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積みすぎたシニスター 【つらつらと思いつくままに最近のアメコミ/X-MEN雑感を綴る回】

〝積み〟を〝罪〟と言い換えるのはぼくたち読書好きがよくやる言葉遊びだが、個人的には、積読に罪悪感を覚えるような地点はとうに行き過ぎ、デジタルに移行して物理的な積みの意識すら消えた今、永劫裁かれることのないひとりの未読者として空の本棚の前に佇むのみである。

 こんなわけのわからないことを書いてる間にいったい何冊のX-MENを読めたと思ってるんだ貴様、というのが今回のテーマです。

SINS OF SINISTER

 生きている島〝クラコア〟に新たなミュータントネイションを打ち立てた2019年以降のX-MENシリーズ、その最新長編SINS OF SINISTERを読みました。

クラコア以降では断トツの傑作!

 赤いダイヤモンドが世界を覆い、すべてがシニスターと化す——。

 死と引き換えに時を巻き戻す転生能力者、モイラ・マクタガートをクローン増殖し、大量の〝セーブポイント〟を確保したミスター・シニスターは、飽くなきチャレンジの末、ミュータントの蘇生技術レザレクション・プロトコルに遺伝子介入し、プロフェッサーXらを〝シニスター化〟することに成功する。
 悪鬼の支配下に落ちたミュータント評議会クワイエット・カウンシルは、以降10年でヒーローやヴィランを次々と謀殺。ついに世界をほぼ手中に収めたシニスターだったが、人格が独立し制御を失いつつあるカウンシルに業を煮やし、再びモイラを用いたタイムラインリセットに踏み切る。しかし、保存していたモイラクローンたちは忽然と姿を消し、シニスターもこの悪夢から脱出できなくなってしまう……。

 かくして幕を開ける、争いのミュータント千年史。種の生き残りを賭けて銀河征服に乗り出したクワイエット・カウンシル。彼らの魔の手を逃れ復讐の機会を窺うミュータント惑星アラッコの女王ストーム。そして地獄の未来に取り残されたダイヤと暗躍するスペード・クローバー・ハート、異なるスートを額に掲げた4人のシニスターたち。時の果てで覇権を握ったのははたして誰か?

 Kieron GillenAl EwingSi Spurrier、3人のライターが脚本を手掛ける『SINS〜』は、Gillenが担当するIMMORTAL X-MENとEwingが受け持つX-MEN: RED、そしてSpurrierのLEGION OF Xの3誌のクロスオーバーイベント。
 クワイエット・カウンシルを中心としたポリティカルな群像劇のIMMORTAL誌、ストームを主人公に惑星アラッコのミュータントチーム・ブラザーフッドの活躍を描くRED誌、信仰に代わる新しいミュータント倫理〝The Spark〟の下、ナイトクローラーリージョンらがクラコアの新しい正義を模索するLoX誌。広大なミュータントネイションの中に異なる視点を置くこの3誌もシニスターによって暗黒の未来へと舵を切り、それぞれ誌名をIMMORAL X-MEN〉〈STORM AND THE BROTHERHOOD OF MUTANTS〉〈NIGHTCRAWLERSと変更。それまでの各誌展開を引き継ぎながら、イベントのストーリーを進めていく、という趣向。

左から、元X-MEN RED、元IMMORTAL X-MEN、元LEGION OF X

 1月末から4月にかけて、MARVEL/X-MEN周辺を盛り上げたイベントですが、ぼくは最終号のSINS OF SINISTER: DOMINIONが出てから、つまりほんの1週間ほど前にやっと、お箸でかきこむように全11号を一気読みする羽目になりました。いや別に〝羽目に〟ってこともないけど……要は、イベントの手前の号を積みすぎていたのです。
 てっきり、3つのミニシリーズを序章と終章のワンショット誌で挟んだオムニバス形式なのだろうと思って、ひとまず最新号まで追いつけているIMMORTAL=IMMORAL誌、RED=STORM AND~誌だけ読むつもりでいたら、全11冊にはきちんと通しの話数が振られ、一本の長編として読んでいく作りになっていて。

SINS OF SINISTER リーディングオーダー

PART 1: SINS OF SINISTER #1

【YEAR 10】
PART 2: STORM AND THE BROTHERHOOD OF MUTANTS #1
PART 3: IMMORAL X-MEN #1
PART 4: NIGHTCRAWLERS #1

【YEAR 100】
PART 5: IMMORAL X-MEN #2
PART 6: NIGHTCRAWLERS #2
PART 7: STORM AND THE BROTHERHOOD OF MUTANTS #2

【YEAR 1000】
PART 8: IMMORAL X-MEN #3
PART 9: STORM AND THE BROTHERHOOD OF MUTANTS #3
PART 10: NIGHTCRAWLERS #3
PART 11: SINS OF SINISTER: DOMINION #1

 ひー。LEGION OF X誌 全10号、丸々積んでる……。

大幅遅延中: ぼくのクラコア征服計画

 もともとアメコミ読者としてのぼくの本籍地はMARVELで、特にX-MENには、いいときもそうでないときも見守り続ける地元チームのような意識があります。
 なので2019年、Jonathan HickmanHOUSE OF X / POWERS OF Xで新設定〝Mutant Nation of Krakoa〟をぶち上げて、それに伴う大規模な新創刊キャンペーンが張られたときには、「せっかくの祭りだし、とりあえず今回の物語が一区切りつくまでは本誌・関連誌全部追っかけてみようか」と全誌追いを決意したわけですが、これがよくなかった。
 このシリーズがX-MEN系列に久々の大成功をもたらしてしまいまして、当初の6誌刊行体制はあれよあれよと拡充。
 X編集部下では常時、10誌前後の連載が進行+MARVEL UNLIMITEDではWebtoonシリーズが毎週発表+何かしらの特別イベントがひとつふたつ走っているという状況になり、さらにアベンジャーズ・デアデビル・スパイダーマンなど他所がメインを張る大規模イベントにも、毎度欠かさずにどこかしらのXチームがお邪魔していく始末。また、MARVEL VOICESWOMAN OF MARVELといったアンソロジー誌にもまあまあ重要な短編が載りがちので見落としは厳禁。
 タイミング次第では、MCUやスター・ウォーズファンよりもX-MEN読者のほうが断然忙しいのでは? という瞬間もあるのです。

 ぼくは英語に堪能なわけではまったくないので、完全リアルタイムでの全誌追いからは、わりと早い段階で振り落とされてしまいました。Xタイトルだけで毎週2、3誌出るから、ちょっと気を抜くとすぐ積読になっちゃう。
 とはいえ、元来厳密にリーディングオーダーに沿うタチでもないし、多少読む順序や時系列がズレたりしてもそこまでは気にならず、何号か遅れてしまってもまとめ読みで帳尻を合わせればいいのですが、たまに複数シリーズがリレーしていくタイプの長編イベントなんか組まれるとすこし厄介で。
 なまじ全誌追いかけると決めたがゆえに、参加シリーズに1誌でも積読があると、全体が足止めをくってしまうんですね。はやく物語の続きに進みたいのに、遅れているマイナーチームの到着を待たされて不機嫌になるウルヴァリン、的な構図。(ぼくの場合、実際はウルヴァリン誌とX-FORCE誌こそ遅れがちなのですが)

 まもなく翻訳が出るX OF SWORDS(テン・オブ・ソーズ)なんかも終盤まで積んだなあ。面白かったが、あのイベントの構成には言いたいことがなくもないぞ。

圧巻の22話構成

 さて話は戻って、今回の『SINS OF SINISTER』も、蓋を開けてみればこうした複数誌リレータイプのイベント。シリーズごとに視点が統一されてはいるから、個々に読んでいくこともできなくはないんだろうけど……。
 とにかくまずは、LEGION OF Xを読まなくちゃいけない。

まずはLEGION OF Xを読む

信仰テーマSFの傑作、WAY OF X

 もともと、Jonathan HickmanX-MEN (2019)の序盤にナイトクローラー「死を超越してしまったクラコアには新しい信仰が必要だ」と思い至るエピソードがあり、そこから派生したのがSi Spurrierの書く一連のストーリーライン。第1部のWAY OF X〉誌は死と信仰をめぐる問いとユーモアのバランスが気持ちいい傑作SFでした。大物ヴィラン・オンスロートが姿を現すあたりで「こりゃ今後の物語の大筋に絡むマストリード誌だな」と確信させる盛り上がりっぷりを見せるも、オンスロート自体は早々に退場(もったいねえ!)。先述した〝The Spark〟の確立でシリーズは一区切り、第2部LEGION OF Xに続くという流れ。ぼくのほうでもここで一段落しちゃってたわけですが。

面白かった、けど!

 リージョンの仮想空間〝THE ALTER〟を本拠地にクラコアの新しい治安維持チーム・リージョネアズを立ち上げたナイトクローラーは、惑星アラッコの法務執行官オラ・セラータから、クラコアへ逃亡した〝神〟の捜索を依頼される……

 というわけでまずはLoX誌10冊を読破。引き続き奇想がはじけてて面白かったんだけど、反面、Si Spurrierってまあまあ難解で、本来こんなにあわててかっくらうようなコミックじゃないからなんだか申し訳ない。ただでさえ語り口の謎めいた人物が多いのに、精神世界、アストラル界といったテレパス絡みのおなじみ設定も個人的にいまだ読み下しづらい部分があったりするんで、とにかくムズかった〜。
 そして、つくづくリアルタイムで読んでおくべきだったと思わせられたのは、THE ALTERでリージョンに接触をはかり、バンシーに変化の精霊SPILIT OF VARIANCEを融合させる怪人物・敵か味方かマザー・ライチャスの存在。シリーズの最後の最後で明かされたその正体については、SINS OF SINISTERが始まれば他誌読者にも公然のものになってしまうわけで、当然事前のネタバレも回避できませんでした。無念。今さらながら一応詳しいことは伏せておきますが、他のX-MEN主要誌の展開と並行して読んでいたら、いい塩梅のサプライズを享受できたに違いありますまい。

でもいいキャラですよね。過剰に思わせぶりなきらいはありますが

おそらく読んだ人にしかほぼ伝わらない、LoX誌の好きな箇所をメモっておきます

WoX誌から通底する、もともと飲み友達みたいなところから始まってるリージョネアズの独特な親しさ/「誰だお前?」/武器を持たないズセン/つくづくアラッコはいいキャラが多すぎる/「誰だお前?」/ジャガーノートの尻に敷かれるバンシー/リージョンとウラノスのダンス&セッション/シニスターに科学者マウントをとられるDr.ネメシス/「失礼ですがどなたですか?」/「あなたもミュータントならトラウマづくしの家族ドラマには慣れとかなくちゃね」/「わわわわたたたたしししががが科学だぁ!」/「3.1415926535…」/「誰だお前?」/「誇りに思う、デヴィッド」☺️/「これこそがこの状況下で私がとれる最も現実的な方法であり、彼への真実の愛情というものだ」😡/「ライダーには馬が付き物です」/「今日は誰も死なせなかった。」

あらためてSINS OF SINISTER

 そしてやっとこさ! LEGION OF X誌を読み終えるやいなや、SINS OF SINISTERにそのまま突入し、こちらも一気に読破! 面白かったー!
 かつてのメインライターJonathan Hickmanが『HoX/PoX』で準備したミュータント未来史が、Gillen、Ewing、Spurrierの英国SF的奇想に満ちたグロテスクな肉付けでダイナミックに回収。10年後・100年後・1000年後の3幕で事態が段階的に深刻化していくジェットコースター型大河ロマンでした。

敢闘賞ぐらいは彼にさしあげたい

 一気読みできたのも大きいけれど、クラコア以後の長編では断トツで楽しめました。千年分のミュータントヒストリーを一気に頭に入れた結果、その日は夢にシニスターが出ましたよ。
 そして、ちゃんとLEGION OF Xを読んでおいて本当によかった。続くNIGHTCRAWLERS誌は完全に地続きな話だったし、エスカレートするDr.ネメシスネタやジャガーノート・トリックショットなど、IMMORTAL誌やRED誌とはやや毛色の違う奇天烈なSFアイデアに、あらかじめ免疫をつけておけたから。

 あと——これはIMMORTAL X-MENが始まり、クラコア上層の政争劇が物語の焦点になって以降の〈DESTINY OF X〉編を通して言えることでもありますが——ウルヴァリンやサイクロップス、ジーン・グレイというX-MENの中心人物/人気キャラが、今回いよいよイベントの本筋にほとんど絡んでこなかった。SINS OF読了後に他誌でこの3人の活躍を見たとき、変に千年の時を超えた体感は残ってるもんだから、やたら懐かしく感じるという。

目下X-MENの主役はこの人たちです

 ただ、この状況はHOUSE OF X当初からうすうす予期していたものではあって、来たる最終局面では再び彼らが真ん中に出張ってくるのでしょうから、いまは溜めの時間かなと。(少なくとも、Hickmanはサイクロップスに最終章の引き金を託していたフシがある)

みんな大好き・本作の良心こと、キメラミュータント・ラスプーチンⅣ。
ワグネリンたち〈ナイトクローラーズ〉も愛おしかったですね

 いやそれにしても、SINS OF SINISTERよかったなー。この後通常刊に戻ったIMMORTAL誌や、LoX誌の続きを描いたSON OF Xなども面白かったし、先の展開も期待できそうでなによりです。

 しかし、ぼくのシニスターデイズはまだ終わっておらず。X-MEN系列誌、まだまだ積みが残っているので、新章FALL OF Xが本格化する前にできるかぎり読みきっておかなくちゃいけないのです。なんせ去年はアメコミ読書神経がガタガタだったもので……。
 此度の一気読みでリーディング筋力を少し取り戻せたので、再び意欲は湧いてきております。まず、すこし遡ってイベントDARK WEBを読み終え、いまはSteve OrlandoMARAUDERS (2022)に取り掛かっているところ。

本来は、読みたいものを読めばOK。(とか言いつつも)

 なおこれは、たまたま今回のX-MEN系列に対して全誌読みというスタイルを選んだからヒイヒイ言ってるだけで、ぼくも日頃はのんびり自由に読んだり読まなかったりするタイプですし、もちろん現行のX-MENシリーズに興味がある人全員にこれを強いるつもりなどありません。メイン誌だけ読むとか、イベントだけかいつまんで読むとかでも大筋は全然楽しめますので、当面は翻訳されるものを追いかけていけば大丈夫ですよ。

 しかしながら、いまShoProから訳出が進んでいるHickmanX-MEN誌は、重要なエピソードばかりとはいえ基本は粛々とシリーズ全体の土台作りに徹するというか、「当座のドラマだとか活劇部分だとかは他誌にお任せします」というスタンスをとっていたシリーズではあるので、

このチームを書くことへの興味はそこまでなかったっぽい

クラコアの新設定の下でおなじみのキャラクターが活躍するのを見たい!という方には、よければ翻訳されていない他のシリーズも読んでみてほしいなあと思ってます。

 とりあえず現在翻訳刊行中の第1章〈DAWN OF X〉からいくつか挙げるなら…

DoX序盤の主要なストーリーラインを担う3誌

■ クラコアのゲートをくぐれないキティ・プライドあらためキャプテン・ケイト・プライドの誕生を寿ぎたい一作、ヘルファイア一味といざ大海に出てのミュータント救助行、旧来のX-MENの空気感もあってオススメMARAUDERS (2019)

■ こちらはサイロックあらためキャプテン・ブリテン、ガチガチに宇宙-未来方面でSF設定を固めたかのように思えたクラコアでさっそくおっはじまるアザーワールドとの魔術戦が熱いEXCALIBUR (2019)

■ クラコア防衛軍主役のエスピオナージュかと思わせてベンジャミン・パーシーのホラー風味がやけに効いてるグリム&グリッティストーリー、いきなりエグゼビアが殺られる衝撃展開でDoX最序盤の軸に躍り出るX-FORCE (2019)

■ さながらX-MEN内ガーディアンズ、クラコアでもまっとうに生きられずシニスター預かりになったはぐれミュータントたちの奇妙な友情劇がグッとくるHELLIONS (2020)

蘇生技術レザレクション・プロトコルにスポットをあてたミステリー、蘇生以前にそもそも生死がわからないミュータントの行方を追う探偵局X-FACTOR (2020)

この2誌については主流からは遠いですが、
個人的にはこういうシリーズあってこそのX-MEN。
また、必修でこそないものの、HELLIONSは『DARK WEB』、
X-FACTORは『TRIAL OF MAGNETO』と、
それぞれ後々のイベントの導入みたいなところもあったりして

 この他、NEW MUTANTSWOLVERINECABLEも良いですよ。この中においては正直あまり評価は高くないけれど一応シニスターサーガの第1章でもあるFALLEN ANGELSもちゃんと読みました。これを読んでおいたことが後々の展開で利いてくると今もぼくは信じていますが、はたして。

 なんとなく各誌の雰囲気をつかみたい、という方は、DAWN OF Xと次章REIGN OF Xを繋ぐイベントHELLFIRE GALAを手に取ってみるのもいいかもしれません。年内に邦訳版がリリースされるそうなので。

ここでも最高なヘリオンズ

 クラコアの新しい伝統、ミュータントの祝祭〝ヘルファイア・ガラ〟の一夜を各誌で描く、いわゆるグランドホテル形式のイベント。コマの細部まで楽しいパーティークロスオーバーなので、気になったチームがあれば遡って1号から読んでみるのもありですね。この記事の上の方で「いや惑星アラッコってなんやねん」と思ってた人は『X OF SWORDS』と合わせて必修本です。

 さああなたもミュータント島クラコアの住人にならないか。本を積んで待ってるぜ。

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