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デザインの舞台裏 #01:電子ノート『QUADERNO』

こんにちは、富士通デザインセンター 情報発信チームのコバです。
今回は富士通のデザイナーのお仕事をご紹介します。

『QUADERNO(クアデルノ)』の始まりは、富士通クライアントコンピューティングが2018年に発売した電子ノートです。

紙のようなペン先の感触は、まさに手書きの「書き心地」

画面にペンを走らせると、まるで紙に書いているかのようにすっと文字や絵が現れる。いつでも簡単に表示でき、アイデアノートやスケッチブックとしても最適。しかもPDFデータとして約1万ファイルのストックが可能。
『QUADERNO』とはイタリア語で「ノート」を意味しますが、文字通りアナログのノートのような特徴を持つ、電子機器らしからぬ電子ノートです。

『QUADERNO』は2021年の大幅リニューアルを経て、2022年にはグッドデザイン賞を受賞しました。
「デザイン」とは製品の姿形を整えるだけではなく、コンセプトやユーザーの体験、新たな製品価値を作り出す工程でもあります。

この記事では、発売以来QUADERNOのデザインをブラッシュアップし続けた3人のキーパーソンのインタビューをお届けします。


インタビュイープロフィール
富士通クライアントコンピューティング
 松下 季 : 商品企画を担当

富士通デザインセンターエクスペリエンスデザイン部 デザイナー
 森口 健二 : ハードデザインを担当
 南澤 沙良 : UI/UXデザインを担当

左から森口、南澤(富士通デザインセンター)、松下(富士通クライアントコンピューティング)

※部署名・肩書は取材当時のものになります
※この記事は「富士通のデザイン」サイトの記事のリライト版です

新しい文具の形を求めて

2018年にコンシューマー向けに発売された電子ノート『QUADERNO』。
市場からの高い評価に手ごたえを感じながら、もっと新しい層にも価値を訴求すべく、2021年にリニューアルしました。
富士通デザインセンターから開発チームに参加したのは、プロダクトデザイナーの森口健二と、UI/UXデザインを手掛ける南澤沙良の二名。二人はコンセプト立案、プロダクトデザイン、UIデザイン、プロモーションと幅広い領域に取り組みます。

『QUADERNO』開発チームが発売当初から目指したのは、この端末が「デジタル機器」ではなく「新しい文具」としてユーザーに認知、利用されることでした。
デジタルガジェットの世界では、通常、処理性能や機能といった「スペック」がアピールされ、競合品と比較されます。
しかし『QUADERNO』はスペックでは語れない使い心地、使い勝手の良さが特徴であり、それを伝えるためにはデジタルガジェットではなく「文具」として世に出したいという考えがありました。

「発売当初から、新しいスタイルの文具として、文具好きの方々へのアピールを模索していました。アナログの文具の様な自然な感覚で手書きができる、テンプレートが選べる、たくさん入れても重くならない・かさばらないなど、訴求ポイントを『文具』起点で考えることで、この製品の良さを伝えられるのではないかと考えました。
しかしデジタルガジェットとのスペック比較に陥らないようにしたにも関わらず、『アナログの紙』との比較を意識するあまり、実際のプロモーションでは機能訴求から抜け出せずにいた面もありました」(松下)

発売当初のQUADERNOは「文具」としての使い勝手や機能を訴求したものの、デジタルガジェットに興味のある方々が比較的多く購入されている、というねじれ現象も見られました。

製品コンセプトと訴求内容と実際の購買層との乖離。加えて、競合商品との違いを明確に打ち出せていなかったことも課題に挙がります。これらの反省を踏まえて、第2世代のQUADERNOの開発が始まりました。

製品コンセプトが生み出す豊かな世界観

「第2世代の開発では、最初に企画も開発もデザイナーも役割に関係なく『製品をどのように発展させたいか』をブレストしました。
この時のざっくばらんなディスカッションが、今につながる起点だった気がします。これまでの課題や反省点も踏まえての議論になりました。第1世代のユーザーヒアリングや、第2世代に向けたストーリー作りなどでも、デザインセンターさんにはご尽力いただきました」(松下)

富士通クライアントコンピューティング 松下

そうして生まれたのが「良質な思考時間をあなたに。(A part of your brain)」というブランドコンセプト。
この言葉を軸にしたことで『QUADERNO』の豊かな世界観を生み出すことに成功します。ターゲットも「良質な思考時間」を求めるすべての人々へと広がりが生まれました。

「第2世代『QUADERNO』のデザインはコンセプトを具体化したものです。“良質な思考時間を促す”使い心地にこだわりました」と、森口は話します。

例えば、アナログノートは軽く取り扱いやすいからこそ、どこにでも持ち運べるツールとして愛されるのではないでしょうか。
そこで第2世代『QUADERNO』では、第1世代に細かなデザイン変更を施して軽量化を図りました。そのひとつがボディ背面の曲面形状です。
中央の厚みは初代機から変えず、側面に向かってなだらかなアールをつけることで可能な限り薄く見える、感じる工夫を施しています。

ここには森口が手掛けてきた携帯電話のデザイン経験も生かされていました。

富士通デザインセンター 森口

「携帯電話やスマホもかつては角張ったデザインが流行ったことがありましたよね。しかし、角を立てすぎると手に持ったときに違和感が生じて、不快に感じることがあります。
だからこそ手の触れる部分の丸みには細心の注意を払う必要がある。形状を決めるときには見た目はもちろん、“触り心地”をとても意識しました」(森口)

また、コンセプトに合わせてアクセサリーもリデザイン。
本体カバーはスウェード調で落ち着いた風合いのベージュと、ややツヤのある上質なレザー調でマットな質感のネイビーの2タイプを用意して、カラーバリエーションを出しました。

「ノートや手帳はカバー選びも楽しさのひとつですからね。またカバーが重くなると製品の軽さを追求した意味がなくなるので、本来樹脂でつくる芯地を紙材に置き換えて、軽さや薄さを担保しました」(森口)

お気に入りの文具を揃えるような体験

UI/UXデザインも第2世代へアップデートされました。機能面で追加されたのが「筆圧検知」。ぐっと力を入れて書けば画面上の線が太く、力を抜いて書けば細い線が描かれます。この機能を十分に生かすために、万年筆や筆ペンなど様々なペンツールも搭載されました。

とはいえ、いたずらに選択肢が増えてもユーザーにとって良い操作体験とは言えません。選択肢が増えれば選ぶ手間も増えます。
そこでUI/UXデザイナーの南澤が立ち返ったキーワードは「文具」でした。

「具体的には“ふでばこ”です。自分が使いたいペンをあらかじめ選んでおいて、必要なタイミングでさっと取り出す感覚。そうしたアナログでは当たり前の動作をQUADERNO上で展開しようとしました」(南澤)

富士通デザインセンター南澤

QUADERNOに搭載されている4種類のペンは、それぞれ「4段階の濃淡」と「5種類の太さ」が選択できます。ペンの種類ごとに、好みの濃淡と太さの組み合わせを設定しておくことで、ふでばこに入れてある「お気に入りのペン」を簡単に持ち替えるような体験ができるようにしました。

逆に“あえて”採用しなかったUI/UXもあります。
例えば「縦スクロール」。スマホやタブレットでは当たり前の機能がなぜ実装されていないのでしょうか。

「電子ペーパーディスプレイは液晶と比べ、どうしても表示速度の面で劣ってしまいます。優れたUI/UXは不便や違和感を“感じさせない”ことだと思うので、違和感や後付け感があるような操作や機能は採用しませんでした」(南澤)

続々と届いた、新たなユーザーからの共感の声

2021年に第2世代の『QUADERNO』が発売されると大きな反響を呼びました。それまでのメインユーザーであった中高年の男性に加え、より若年層の方々、学生や女性からも注目されるようになったのです。

「デザインの下書きに最適なツールです」
「手書きで記憶が定着する。司法試験にはQUADERNOで受かったようなものです」
「アイデア出しや情報共有に便利です。企画や制作業務には欠かせません!」

上記はSNSに寄せられたコメントの一部です。
ハードとUIに込められた「良質な思考時間」というコンセプトは、ユーザーに確実に届いていたのです。

そして2022年のグッドデザイン賞に選出。受賞作品の中から審査委員がお気に入りを選ぶ「私の選んだ一品」にもセレクトされました。
さらに「DFA Design For Asia Awards」や「iF DESIGN AWARD」 「IAUD 国際デザイン賞」といった海外のデザインアワードも受賞するなど、日本だけでなく世界でも高い評価を得ています。

「こうしたアワードで評価いただけてとてもうれしいです。自分たちのモチベーションにもなるし、マーケティング的にも訴えやすくなる。
そしてまた大勢の方にQUADERNOを手にとってもらえる機会が増えるわけですから」(森口)

QUADERNOは新機能の追加や改善など今もアップデートを重ねています。例えば、参考書の一部をマーキングすると文字を消したり、また見せたりする「暗記モード」もそのひとつです。

「学生時代の自分が使っていた緑マーカーと赤の下敷きをイメージしてUI/UXも考えました。ぜひ体験してほしいですね」(南澤)

良質な思考時間、それは年齢や職業に関係なくあらゆる人が心ゆたかに過ごす時間だと私たちは考えています。
進化し続ける『QUADERNO』はこれからも良質な思考時間を提供し続けます。デジタルを感じさせないほど、ごく自然に。