不確定by星青

 目覚めると真っ白な空間にいた。その白は雪のように無機質でもあり、木漏れ日のように温かくもある。上下左右辺りを見回す。どの画角も一切の変化がない。ただ、八方向に陰る部分が、三次元の四角いルームであることを知らせる。

 いや、おかしい。当たり前すぎて見落としかけた違和感が淀みを起こした。360度見渡したというのに、なぜ自分の身体が視覚されないんだ?下の方を見ながら、手探りに腕を伸ばす。白い空間があるだけだし、触れた感じも触れられた感じもない。そもそも意思して動かしたはずの腕部も見えない。それ以前に腕があるのか? それすらも怪しくなってきた。

 感覚がない訳ではないのは確か。少なくとも視覚については。

‘’意識体”

 どこから現れたのか、ふいにその言葉が脳裏に出現した。

 意識体。確かSF的な用語で、文字通り意識のみが分離した状態のこと。宇宙探索において、永遠に等しい移動時間では肉体を維持するにはコストがかかりすぎる。だから、肉体と意識を乖離させて低エネルギーで探索を行う。主にはそういう方法のことだったはず。

 待て待て。仮に自分が今、意識体だったとして、それってSFの話だよな? 現実にそんなこと起きるのか? 自分は科学の世界に住んでいる。いくらサイエンスだって、フィクションなんだから夢物語に決まってる。そう思い込んでも、自分の頭脳では正解が導き出せない。

 あてのない思考が行き止まりだらけの迷宮に踏み入ってしまった。他に何か判断材料になるものはないかと、再度見回す。

 正面から下に向かって降ろした視界がそのままの軌道で流れて行く。縦回転で一周視界が回った。そう見えているのか、錯覚しているのか。それすらも見当がつかない。

 ……今視界に何か映った気がする。その辺りを凝視してみる。

 周りと比べて、微かに白が濃い。気がする。違う、濃いと言うより真っ白な塊がそこに『いた』。

 『あった』ではなく『いた』と表現したのは、どこかソイツが生き物っぽかったから。理由はわからない。

 白の塊は、一匹だけで、微動だにしない。

 手を伸ばしてみる。そうだった……腕があるかもわからないんだった。今、無意識にソイツに近づいたが遠近感がつかめないので、近づけたかもわからない。

「なあ、何か知っているか?」

 白い塊に問いかけた。正確に言うと声が出たのかどうかもわからない。

 塊は変化しない。YesともNoとも言わない。反応を示したのかもしれないが、自分にはわからない。

 今のところ、ソイツは親友とも言えないし宿敵とも言えない。

 一つスッキリした。白の塊は単に隣にいただけの塊。それだけのこと。

 今はそれでいい。




あとがき

夕涼みに怪談をしたとき、怪談を聞くと防衛機能的に体温が上がって全然涼めなかった記憶を思い出した、深志文學の星空です。

今は夏、夏と言えば怪談ってことで、怪談っぽい物を書いてみましたが、どう言う訳かハッピーエンド寄りになりました。怖い話を書くにはまだ力不足でした。

では。