短歌連作_ぽっかりうんざりさっぱり
第7回笹井宏之賞に応募して落選した50首連作です。
ところどころ手直ししました。
新しいクラスに足を踏み入れる 私だけが俯いている
スカートを切っている子ににこやかに挨拶されて息がしづらい
満月がぽっかりと居る 有耶無耶なほうが良いのに今日もぽっかり
久々に友達に会う 私には久々だけどあの子は違う
大勢の前で話すとき手を隠す 通知を知らせているみたいな手
桃の木がもくもくと花ひらかせて密やかに昼眠る貴婦人
食べる?って母が差し出すひとくちが大きい明日晴れるらしいよ
言い訳をよくするけれど言い訳が得意っていうわけでもない
おい涙出てくるなって言っただろ誰もいなくてせめて良かった
息継ぎと涙が出番を間違えることがあるから台本を書く
お隣の芝生がすごく輝いているから外に出るのが怖い
無理をして群れる必要ないですという記事を読み、でも、だとしても、
灼熱の道路でポップな讃美歌を歌う 猫が褒めてくれる
あぶれても良いと思える群れならば良かったのにな胸が空っぽ
有名な大学の赤本を買う レジで内心弁明をする
嫌なことばかりだけれどよく見れば全部私のせいだね猛暑
もうありとあらゆる責任捨てたいな世界五分前仮説採用
念入りに殺した蝿が生きていて謝りながら、もう一回
遠すぎて線になった山々の浅葱が雲を抱き込んでいる
何もない部屋でお腹が痛すぎて無闇に羊を数えてみてる
センサーへ ここに私がまだ居ます 左右に揺れたら明るいトイレ
言おうって思ったことの三分の一くらいしか言わないでいる
友達の友達に目を褒められた新しい手鏡を買った
怖いものばっかり増えていくことを誰か笑い飛ばしてほしい
電車内だれも汗をかいてない みんなロボットなのだろうか
悔しいの 悔しいのって言うごとに不思議だそもそも土俵がなかった
焼き鳥の袋を抱いてもう食べたような気がしてくる帰り道
補修中のプラットホームの足元をべこべこ言わせながら進む
うんざりの ざり、の部分を握りしめながら寝たから変な夢だな
父の人差し指のマメいつまでも治らないまま 空が低いね
しにかけの紙ストローを味わって、氷を噛んで、気が休まらない
満月を見ると不安になるだとか言った私を笑い飛ばす君
蜂蜜と同じ色だと君が言う 不安がホットミルクに溶ける
受け入れること捨てること解ること腑に落ちること全てが違う
さっぱりとした人間になりたくて加湿器捨てたら砂漠になった
鉄骨をひからせビルが威嚇する もうすぐここは更地になる
その駅の好きなところ 特別なところが何もないところ
秋色の砂場で見知らぬ子供らが桜を探している夕方
まっかっか:隣の新車:信号機:赤本:丸つけ:電池残量
王笏のように唐揚げ棒掲げ君が言うには寝るまでは今日
君の吐く息が白くて冬だった カイロは役に立ってなかった
銀幕で人が殺され隣席で女性が寝息を立てる金曜
あの絵の前でしばらく止まってた人と友になってみたい
君がいて笑ってくれるからすぐにホットココアは冷えるけど良い
いい映画いい小説いい絵画なにもわからない好きだってだけ
うっすらと積もった雪に触れてみてちゃんと雪をしてて驚く
あの映画観たよ君が好きなのは本編よりもエンドロール
優しさを優しさとして受け取れる人間になる 今年の抱負
大好きな歌詞を読んで大好きと思う理由をまた噛み締める
花よりも種をくれるひとだから君が通れば春風が吹く