かなければ意味がない。レコードを裏返した一曲目からこの繊細なイントロが流れて、心が洗われる。特に後期のビートルズは、色々な要因があってか自然を歌ったものが多い。何もかも嫌になったジョージが書いた曲なのだけれども、こうやって不満を曲にできるってのはなかなかできるものではない。ジョンは事故でレコーディングには参加していない。2年前に公式で出されたMVがとても美しいし歴史感じるからぜひ。
14.Octopus's Garden (1969 『Abbey Road』収録)
リンゴが休暇中にアイデアが浮かんだ曲。主にジョージと一緒に作り上げたとされている。ジョンとポールの陰にどうしても隠れてしまう二人がここに来てとんでもないきれいな曲を作っているのはやっぱり後追いからしても嬉しい。深海をイメージした曲でありながらどことなくハッピーなのは、何となく能天気なリンゴのボーカルによるものだと思う。間奏で挟まるジョージのギターソロはビートルズではベストアクトだと思っている。海の中にいるような加工をしたコーラスと、コップの水をストローでぶくぶくやっているSEと相まって、すごく好き。
シルクドソレイユのビートルズをモチーフにした公演『LOVE』(多分今もラスベガスで上演している)のサウンドトラックでのバージョン(色々な曲が混ざっている)もまたよし。
15.Got To Get You Into My Life (1966 『Revolver』収録)
イントロからいきなりすごいホーンセクションのファンファーレみたいなのが聴こえ、どうやらドラッグ体験を歌った歌詞が歌われる。私も前どこかに書いたけど薬物と恋愛の歌詞の中での類似性みたいなのは結構面白い(The 1975とかもその感じがする楽曲が多い)。ソウルミュージック的な感じは、いわゆる「ブラックミュージック」の影響。1978年にはEarth, Wind & Fireがカバーして、それなりにヒットしているそう。こっちもこっちで良い。
16.A Day In The Life (1967 『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』収録)
言わずもがなだと思う。私はビートルズはそれなりに詳しいつもりでいるけど、その周辺、同時代の音楽のことをまともに知らないので、このアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』がどれだけすごいアルバムなのか(どうやら歴史を変えているらしい)をしっかりと説明することができない。けどこの13曲が集まったアルバム(とアートワークと世界観)がどれだけ当時の雰囲気とかがすごかったかは肌感覚でわかる。最後の音がずっと続くところは小さい頃はとても怖かった気がする。ジョンとポールのパートが明確に分かれているという点では結構珍しい曲のような。共に「ある一日」について描いているんだけど、どこか空想的で現実との境界が曖昧な。
MVもすごい。
I'd love to turn you on (歌詞より)
17.That Means A Lot (1996 『Anthology 2』収録)
アルバムを作るとしたら、本編はこの前の曲までで、ここから2曲はボーナストラック的な。レコーディングの際の過程や没テイク、未発表音源、ライブ音源などをまとめた『Anthology』からの1曲。なぜかビートルズはこの曲に満足いかず、結局P.J.プロビーというシンガーに提供することにした。ビートルズ版のアレンジの方が良いと思う。Wikiをみたら《Ticket To Ride》似ているという評価を下している人がいるらしく、確かにそういわれてみれば……という感じ。全体的に何となくエコーがかかったような音がすごくきれいだし、単に8ビートを刻まないリンゴの少し癖のあるドラムパターンも見事なんだけどな。
比較として、《Ticket To Ride》、邦題《涙の乗車券》
そしてP.J.プロビーのバージョン。
18.Good Night (1968 『The Beatles』収録)
最後の1曲。ジョンが息子に書いた子守歌ですが、自身ではなくリンゴに歌わせたという、確かにジョンの歌う曲ではないわなといった感じ。リンゴのボーカルは素朴!そして最後ということで「5人目のビートル」と呼ばれたジョージ・マーティンのオーケストラアレンジへの敬意(これがないと名曲の数々は生まれてなかったし、何ならビートルズはここまですごくなってなかったと思う)も込めての選定となりました。おやすみなさい。
最後に
以上18曲、個人的なものです。センスないとか言わないでね、そもそも選ぶのなんて不可能だよって中で試しにやってみたものだから。
でも初めてこうやったことをやってみたけどなかなか楽しかった。それでもあまり言葉ってのは出てこないね。改めて音楽ブログをまじめにやっている人への敬意が膨らみました。
他にも本当にたくさん美しい曲がたくさんあるので(意味わからん曲も同じくらいたくさんある)、ぜひ聴いてみては。