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キッチンのダイヤモンド、白トリュフの祭典
トリュフには色々な種類がある。色々を大雑把に分けると、白と黒、ということらしい。白はその香り高さが際立っているとされている。
トリュフは言わずもがな世界三大珍味として知られるキノコの一種だが、黒トリュフはフランスが主生産地、人口栽培も可能であるのに対し、白トリュフはイタリア北部が生産地で、自然に育つものを犬(昔は豚)を使って収穫するという違いがある。結果として、白トリュフの方が収穫量の制約があり、希少性が高くなる。また、収穫後8日以内に消費しなくてはいけないというのだから、消費も収穫時期に限定され、レア度は一層高まる。収穫、消費の規制も厳格で、レストランで白トリュフを提供するにも認可が必要らしい。
そんな白トリュフの一大生産地が、イタリア・ピエモンテ州にある、アルバという町。ここで10月から11月にかけて7週間にわたって白トリュフ祭り(The International Alba White Truffle Fair)が開催される。今年で第89回目を迎え、10月5日から11月24日までの開催である。先週末トリノ経由でこのトリュフ祭りに参加してきた。
活気溢れるトリュフ祭り
入場料は3.5ユーロ。会場内には白黒トリュフの陳列の他、地元のワイン、チーズ生産者がブースを設け、試食販売を行っている。会場の奥には、有料のワイン試飲と簡単な食事ができるコーナーも設けられていた。入場したばかりの11時頃は人もまばらだったが、徐々に人で溢れ、押しのけて進まなくてはいけない場所もあるほど。
ワイン試飲券は、グラスとワイン2杯で9.5ユーロという価格で決して安くはない。アルバの近くには、バローロとバルバレスコというイタリアワインの名産地があり、それを味わいたいと思い購入したのだが、会場内のワイナリーのブースでもかなり試飲させてもらえたので、マストではなかった。ワイナリー巡りをせずとも、ワイン農家から直接かなり丁寧に英語で説明してもらうことができ、気に入ったワインも購入できたので、とても満足。
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もう一つのハイライトは、"Foodies Moments"というミシュラン・レストランのシェフによるクッキングショー。週末のお昼と夜に毎回違うシェフが担当しているらしい。事前のチケット購入が必要で、入場料と合わせて36ユーロ。1週間前にはほとんどが売り切れていたので、早めの購入が重要。
開始前にはアペリティフとして、アルタランガというイタリアのスパークリングワイン(製法はシャンパンと同じ)と地元のオリーブオイルをつけたバンケットが振舞われた。シェフが料理の仕方をイタリア語で説明し、司会の人が通訳も兼ねて英語で説明してくれる。そこでできたのがこのアンティチョークとリンゴ。ここにトリュフのペッパーと塩があしらわれる。とてもシンプルな料理。
希望者は”I want truffle”のサインを上げて白トリュフを削ってもらうという仕組み。迷ったけれども、せっかくの機会と思い、札を上げた。もちろんタダというわけにはいかず、この量でなんと28ユーロ!市場価格ということらしい。
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香りは本当に抜群。ヨーロッパ版マツタケ。黒トリュフとは異なる群を抜いた香り高さで、目の前で削ってもらう瞬間から香りが溢れていた。
この後また会場内に戻って試飲試食を続けて、トリュフ祭りを終えた。なお、町自体でもこのトリュフ祭りに合わせてイベントを開催しており、中世のコスチュームを着たスタッフが飲食、ゲームのテントの下で待ち受けており、そちらも楽しめた。
白トリュフと美食とアルバの成功
白トリュフは一大産業になりつつあるらしい。まず、白トリュフは先述した理由から希少性が高く、美食家の需要があることから、高い値がつく。例えば、2017年には香港人が850gの白トリュフに75,000ユーロ(1千万円近く)を支払ったという。
最近は、白トリュフの売買のみならず、関連する地域イベントやトリュフ収穫ツアー、ハイキング、料理教室、テイスティング等が多く開かれるようになり、2018年だけで、12万人年間が白トリュフのために各地域を訪問し、その経済効果は6,300万ユーロに及んだという。この白トリュフ産業の中心がアルバである。世界各国からの観光客が来るようになり、中国、ブラジル、オーストラリア、ドイツ、ベルギー、オランダ、イギリス、日本から多く来るという。実際日本人の多さには驚かされた。
更にアルバは白トリュフだけでない。ヘーゼルナッツの特産地でもあり、ヘーゼルナッツのペーストを基にしたヌテラを製造する、Ferreroもアルバ発祥らしい。更に、ワインの産地も近くに隣接している。美食の町たらしめる要素に恵まれているのである。
白トリュフ祭りの立役者
Giacomo Morra-今では驚くほどの高値で取引される白トリュフも、この人が現れるまで見向きもされていなかったらしい。トリュフと言えば、フランスの黒トリュフであった。この地域に生まれたモラ氏は白トリュフがかつて領地の貴族に愛されていたことに目を付けた白トリュフを扱うショップを作り、地元で成功、1929年、最初の白トリュフ祭りを開催し、多くの人々を引き付けたのである。しかし、その後、第二次世界大戦で停滞してしまう。
それでも更に白トリュフを国際社会の舞台へ押し上げたのがモラ氏のすごいところ。旬の最も良い白トリュフを世界各国の著名人に送り、魅了したのである。トルーマン米大統領、チャーチル英大統領、マリリン・モンロー等枚挙にいとまがない。白トリュフは世界中の美食家たちの憧れとなり、白トリュフのアルバのブランドが確立したのである。
地域の名産品を世界ブランドにどのようにしていくのか。世界的に有名なものは、日本だと神戸牛は思い浮かぶがなかなかその後にパッと出てくるものがない。日本のご飯は美味しいのに、何だかもったいない。アルバの白トリュフに見られるように、どこどこの●●を世界に売ることができれば、物を売るだけでなく、加工食品や観光と裾野を広げることもできる。日本のグルメももっと知りたいと思う旅であった。