富士通デザインセンターに日本酒部がある理由
デザインセンター日本酒部は、富士通徳島支社の独自プロジェクト「徳島県の酒蔵を元気にするプロジェクト」への参加を宇田デザインセンター長が呼びかけ、日本酒が好きだったり興味があったりするデザイナーたちが手を挙げたことから始まりました。
徳島県は全国で日本酒の生産量が最下位(国税庁調べ)。小さな酒蔵が多く、知る人ぞ知る名酒がありながらも、県外であまり知られていません。徳島支社のプロジェクト発起人は、実家が今は廃業してしまった元酒蔵で、それゆえ、徳島県の日本酒と酒蔵を何とかしたいという課題感を強く持っていました。
日本酒部のメンバーは「徳島県の酒蔵を元気にするプロジェクト」と並行して、自分たちが日本酒に対して抱く「問い」にアプローチする二つのプロジェクトを立ち上げました。一つは「日本酒に出会う」体験の“リデザイン”を目指す「リデザインPJ」、もう一つは Z世代の若者向けに日本酒をリデザインすることを目指す「Oni-yoroshi PJ」です。
「リデザインPJ」ー五感で日本酒と出会いなおす
普段日本酒を飲まない人にとって、「甘口」や「辛口」といった味を表現する用語に馴染みがなく、種類や価格の幅もあり、日本酒を飲むことへのハードルがすごく高いのではないか?
もっと気軽に日本酒を体験してほしいという想いから、デザイナーが得意とする具現化(インフォグラフィックやボトルデザインなど)で「日本酒に出会う」体験のリデザインを試みました。社内イベントでは日本酒をもともと好きな人も、興味があるけど初心者だという人も集まり、それぞれの出会いを楽しめることが検証できました。
リデザインPJと社内イベントの様子はこちら。
「Oni-yoroshi PJ」ー若者のための日本酒の飲み方をデザインする
こちらのメンバーは若者の日本酒離れをデザインアプローチで解決することをテーマに活動をスタート。Z世代へのリサーチから、プロトタイピングと検証を回してブラシュアップする仮説検証型で進め、「好みの味やラベルを自分で選んで楽しめる日本酒体験」に至ります。
アイデアの具体化のために複数社の酒造メーカーに問い合わせたところ、日本盛様に課題感について共感いただき、共同研究のプロジェクトがスタートしました。
プロジェクトを進めていく中で、日本盛様からご提案いただき無印良品での日本酒ワークショップ開催が実現しました。
イベントはボトルデザインだけでなく、「旨味」や「辛口」といった既存の表現を使わない味の表現や合わせるおつまみの新提案など日本酒を自分らしく楽しむ体験を提供することができました。
Oni-yoroshi PJ×日本盛×無印良品イベントの様子はこちら。
日本酒の課題は社会の課題
日本酒、特に地酒は、地域・水・コメ・製法などによって多種多様な味を醸し出し、その多様性や独自性を楽しむ愛好家やインバウンドに人気の酒蔵では、日本酒が地域活性化に一役買っていたり、酒蔵の持続にもつながっているようです。
一方で若い人が取りこめておらず、次世代に引き継いでいけるか酒蔵にもメーカーにも危機感があるのも事実です。マニアックな難しさを愛好するだけでは、「日本酒=むずかしい」と新しい層の開拓は難しいでしょう。美味しさを期待させる「吟醸」や日本酒名の漢字すら、若者にはネガティブに映ることもあります。
ご紹介した二つのPJはどちらも、日本酒業界の問題を日本の伝統文化にまつわる社会課題ととらえ、日本酒エントリーの心理的境界線をなくすことに挑戦しました。エントリー層に向けて再構築された日本酒体験を提供した今回の試みは、日本酒に限らない他の伝統文化に対しても、新たな展開や活性化のヒントが隠されているかもしれません。