道の日常byだて
歩く道は一人(朝奈)
ある日の朝八時前、登校する道にて
「私は一人でぶらぶらするのが好きなんだよね」
私は何気なく相方『朝奈』に話す。
「え、もしかしてあたしが一緒にいるの邪魔でした!?」
「あ、いやそうじゃないけど……」
朝奈が慌てるのを見て、ぶんぶん首を振る。
「なんか、誰にも気づかれずにだらだらと歩いてみたいじゃん」
「新手の厨二病ですか?」
「ちーがーいーまーす。ちゃんと高校二年生ですー」
文句を言えばからからと朝奈は笑う。
「あーでも、中学の時の登下校はあたしも一人でしたよ」
「出たな妖怪:田舎暮らし」
朝奈の出身地域を知っているので、そう言ってみた。
「……いや、ただ単純に早起きしすぎて誰も一緒に登校してくれなかったんですよね」
「想定より悲しい惨状だった」
およよ、と目元をハンカチで拭って見せれば、朝奈はでも、と言う。
「その代わり帰り道はみんなで帰りましたから!」
「同じ境遇だと思った私の涙を返せ!」
朝奈がリア充(友人面)だったことを知り、そのままハンカチを自分への涙で濡らそうとする。
「でも中学校みたいに登下校が自転車だと、友達と話しにくいです」
「私もそんな贅沢な悩みをしてみたかったよ」
「拗ねないでください、先輩」
と朝奈がポンポンと頭を撫でてくれたので許す。
「小学生みたいに徒歩だったら話しやすかったんだけど」
「あー小学生か」
ちょうど私たちが赤信号で止まってしまったときに、横から横断歩道を小学生軍団が白線だけを踏んで渡ってきた。
「おうおう、君たちは今日もかわいいねぇ」
「先輩、あまりジロジロ見て不審者に思われないようにしてくださいね」
「女子高生が小学生に手を出すなんてわけないじゃん」
「先輩がペロリと食べてしまいそうで……」
「え、私ちっちゃい子が趣味とかじゃないよ?」
「いえ、昨日そういうホラー小説を読んだので」
「ホラー小説か」
「ホラー小説です」
信号は青になる。
「小学校の頃も私はボッチでしたよーだ」
「それならあの集団に混ざってきては?」
「私本当に捕まっちゃうよ!?」
「先輩、声大きいです」
小学生に付き添う保護者に変な目で見られた。
「先輩は登下校の時は何をされていたんですか?」
「ん〜小学生の頃は体づくりというか、かけっこで一番になりたかったから走って歩いてを続けてたね」
「先輩、今の五十メートル走のタイムは?」
「余計なことを言うのはこの口か?」
むにぃと頬を引っ張ってみれば「ひほ(ひど)ひて(いで)ふへん(すせん)ぱい(ぱい)」柔らかい。
「でも一人で歩きたいのは、そうやって誰にも縛られずに自由に歩けるからかな……」
朝奈を開放してやれば、頬をさすりながら言う。
「じゃあ、今からインターバル走をしてみてはどうでしょうか? 突然走り出したり歩き出したり。他人に襲いかかったり!」
「いやゾンビじゃないからホラーに仕立て上げるのはやめろ!」
また頬をつねってやった。
歩く道は一人(優)
ある日の部活終わり夕方八時前、下校する道にて
「私は一人でぶらぶらするのが好きなんですよね」
私は何気なく相方『優』に話す。
「へぇ、君がそういうことを言うの、ちょっと意外かも」
「私はずっとぼっちですよ?」
「いや、君の今の部活での振る舞い的に、そんな雰囲気は一切ないけどね?」
私はずいぶん変わったらしい。
「あ、いや、でもたまに見せるダークサイドが部活の先輩の多くを……」
「ダークサイドって言いましたね!?」
やっぱりそんなに私は変わっていなかったらしい。
そうじゃなくて、と優先輩。
「一人でぶらぶらっていうと、名前も知らない土地を地図も無しに、とか?」
「地図は必須です。方向音痴なので。えっへん」
「いやそこで胸を張るなよ……」
一人旅といっても、道に迷いたいわけではない。ついでにスマホと飲み物と財布とお気に入りのメモ帳は欲しい。
「そもそも僕は、一人ってなんだろうって思うよ」
「ほお、哲学的な意味ですか?」
「言い出したのは君でしょう……例えば……」
そう言って優先輩は歩を止める。歩き続けた私は優先輩のちょっと前から振り返る。
「これは『一人』って言うかい?」
「数歩しか違わないですから、一人ではないでしょう」
「そう、それを何千歩でも拡大解釈すれば、客観的な『一人』は無人島にでも行かない限りは実現できないんだよ」
優先輩は普通の歩調で私に追いついた。普段から歩く速さを私に合わせてくれてたんだな。さすがイケメンできる先輩だ。
「小学生とかでありそうですね。同じ方向に帰ってるだけなのに『ストーカー』呼ばわりされるやつ」
「社会でもわりとあるよ」
何度もずれる話題を軌道修正する優先輩。
「結局は主観的な『私は一人だ』が好きなんじゃないかな?」
「厨二病っぽくないですか?」
朝奈に言われたことを思い出す。
「誰しも一人になりたいことはあってもいい、と僕は思うけどね」
ポジティブシンキングな先輩だ。私は先輩の言葉をゆっくりと咀嚼する。しばらくして
「結局は私の心の持ちようか」
そう結論づけるといそいそと駅に向かって歩き出す。何かを忘れているような……その正体は駅のホームでわかる。
「あ、優先輩置いてきちゃった!?」
スマホの通知には、優先輩からの私の歩く後ろ姿の写真が溜まっていた。それと一緒に一言メッセージ。
『君はぼっちではあっても真の陰キャではない。私の勝ちだな』
ホラーだと嘆けばいいのか、厨二病っぽいといえばいいのか、先輩の陰の薄さに驚けばいいのか。
その日の電車では頭の中をそんな考えが支配していた。
犬(朝奈)
「お、わんこだ!」
ある日の朝八時前、登校する道にて
「犬ってかわいいよねぇ」
私たちが歩いているのとは反対の歩道に散歩している犬を見つけた。
「先輩は犬を飼われてたりするんですか?」
「いや、アレルギーだから飼えない」
あれはポメラニアンだねぇ、先輩わかるんですか!?犬好きにとっちゃ常識よ、先輩物知りだ。
横断歩道を渡ってこちら側へ渡ってきた。
「先輩、話しかけにいきましょうよ!」
「い、いや〜私はいいよいいよ、朝奈ちゃん行ってきな」
朝奈はたったっと駆け寄り擦り寄り、犬と挨拶を交わして、手入れされた毛並みはふわふわしてて、いや、でもアレルギーだから行っちゃ、あ、でも可愛い後輩と犬のコンボは、いやでも……
五分後
「先輩、大丈夫ですか?」
私はしきりに鼻をかんでいた。
「いや、私はもうあのふわふわを抱いたからもう思い残すことはないよ」
「先輩早まらないでください、せんぱい!!」
犬(優)
「あれ、犬じゃん」
ある日の部活終わり夕方八時前、雨降る下校の道にて
「え、どこですか?」
持ち前の目の悪さと悪天候によって視界不良、太陽が早めに隠れてしまったが故に、存在を見つけられない。
「いや、あの反対側の歩道。光ってるだろ」
「光ってる犬……ゲーミングドッグですか!?」
「いやそうじゃない」
車道もそれなりの交通量があり、道ゆく車のヘッドライトが雨に濡れたアスファルトに反射して反対側が見えない。
「ほら、こっち渡ってくるぞ」
横断歩道を渡ってきたときにようやく見えた。あれは……
「秋田犬だ」
「先輩もわかるんですか?」
「そんなに詳しくないけど、ほら、昔ニュースに出てただろ」
「はて?」
その秋田犬は私たちに向かってまっすぐ歩いてくる。首輪が光っており、確かに光る犬だ。犬はレインコートを身につけていて、ぱっと見だと犬種を知るのは難しいだろう。
「すみません、この子を見せていただいてもよろしいですか?」
(ひぃぃ……何言ってんのこの先輩ぃぃ!?)
爽やかイケメンといえど、こんな雨の散歩がめんどくさい日に、犬に触りたいと言うなんて、飼い主さんが嫌がりそう……
「あ、いいですよ。ほらマサル」
(いや、許可でるんかい!っていうか秋田犬でマサルって、さっき先輩が言ってた……)
「よーしよしよし、雨の日にも散歩なんてえらいね」
(傘をさしながら犬と戯れるイケメン先輩って絵面よすぎる。でも私は、この前の朝奈ちゃんとの時の件もあるし……)
マサルが優先輩の腕を抜け出して飛び出してくる。
『ほら遠慮なく俺を撫でろよ』
しっぽを振って上機嫌なマサルに、柔い私の意思は容易く瓦解した。
帰り道(真昼)
夢を見ていた。夕陽を左手に見ながら自転車を漕いでいる夢だ。
どうやら中学校の帰りらしく、楽器が鞄の中に入っているのが感じられる。冷たい向かい風が鬱陶しい。
私の道はいつも、ひとりぼっちだ。部活の練習時間が長いのと、家が他の子とは少し離れているから。そもそも人望なんてありゃしないし、私についてくる人がいないなんてわかってた。
急に自宅前の風景に変わった。家の前に誰かが座り込んでいる。
「悪い、家の鍵忘れちって」
「あんたその言葉、何回言ってんのよ」
「今年九回目かな」
「物覚えがよろしいことで。鍵はなんで忘れるのかね」
「昨日帰った後、鞄に戻したはずなんだけどな」
「絶対に部屋散らかしてるでしょ」
「少しだけだ」
「その少しを直しなさいよ、もう」
家が隣で幼馴染の『真昼』だ。サッカー部の練習があったと見えて、ユニフォームで私の家の前に座り込んでいる。家族で仲がいいから、ここで真昼を下手に放置すれば、帰ってきたお母さんから苦言の一つや二つ頂いてしまうかもしれない。
(お母さんもあんまり真昼を可愛がりすぎないで欲しいんだけど)
一応、彼はもう男子中学生なのだ。家にあげるのにはちょっと抵抗があることを理解してほしい。
真昼も望んで鍵を忘れているわけではないらしくて、家に上がるときには少し恥ずかしそうにしているのが、なんか逆に幼く見える。
「なあ、エントロピーって知ってるか?」
始まった。知った知識をすぐにひけらかしたくなる男子中学生の特性。
「化学用語であった気がする。エネルギーに関するなんかだっけ?」
「それはエンタルピーじゃない?」
リビングで勉強道具を広げている真昼が答える。
「エントロピーっていうのは、えーと〝もののらんざつさ〟を表すらしいぞ」
「なんで肝心な部分がカタコトなのよ」
「だから、ものが散らばるのは自然なことで、だから部屋が散らかるのもしょうがないってこと。どうだ? 完璧な〝さんだんろんぽう〟だろ」
大穴だらけの理論に思わず噴き出してしまった。
「真昼はやっぱガキだね」
「お前なんかに言われたくありませんー」
目が覚めた。なんの夢を見ていたんだか。
「あ……」恥ずかしさで全身の力が抜けて、二度寝に落ちた。
帰り道(お兄ちゃん)
私はお父さんやお母さんから信用されていたんだと思う。帰りが早いから、全部で三個しかない家の鍵を渡されていた。
逆にお兄ちゃんはよくものを無くすから、家の裏口の鍵しか渡されてなかった。それでもその鍵をよく無くしていた。
「ほら、ランドセル持ってってやるから走れ!」
お兄ちゃんは楽しそうに私の大きいランドセルをひょいと片手で持ち上げると、自転車のかごに放り込んだ。
一直線の田んぼ道。私とお兄ちゃんの影が長くのびる。
「誰かと一緒に帰ってこなかったのか?」
「だって真昼くんとかは、たくさんのお友達と、帰ってるから」
「その中に混ぜてもらえばいいじゃん」
「でも、怖いの。たくさん、人がいるのが」
さすがに走っていて息が上がってきた。お兄ちゃんは自転車をのろのろと走らせて私のペースに合わせてくれている。
「中学校とか高校はもっと人がたくさんいるぞ」
「怖い」
「怖くなんかないさ。部活動っていうのに入れば、絶対楽しくなるぞ」
「お兄ちゃん、楽し?」
まともにしゃべれない。妹を走らせる兄がちょっと鬼畜じみて見える。
「おう、俺は天才ドラマーだからな」
「ドラマ? お母さんが見てるの?」
「母さんだけじゃない。いろんな人が見てくれるんだ。かっこいいって言ってくれるんだ」
「じゃあ、あたしも、がんばる」
目が覚めた。なんの夢を見ていたんだか。
「あ……」懐かしさで顔が熱くなって、三度寝はできなかった。
誕生日(朝奈)
ある日の朝八時前、登校する道にて
「お誕生日おめでとう、朝奈ちゃん!」
「ありがとうございます、先輩」
「よかった、朝のうちに言えて~」
「家族以外だと先輩が一番乗りですよ、お祝いの言葉」
「やったね。そうだ!」
カバンの中から封筒を取り出す。
「ささやかですが、お祝いの図書カードです」
えっ、というように朝奈が驚いている。
「いいんですか?」
「朝奈ちゃんがもらわないでどうするの」
「えへへぇ、じゃあいただきます」
「本当はもっと凝ったものを渡したかったんだけどね」
「いえいえ、先輩からいただけるだけでうれしいです」
ところで
「朝奈ちゃんのラインにたくさんお祝いカード届いてたでしょう」
「見られてしまいましたか? あの中でも、ほとんどしゃべったことが無い人がちょっといるんですよね」
「ちなみに何人くらいから……?」
「あ、確認してみます」
一緒に数えてみたら二百枚くらいメッセージが届いていた。
「え、朝奈ちゃんって何かのアイドルだっけ?」
「必要な人でちゃんと友達付き合いしている人としか、ラインは交換していませんよ」
「ありがとう、なにか私の中の大切なものが壊れた気がするよ」
私のラインの友達数は百人で昨年の誕生日メッセージは十個ですよそうですよ。
誕生日(優)
ある日の部活終わり夕方八時前、下校する道にて
「お誕生日おめでとうございます、優先輩」
「ん? そうか、今日が誕生日か」
「なに自分の誕生日忘れてるんですか」
「いや、今日四六時中、誕生日を意識している訳じゃないからさ」
「いや、ご自分の手提げ袋を見てくださいよ」
優先輩は何人かの仲がいい男子からプレゼントを受け取っていたし、渡そうと試みる女子部員も何名かいたのを知っている。
「命よりも大事なプレゼント」とは本人の弁。
「じゃあ、そこにこれも追加していてください」
ずっと渡そうと思っていて握っていたから、手の汗がついていないか心配だが、先輩に押し付けてしまった以上確認はできない。先輩はさっそく開封しようとする。
「あ、先輩、ここでは開けないでください……私が恥ずかしさで悶えます」
「更に開けたくなったけど……」
恐ろしいことを言うが、とりあえず中身バレはしないはず。
「ぬいぐるみとかかな? ありがとう」
「なぁぁんでわかっちゃうんですかぁぁ!?」
完璧に包装しておいたのに、手で持った瞬間バレるとは。
「え、だって重さと形状と君のセンス的に」
「わかっても言わないでくださいよぉ!」
「すまんすまん、ほら暴れて車道に出るなよ」
先輩が車道側を歩いてくれているので、その危険性は無い。ないのだが、心配してくれていることを喜んで、中身を知られたことが恥ずかしくて、私のセンスを知ってくれていることがやっぱりうれしくて。
私は優先輩を置いて脱兎のごとく駅に向かって走った。
数時間後、優先輩のインスタを確認した。今日もらったプレゼントとおぼしき物が陳列されていて、そこには秋田犬のぬいぐるみ(二頭セット)も映りこんでいた。周りにカップ麺などの男子高校生感溢れるプレゼント群の中、ぬいぐるみが場違い的に置かれていたのを見て、再びベッドの中で悶えたのは言うまでもない。
言い間違い(朝奈)
ある日の朝八時前、登校する道にて
「先輩は言い間違いしたことありますか?」
「それはもちろん、人間だもの」
「ああいえ、そういう意味じゃなくて……これも言い間違いの一種でしょうか?」
なかなか面白い話題だ。
「今のは言い間違いというか、伝え間違いじゃない? ほら、”ねっとりてらしー”の授業とかでやらなかったっけ」
「あたしはまだ習ってないと思いますが、先輩の言わんとすることはわかります」
「そうね、言い間違えだったら……『おかひじき』っていう植物、食材があるんだけど、それのことを『がけこんぶ』って言い間違えて家族にからかわれたなぁ」
「おかひじき、おいしいですよね。我が家だとマヨネーズに和えて食べます……なんでそんな間違いを?」
「たぶん『丘』がジブリの有名アニメのせいで『崖』に変換されて、『ひじき』は……よくわかんない。子供のころの間違いだしね。『こんぶ』の方が語呂が良かったんじゃない?」
「子供のころだとやっぱりそういう間違いは多いですよね」
「朝奈ちゃんはなにかある?」
朝奈はうーん、と人差し指を口に当てて考えている。
「言い間違いはしてないですけど、難しい単語とか曲中の歌詞は聞き取りを間違えたりしますね」
「わかるわかる」
「思い出すのは、『手こずって』を『でこぶって』に勘違いしていたことでしょうか」
「どうしてそうなった」
「アーティストさんの歌い方の癖のせいもあるんですけどね……」
それを聞いて一つ思い出したことがある。
「『おちゃのみず』っていう地名あるじゃん」
「……先輩、オチが読めました」
「「『お茶』なのか『水』なのか」」
二人で声が揃って、あははと笑う。
「子供の勘違いって安直というか平和というか」
「それでも元気に地球は回っています!」
お洋服(優)
ある日の部活終わり夕方八時前、下校する道にて
「なんで服っていろいろ名前があるんだろうな」
「優先輩はファッション業界に興味が?」
私のお母さんはファッションデザイナーだから、思わず食いついてしまった。
「いや業界に興味っていうか、その、服装を考える上で名前知ってないと買えなかったりするからさ」
「男性ものと女性もので名前が細かく違ったりしますもんね」
確かに呼称は様々だが、お母さんに言わせれば、それぞれに特徴があるから、名前だけで形くらいは想像できるようにしておいた方がいいわよ、とのこと。
(ファッションに興味ない私には無縁だったけどね)
「ネットの単語とか、あとはゲームの単語とかで知ってたりはするんだけど、物がわからないんだ」
「……私に言ってくれれば答えられるものがあるかもしれませんよ」
「本当!? じゃあ、俺が今来ているのはブラウスで合ってるか?」
見てみればそれはもう、立派なシャツだった。
「それはシャツ、ブラウスはもっとこう、女性っぽいかんじ」
「母さんはこれのことブラウスって呼んでたぞ」
「女性用がブラウスだから、大差はないですけどね」
これは本格的にちゃんと調べないといけないな……と悩み始めた優先輩に、得意になって聞く。
「もっと質問してくれてもいいんですよ?」
「じゃあカーディガンは?」
「それも女性ものが多い印象ですね。上から羽織る、薄い服でしょうか」
言葉で説明するのは案外難しい。
「調べて画像見たほうが早いかもしれないですね」
オッケー、とつぶやいてスマホを取り出した優先輩だが、すぐに画面を暗くしてしまった。
「なんか、女性の画像ばっかりみているようで、外で見るのは良くない気がした」
案外ウブな先輩だ。
「ほら、ほか、えっと『キャミソール』ってなんだ?」
話題転換した先も地獄である。が嘘を伝えるわけにもいかない。
「キャミソールは、その、下着の肩が紐になっているやつとか、あとは普通に一番上に着る服もありますよ。ほ、本当ですから先輩!」
優先輩は話が進むにつれ、どんどんいたたまれなくなっていった。
おしまいに(私)
ありふれた日常。ありふれた景色。なんてことない往復の道を、あなたたちが彩ってくれた。
日常は終わりも始まりもない。なんとなく過ぎていくもの。それを思い出せるなんて、なんて素敵なことだろうか。
これは私の道の日常の記録。
(この作品は「秋部誌2023」に掲載された作品です)
あとがき
こちらは秋部誌に掲載しました作品です。日常のショートストーリーをまとめた物語を書いてみたい!と思ったので書きました。決して締め切りに追われて別の作品の完成を断念したわけではありません。
本当ですよ?
「おしまいに」で無理やり作品に終わりを作り出しましたが、機会があればまだ書き足していくつもりです。なぜなら、この作品の出来事はまだまだ起こり続けるから。
お気づきの方も多いかもしれませんが、この出来事は私のほぼ実体験です。だから高校生活が続く限り、この”物語”は続いていきます。文章化することができたのなら、また読者の皆様にお届けできるでしょう。どうぞその時までしばしお待ちください。
私と登下校してくれている親友、そして読者の皆様に最大限の感謝を!!
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