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旅する日本語 第5語 「幸先の悪い1111」
「おめでとうございます」
まさか、この言葉を聞けずに終わることになるとは思っていなかった。
その日は朝から冷えていた。雨はなんとか降っていないことに安堵する。けれど早朝からスタジオに向かう途中、乗り換え駅の渋谷で彼と2人してトイレに駆け込むような事態に、不安しかなかった。幸先が悪すぎる。
なんとか時間までにスタジオ入りし、準備を始める。ドレスを着て、ヘアスタイリング、メイクをしてもらう。
目立つことが苦手な2人が、それでも記念に残ることをしたい、と選んだのは写真だけのフォトウェディング。2人だけの結婚式だった。
撮影場所は二ヶ所。まずは、スタジオ近くの神宮外苑のいちょう並木。とにかく寒かった。写真をとらない時間は、彼のパーカーを借りて羽織っていた。
続いて、教会へ。実際に教会を貸し切り、撮影した。ここでは、入場から結婚の誓いまで一連の流れを2人で演じた。すると、指輪交換の場面、振りだけかと思っていたら、なんと彼がサプライズで、指輪を用意してくれていた。
跪き、指輪がおさめられたケースをパカッと開ける彼。思わず涙がこみ上げてきた。
次の瞬間、
「でも、切れてるの」
半泣きの彼、大爆笑する私。
涙は引っ込んでしまった。どうやら私に内緒で、指輪を作ってくれていたらしい。付き合っていた頃にも、同じようにチェーンのネックレスをもらったことがあった。そのネックレスは撮影の小物として身につけていたのだが、彼は今回も1人で貴和製作所に足を運んで、パーツを選んで組み合わせ、私のために心を込めて世界に一つしかない指輪を作ってくれていた。
なのに、肝心の本番で、指輪のチェーンが切れてしまっていた。なんて、幸先の悪い!
けれど、一生忘れられない思い出になった。
そして、撮影終わりに、役所にそのまま足を運び、婚姻届を提出した。窓口で記入捺印済みの届出を出し、しばし待機。すると、またもや、私は腹痛に襲われ、その場を離れることに。
そして、その間に、窓口から婚姻届受理の知らせがーー。
「おめでとうございます」
結局、祝福の言葉を彼1人で聞かせてしまった。なんて、幸先の悪い!!
一日がかりで、踏んだり蹴ったりなトラブルが続いた。けれど、それがどうした。結婚して他人だった2人が生活を共にしていけば、トラブルは必ず起きるもの。大事なのは、トラブルがないことじゃなくて、それを一緒に乗り越えていけるか、むしろ笑い飛ばしていけるか、だと思う。
11月11日。
夫婦として、結婚という旅に出た2人の原点は、あの日の幸先の悪さ。だから、きっとこれからも大丈夫。やばいもまずいも、2人で笑い飛ばしてたら、幸せはきっと向こうからやってくる。
◆写真だけの結婚式
フォトウエディングは大人かわいいecoo
http://www.photo-wedding.net/