メディアが報じない大阪都構想・3つの基本概念
1、 はじめに
住民投票、再び
大阪都構想については、前回(2015年)の住民投票の前、特に関西地域ではその内容が連日報道された。それから4年ほどが経過した2019年1月現在、大阪では、2度目の住民投票を巡って、議論が白熱している。
メディアの解説
しかし、メディアで大阪都構想について解説するとなると、丁寧に説明しようとするあまり、どうしても設計図そのものを具体的に紹介することになる。すなわち、区割りやその名称、二重行政の解消といった、イメージしやすい変化の説明に時間が割かれる。もちろん、設計図は大事であるし、視聴者がイメージしやすい解説は理解に資するのは言うまでもない。
この文章について
その一方で、大阪都構想が果たす大きな3つの概念については、その内容が抽象的かつ都構想実現後の大阪府についての内容のため、イメージしづらい部分がある。今回はあえてその3つの基本概念を考えていきたい。
なお、冗長化を避けるため、今回は大阪都構想そのものについてはあえて解説しない。そのため、基礎知識を前提とした文章となる。
また、文章を都度更新する可能性があることを最初に記しておく。
2、 大阪市と大阪府の対立「二重行政の解消は本丸ではない」
大阪市はいわゆる政令指定都市(※注1)であり、本来は大阪府(以下、「府」と記す。)が行う行政事務のうち、いくつかの分野を大阪市が行っている。これは、中央集権に対する地方分権のもたらす意味(※注2)からすれば、正しいようにも思える。事実、大阪市は様々な分野で府と対立(※注3)しつつも、大阪市民のために市内の発展に全力を尽くしてきた。
しかし、その一方で大阪市と府でいわゆる二重行政が発生したり、大阪市の権力強大化に繋がった。
ここで気をつけないといけないのは、いわゆる政令指定都市であることが大阪市の発展に影響しているのは間違いないが、政令指定都市とは関係のない分野においても、大阪市は府と対立してきたという点である。(※注4)
つまり、政令指定都市の指定を外したところで解消されるのはせいぜい一部の二重行政くらいであり、府域全域の発展を考えた大阪都構想の目指すところには至らないという点だ。
二重行政の解消はあくまで前提条件であり、その先の広域行政の円滑化こそが大阪都構想の大きな意義である。
(※注1)実は政令で指定される都市はたくさんあり、それらも政令指定都市であるが、ここでは、一般的に使われる、中核市よりも権限を持つ都市である、政令指定都市について言う。
(※注2)大きな行政単位が持つ様々な権限を小さな行政単位に移すことで、その地域に応じた行政サービスの提供、地域の発展を実現するという意味。
(※注3)大阪市と大阪府の対立は「府市合わせ」と呼ばれ、府民にとっては長年の常識と化している。
(※注4)分かりやすい例として、1970年に開かれた日本万国博覧会(いわゆる大阪万博)の際、大阪の大動脈である(当時の大阪市営地下鉄)御堂筋線の延伸の際、大阪市域までは延伸したものの、会場までの残る部分については延伸せず、結果、その部分は大阪府と阪急電鉄が出資する、「北大阪急行電鉄」が設立され今に至る、というものがある。
3、基本概念その1「広域行政の円滑化」
大阪都構想では、対象となる市町村(2019年1月現在では、「大阪市」のみ)が扱う、一部の行政サービスが府に移管される。移管されるのは、その市町村単位で扱うよりも府全体を俯瞰的に見て、包括的に管理する方が府域全域の利益に資するような分野である。
これにより、従来大阪市がもっていた一部の権限が府に移るため、府は府域全域での一貫したサービスの提供が可能になる。(※注)
つまり、第2項目で述べたような府市の対立を「構造的に不可能なもの」にするのが、大阪都構想である。本来は府が府域全域の発展のために整備・提供したかった「広域行政」を大阪市と対立することなく、円滑に遂行することができるようになる。
(※注)正確には、大阪市以外にも堺市がいわゆる政令指定都市であるため、政令指定都市制度に関わる事務は堺市域以外での提供となる。
4、 基本概念その2「狭域行政の充実」
大阪都構想では、現在の大阪市は廃止され、新たに特別区が設置される。この特別区は東京23特別区と同じく、他の市町村と同じような権限を持ち、公選の区長や議会なども設置される。(※注)
つまり、現在の大阪市域の中に、複数の新たな市町村が誕生するようなものである。これにより、現在大阪市域で行われている行政が細分化され、行政の管轄範囲が現市域よりも狭くなるので、狭域行政が充実することになる。また、これまで大阪市という広い範囲の議会しか存在しなかった場所に地域ごとに議会が設置されるため、地域に応じた政治・行政の展開が期待される。
(※注)その他のいわゆる政令指定都市にある、「区」は「特別区」とは異なり、公選の区長やその区単独の議会は持たない。
5、 基本概念その3「大阪市役所・組織の解体」
第4項目でも述べたように、大阪都構想では現在の大阪市は廃止されるため、当然市役所や関連する組織は解体されることとなる。実はこれこそが、大阪都構想の大きな狙いの1つではないか、とも思える部分である。
長年大阪市役所・組織が抱える問題点や、毎回の大阪市長選挙絡みで、一部から問題視される点について、大阪都構想はこれらを是正しようという狙いがあるのではないか、と見られる。
もちろん、問題を抱えていると捉えるかどうかは人それぞれであるが、大阪都構想に反対する人の中には、大阪市役所・組織の解体を嫌う人がいるであろうことは想定される。
6、 まとめ
これらの「3つの基本概念」をまとめると、大阪都構想は、
(1)「広域行政の円滑化」=強大な権限をもつ大阪市の廃止によって、府域全域の活性化に繋がる。
(2)「狭域行政の充実」=現大阪市域に複数の自治体が設置され、地域に応じた行政の提供が可能になる。
(3)「大阪市役所・組織の解体」=現在の大阪市役所・組織が解体されることで、諸問題が解決される。
という3つの重要な要素を持っていることが分かる。もちろん、大阪都構想が実現したからと言って、全ての問題が解決するとは限らないが、制度上は今よりも諸問題が解決される、ということになる。
特に、(1)「広域行政の円滑化」については、地政学的にも重要な要素である。というのも、大阪市は府域の中心部に位置しているため、府が広域行政を行おうとしても大阪市が非協力的である場合、地理的に必ず大阪市域で分断されることになる。これを解決できるのであれば、大阪都構想が府域全域の発展にもたらす影響は絶大なものとなるだろう。
現在は、大阪市長と府知事が同じ方向を向いて協力関係にあるが、それを人間関係に依存しない制度上の仕組みにするのが大阪都構想だ。