冬芽のマイクロノベル 他3篇 #37
アブラチャンの冬芽は春が嫌いだった。もう少し寝ていたいのに、春が来ると葉を伸ばさないといけない。春がやって来たらぶっ飛ばしてやると、花芽のパンチをかまえているが、実はその中にこそ春が仕込まれているのだ。
オオカメノキの冬芽は、両手を合わせ拝むようにして春を待つ。一本の木には何百となく祈る手が芽吹き、百本ともなればそれは何万もの祈りとなる。それが、オオカメノキ教の始まりとされる。さあ、あなたもご献木を。
クルミの冬芽は、ちょっと眠たそうな駱駝な顔をしています。クルミの枝の小隊は、冬の砂漠をはるばると静かに越えて行きました。頭の上には、金の冠、いえいえこれは春の冠。冬を渡りきったときの備えでございます。
雪の降り積もった朝、ドウダンツツジの蝋燭が、雪を溶かして点ります。春が近づくと、冬芽の炎はますます赤く大きく、やがて白くなって燃え尽きるかと思う頃、中から鈴を出してみせるお茶目な手品師でもあるのです。
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