ノートPC FMV CH Series -新色クラウドブルーは雲のような軽やかさ
前回のデザインの舞台裏では、FMV UH SeriesのCMFデザインについてお伝えしましたが、今回は若い世代のユーザーに「スマホのように毎日持ち歩いて使ってもらうことを目指した」FMV CH Series をご紹介します。
日本で唯一の総合的なデザイン表彰制度であるグッドデザイン賞(2023年度)を受賞した FMV CH Series。コンセプトである「暮らしとの調和」が意味することとは?CMFデザイナーならではの視点で語ってもらいました。
CMFとは、ユーザーがモノと出会ったときに感じる第一印象に深く関わる「モノの表層」を構成する要素です。 CMFは「COLOR(色彩)」「MATERIAL(素材)」「FINISH(加工)」の頭文字をとったもの。ユーザーが手に取った時、「いい触り心地だな」「素敵な色だな」と感じる製品を生み出すために重要な役割を果たしています。
CMFデザイナーをご紹介
今回の記事で取り上げる FMV CH Series はデジタルツールの域を越え、インテリアやファッションアイテムの一部にもなる日常に溶け込むデザインを目指しました。新シリーズのカラーはベージュゴールド、モカブラウン、クラウドブルーの3色展開となっています
コンセプトは「暮らしとの調和」
――今回のコンセプトと、この3色に決めた理由を教えてください。
出川:「暮らしとの調和」です。暮らしといっても様々なシーンを想定しています。例えば、より筐体サイズの大きいFMV AH Series では暮らし=家のことをメインと捉えましたが、今回は持ち歩くことも考慮し、暮らしの概念を移動中や外出先にまで広げました。家の中ではインテリア、外では装いや外出先の空間に馴染む存在ということです。それに加え、市場での独自性や、それぞれに異なる特徴をもつLIFEBOOKの他シリーズとの違いを端的に表現した結果、こちらのカラーバリエーションになりました。
――メインターゲット層はどのあたりでしょうか?
出川:大学生や20代の社会人などの若い人たちです。カラー選定にあたって、そのくらいの年齢の人たちがどんな暮らしをしているのかリサーチしました。彼らが好むような場所、例えばカフェのような、木の机で暖色の光があるナチュラルな空間にはどのような色味が適しているんだろうと足を運ぶなどしました。
――では具体的に色選びでこだわったところは?
出川:ここ数年、特に若年層に浸透している「ジェンダーレスな価値観」「自然でリラックスしたムードを感じさせる」、「手に取りやすく親しみやすい色選び」にこだわりました。
あとはユーザーとなる若者たちについて、装いの変化を知るためにファッションをたくさんチェックしました。例えばコロナ禍の影響など、時流の変化で黒や紺のダークな色味のスーツを着る人が減り、やわらかい色や素材感のカジュアルなファッションをメインに日常を過ごす人が増えてきました。そういう人が持っても違和感のない色味を目指しました。
――色以外についてのこだわりも伺えますか?
出川:パソコンは集中して作業したり、趣味に没頭するときに使うことが多 いので、集中力をそぐような“見た目の違和感”をなくすことに気を配りました。開いたときのカバーとキーの色を揃えるなど、全パーツにわたって色調を揃えることによってコンテンツへの集中を促すデザインを心がけました。
――それぞれのカラーについて、2020年から発売しているベージュゴールド、モカブラウンの特徴を伺えますか?。
出川:まずはベージュゴールドについて。ゴールドというと貴金属を想起させるので、重たいイメージにならないよう、ギラつきを抑え、カジュアルなファッションにも馴染みやすく、親しみやすいイメージを心掛けました。ゴールドのトーンを明るくして色味をほんのり赤みに寄せることでベージュっぽく仕上げてあります。こうすることで、やわらかくて軽やかな雰囲気を出しました。
続いてモカブラウンですが、暗くて落ち着いた色味の中に、おしゃれな道具感のあるような色を目指しました。ブラウンはパソコンの色としてはあまり見かけませんが、衣服やインテリア、ステーショナリーなど、生活の中では多く見られるスタンダードな色なので、コンセプトに合うカラーとして提案しました。ブラウンはともすると地味で重たい印象になりがちなので、赤みを入れて華やかさを演出しています。
雲のようにふんわりとしたイメージを目指したクラウドブルー
――続いて新色のクラウドブルーですが、どうしてこちらの色味を選んだのでしょうか?
出川:ブルーは以前よりノートパソコンでは人気の色ですし、洋服やスマートフォンなど、普段身に着けたり持ち歩くアイテムの色としても多く採用されています。また FMV CH Series は持ち歩きを前提としているため、軽さも訴求ポイントです。ですから軽やかさを感じさせるようなカラーを入れたいと思っていました。
クラウドブルーの他にも候補のカラーがあったので、開発チームで手分けして、ターゲット層である若手社員にヒアリングを実施したところ、かなりの数の若手社員に話を聞くことができました。ブルーについては「軽そう」「カジュアルで爽やか」「自分の持ち物にあう」など、狙いに合致したコメントがもらえたことも選ぶ決め手となりました。
――ではそんなクラウドブルーの特徴は?
出川:「クラウドブルー」の名前の通り、雲のようにふんわりとしたイメージです。軽さを感じさせる明るい色味の中で、「カバーの素材であるアルミならではの輝きが活きた、上質さと軽快さのバランスが取れた色合い」を目指して作りました。店頭や広告で今回の3色を並べてみたときに、ベージュゴールド、モカブラウンとは異なる色味のクラウドブルーが入ることで互いを引き立て、店頭やHPでの訴求力を上げる役割も込めています。
――クラウドブルーで苦労した点はありますか?
出川:明るく淡いブルーは、鮮やかになると幼くかわいらしいイメージに、色味を抑えすぎると堅い印象のシルバーのように見えてしまいます。軽快さを持たせながらノートパソコンとしての性能や価格にふさわしい微妙な色合いを決めるのに注力しました。
――色が決まった後の調整が大変だったと聞きました。どのあたりが大変でしたか?
FMV CH Series はキーボードやクリックパッドは樹脂、天面と底面のカバーは金属など 、異素材の組み合わせでできています。塗料で素材の色を覆っているパーツもあれば、アルミのように素材の金属光沢を活かしているパーツもあります。 同じブルーでも質感の違いが出るので一体感を持たせるのが難しかったですね。
例えば、画面周りのパーツをアルミのカバーと全く同じ色にすると、ギラつきが強くコンテンツへの集中を削ぐ見え方になってしまうと考えたので少し暗く仕上げています。全部を全く同じ色にすると抑揚が無く、閉じているときに筐体の厚みを感じさせてしまうので、軽快に見せるためにも色調を揃えながら細かい工夫をしています。
CMFデザイナーとして今後挑戦したいこと
――では最後に、今後、デザイナーとして挑戦してみたいことを教えてください。
出川:ベーシックなことですが、これまでは「時代の変化に伴う新しい考えや価値観」と「普遍的に人が良しとするモノ」それらをCMFを通して自然な形でプロダクトに落とし込むことを大事にしてきました。今後はモノに限らずコミュニケーションやデジタルの領域にも知見を活かして、自身の幅を広げていけたらと思います。