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ノートPC FMV UH Series -今までになかった“色”への挑戦


2023年度のGOOD DESIGN AWARDを受賞した富士通のノートPC FMV UH Series。今回は業界としては挑戦ともいえる「フロストグレー」を新色として打ち出しました。この記事では、普段あまり表に出ることのない富士通のCMFデザイン担当者にインタビュー。FMV UH SeriesのCMFデザイン決定までのプロセスをご紹介します。

CMFデザインとは、ユーザーがモノと出会ったときに感じる第一印象に深く関わる「モノの表層」を構成する要素です。 CMFとは「COLOR(色
彩)」「MATERIAL(素材)」「FINISH(加工)」の頭文字をとったもの。
ユーザーが手に取った時「いい触り心地だな」「素敵な色だな」と感じる製品を生み出すために、CMFデザインは重要な役割を果たしています。

ノートPCのCMF開発プロセスには、

  1.  カラーディレクション:  トレンド調査から色の方向性を検討

  2.  CMFの具現化 : 色味や質感を詳細に決める

  3.  デザインエンジニアリング : それらを量産可能な状態に落とし込んでいく

という3つのフェーズがあります。

今回の記事で取り上げる FMV UH Series は14.0型ワイド液晶搭載ノートPCとして世界最軽量、689gのモバイルノートPC。持ち運びをためらわせない圧倒的な軽さと、出先の作業性を最大化する機能を盛り込んだ、自由な働き方を支える一台です。 新シリーズはピクトブラック、シルバーホワイト、フロストグレーの3色展開。新色のフロストグレーは、富士通としては挑戦とも言えるカラーだったそうです。


CMFデザイナーをご紹介

――3人の主な役割を教えてください。

深谷:人々の暮らし方や行動など、ライフスタイルに関する価値観の経年変化資料をチームで共有し、時流に合わせて「今後はこうしていくべきではないか」という提案をしています。

土居:デザインが持つ“伝えたいメッセージ”などを汲み取ってCMFに落とし込んでいます。今回は主に新色のグレーについて、プロダクトチームと一緒にディスカッションしながら方向性を決め、CMFをリードしていきました。

宮村:塗料開発と外観監修を担当していて、量産開発においてデザイン品質を担保する役割を担っています。

――では深谷さんからお話を伺っていきます。カラーディレクションはどのように進められたのでしょうか?

深谷:今回ご紹介するFMV UH Seriesは機能性が高く、ビジネスシーンでの活躍が期待される一台なので、そこを意識しました。プロツールとしてのストイックさに加え、現代の価値観に合うミニマルさも表現したかったので、黒・白・グレーといったモノトーンを提案しました。

――色の提案をするにあたり、どのようなことを意識しましたか?

深谷:UHのCMFを開発していた時期はコロナ禍真っ只中でした。また、厚生労働省による “働き方の多様化” の動きもあり、働く場所や時間、服装も大きく変化し、ビジネススーツで仕事をする必然性も少なくなってきました。 こうした生活の変化に伴い、パソコンの色選びにも柔軟性が出てきていると肌で感じました。
UHのメインターゲットであるビジネスパーソンから若い世代にも視野を広げ、彼らにも響く色は何だろうと考えたときに、グレーならニュートラルかつジェンダーレスなかっこよさを表現できると判断しました。そこからはメリットやデメリットなどを関係者間で議論を繰り返し、納得感を高めるために様々な資料を提示しました。


――続いてCMFメインデザインを担当された土居さんに伺います。色づくりで工夫した点はどのあたりでしょうか?

土居:まずどんなグレーが良いのか、チームみんなが悩みましたね。同じグレーでも仕立てによってはのっぺりした一世代前の事務機器のようになってしまいます。新たなターゲット層である「Z世代」にも響くものということを視野に入れ、まずはグレーの大きな方向性を決めるためにアイデアを出しあいました。
大変だった点は、色の方向性が決まってからモック製作会社(※1)で調色を行う際に納得のいくグレーを出すまでは結構時間がかかったことです。

 ※1 モック:モックアップ
    製品の外観の検討や機能の確認のためにつくられる模型のこと

――具体的にはどのようなグレーを目指しましたか?

土居:やはり“ぺったりした印象”になるのは避けたかったので、そこは常に意識していました。どうしてもソリッドカラー(※2)だと光が当たった時の陰影が見えにくいため、造形がぼやけてしまいます。特にパソコンの形状ではそれが如実に現れてしまうため、その印象から脱却する工夫をしつつ、かつ”癖のあるグレー”にはならないようにコントロールするのに、とても時間がかかりました。
特に今回はパールの配分量に拘りましたね。色味としては暖色系のグレー、そこにパールを少し施すことで、持ち歩いている時やPCの開閉時など筐体を動かした時にふんわり柔らかな表情が出てくるような色を目指しました。

※2 ソリッドカラー:原色だけの組み合わせ

――本体と印刷文字のバランスで注意した点はありますか?

土居:実はパールで少し表情が出てくる色や中高明度の色にすると、 FUJITSUのロゴやキーボードの文字など、印刷部分の明度のコントラストがつけにくくなり、調整がとても難しくなってきます。 一体感を持たせたくても、本体と印刷の色を寄せすぎると印刷の文字が馴染みすぎて見えなくなる、逆にロゴなどが目立ちすぎるとユーザーから敬遠される、そのバランスは慎重に考えていきました。最終的には、チーム全体が納得する統一感のある色ができたと思います。

グレーの筐体+印刷文字の組み合わせ

――表情と視認性を兼ね備えたグレーなんですね。フロストグレーという名称も素敵です。

土居:このグレーの名称は悩みどころでした。先ほど「パールで表情を出した」とお話しましたが、「パールグレー」だと女性向けの印象を与えてしまう懸念もあります。ジェンダーレスな名称であることを念頭に検討を重ねた結果、軽やかなイメージの「ミストグレー」、知的で落ち着いた雰囲気の「スマートグレー」、心地良い印象の「コンフォートグレー」、倫理的な姿勢を感じさせる「エシカルグレー」などが候補として残り、最終的には、まさに霜降りのようなやわらかさが伝わる色として「フロストグレー」を採用していただきました。

――宮村さんは量産開発に向け、デザインエンジニアリングではどんなことに気を配りましたか?

宮村:一番大切にしたことはカバーを開けた時の色の一体感なので、 本体やキーボード、タッチパッドなど異素材のものを同じ色にそろえる作業に特に気を使いました。同じフロストグレーという色であっても本体、キーボードなど部材ごとにメーカーが異なり、それぞれの工場で製造するので、更にハードルが上がります。そのようにしてできたメーカーサンプルとデザイン見本との違いを見極めて、適切なコメントバックを繰り返しながら、各メーカーの色をそろえていきました。量産開発プロセスでは、調和性に細心の注意を払いながら、メンバー全員が納得するまでサンプルチェックを実施しました。


フロストグレーは挑戦だった

――フロストグレーという色は「挑戦」と捉えられているそうですが、なぜでしょうか?

深谷:一つはグレーという色を選んだことです。理由は、人の目は明暗差を感じやすいため、グレーの塗装色はちょっとの個体差でも別の色に見えてしまう可能性があり、量産時の難易度が高いと予想されました。たとえば印刷業界では印刷屋泣かせの色とも呼ばれているそうです。
二つめは社内で「金属調」が最も売れる色とされている中、「ソリッド調」に近いこの色に挑戦したということです。金属色はこれまでの実績により、高級感や先進性を印象付けやすく、実際に市場評価も高いCMFです。たとえばMacBookに見られるアルミ素材のシルバーなどです。同じように家電や家具に金属調を用いることは、ざっくりいうと「金属調=高級=売れる」くらいの効果があったそうです。
ところが、サステナブル意識の高まりといった時代の流れにより、人々の意識にそこが必ずしも重要ではないという心理が優勢になってきました。わたしたちデザイナーはその変化を早々にキャッチし、「金属色こそが至高」という潮流に切り込んでいきました。

しかしこうした考えを社内に周知し、納得のいくまで説得するのは困難であり、ある意味、今回はそこが「挑戦」でしたね。


CMFデザイナーとしてのモチベーションと今後挑戦したいこと

――ではお三方が仕事でモチベーションが上がるのはどんな時ですか? 

深谷:先ほどの「金属調=高級=売れる」という過去の成功体験からくる定説は、デザイナーみんなが気にしているところです。ですから他業界のインハウスデザイナーと意見交換をする場で、今回のフロストグレー発売について語ったところ、その場にいたデザイナーたちから感嘆の声があがりました。どうやって周りを説得したのか、商品化までこぎつけたのか、など色々と聞かれました。
インハウスにおけるCMF開発の大きな障壁を突破したこの色への称賛はモチベーションが上がります。拘り続けたかいあってフロストグレーの売れ行きがいいという話です。やっぱり嬉しいですよね。

土居:世の中の良いデザイン(モノ・空間全て)に触れることが、わたしにとってのモチベーションのひとつになっています。ワクワクする反面、自分もしっかりと責任もってデザインを出していかないと、と気持ちが引き締まります。今回のフロストグレーを作ったことで、モノトーンのカラーバリエーションを世の中に出せたことは、UHの世界観をCMFで表現出来たと言える、とても貴重な経験でした。

宮村:モチベーションの源泉は、人に喜んでもらうこと。 自分はもとより、開発関係者が納得できる商品が出来上がった時ですね。 デザイナーや設計者と協力しながら、時には海外ベンダーとコミュニケーションを図りながら、様々な調整を重ね、最終的に良い所に落とし込めた時はすごく嬉しいです。
 
――CMFデザイナーとして今後挑戦してみたいことはありますか?

深谷:今、富士通のCMFチームでは、かねてからのフィジカルデザイン(※3)スキルを活かし、デジタル3D技術を応用したバーチャルのCMFにもチャレンジしています。どんなアウトプットが生まれるかワクワクしています。
※3 フィジカルデザイン:リアル製品のデザイン

土居:デザインセンターの様々な部署から有志が集まって活動している日本酒部に参加したのですが、CMFデザイナーとしてボトルのデザインをするなど、とても有益な体験をさせていただきました。今後は日本酒部に限らず、CMFデザイナーの知見を活かせるように横のパイプを少しずつ広げていきたいですね。

宮村:これからも人に喜んでもらえる方向に価値創造していきたいですね。特に、サステナブルな価値とデザインの価値がバランス良く組み合わさった持続可能なデザインの探求に取り組んでいきたいと考えています。