変な話『○○っぽいモノたち』
ある時、誰かが空の色を「青っぽいモノ」と言った。
それを聞いた誰かが、木の色を「緑っぽいモノ」と言った。
縁側でお茶を飲んでいた誰かが、それを「お茶っぽいモノ」と言った。
喫茶店に居たカップルが、食べていたケーキを「ケーキっぽいモノ」と言った。
それから世界には「っぽいモノ」が急激に増えていった。
ある主婦がスーパーで「ジャガイモっぽいモノ」を買った。その家の子供の大好物であるカレーを作ってやろうとした。
その他には、「人参っぽいモノ」や「玉葱っぽいモノ」「牛肉っぽいモノ」と、一通りの食材を買って家に帰った。
買った食材を、ぐつぐつと煮込んでいると台所にやって来た子供は、手を叩いて喜んだ。小さな妹の手を掴み小躍りをしてしまう程に喜んだのだった。
しかし、食卓に並んだ料理を一口食べて子供は思った。
待ち望んでいたこの食べ物はカレーでは無かった。いや、正確にはカレーでは無い訳では無かったのだが、まさしくそれは「カレーっぽいモノ」でしか無かったのだった。子供は、喜ぶにも喜びきれず、がっかりするにもがっかりしきれなかった。
そんな、宙に浮いたままの感情を抱えた子供は成長し、次第に「友達っぽいモノ」「恋人っぽいモノ」ができ、「大人っぽいモノ」になった。
大人になるにつれて「楽しいっぽいモノ」「悲しいっぽいモノ」「幸せっぽいモノ」も学んでいった。
しかし、宙に浮いたままの感情は、宙に浮いたままであった。どこかうわの空で、ぼーっと空を眺めるばかりである。そして思う。この空っぽいモノの本当の色は何なのかと。
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