「キツネアザミ」のマイクロノベル 他3篇 #47
昔々、狐と狸が薊の化け競べをしたそうな。狐は棘を忘れてキツネアザミになってしもうた。狸は尻尾も出さずあまりにうまく化けたので、ただのアザミになってしもうた。そこのアザミ、もしかしたら狸かも知れへんよ。
オダマキの花びらの突き出した部分は距というてな、この奥に蜜がある。これを吸うのは蝶でもなければ難しい。だが舌を思い切り細くして差し込めれば、ほのかに甘い。まあこれが出来るのは、世界でも五人しかおらん。
桃色昼咲待宵草、ここに見える影の雄しべを影の雌しべにつけると、そのうち種子ができて影だけの待宵草が発芽して……またそんな話。でも日が暮れると影も消えて、みんな無くなってしまうから。もちろん、あなたも。
おぬしも悪よのう。菓子折の底に敷き詰められたコバンソウの実は、いつの間にか逸脱して江戸の町中に広がり庶民の懐を潤したそうだ。導入は我々の世界では明治時代と記録されるので、別の時間線での出来事であろう。
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