夏日記By蟹ノ尻尾
彼と出会った曲がり角は、すでに遠くへ行ってしまった。
セミの声がする夕暮れ。自転車を全速力で漕ぐ彼。その広い背中に、ギュッとしがみついている私。雨上がりの涼しさを身にまとう彼、鼻歌一つ。
私が声をかけても彼は何も答えない。聞こえていないのか、答えたくないのか。
どこに連れて行ってくれるんだろう。そうやって行き先を勝手に妄想している間に、彼は目的地に着いたようだった。
彼が自転車を止めたのは、広い庭のある立派な家。まさに豪邸といった感じだ。敷地に入るときに「ただいま〜」と呟いていたし、恐らく彼の家だろう。
「家、結構広いんだね」
私は彼にぴったりくっついて、二人一緒に家に入る。しかし、彼は「近い」とか「邪魔」だとかの文句一つ言わない。
階段を上り彼の部屋に入る。そして「あっちー」と、彼は上着を脱ぎ捨てる。彼のノースリーブのシャツは汗でじっとりとシミを作っていた。
「よっしゃ、飯だ飯だ」
「いいの? 私いても?」
階段を急いで降りようとする彼の肩に手を乗せると、彼は突然ビクンと体を震わせる。私は何事かと驚き、ドキッとした。そして、彼は首をぐるんと回して、こちらを見る。ここで初めて眼と眼が合う。
そして、彼は口を開いて言ったのだ。
「どわっ! カミキリムシ!」
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どうも、蟹ノ尻尾です。
この話ですが、昨日本当に私が体験した出来事です。昨日の夜に急いで書いたので、かなり粗削りですが……。
一体、どこからくっついてきたんだろう。ずっと背中にいたのかなぁ。でも上着は丸めて脱ぎ捨てたよな。なのになんで肩にいるの? あの一瞬で飛び移ったってこと?
……謎は深まるばかりでございます。
ちなみに、カミキリムシですが庭に逃がしました。まだいると思います。それなりに広いし、草も多いので。(物語では豪邸と書きましたが、そんなに大きくはないです)
では、皆さんも虫には気をつけてくださいね。