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【創作童話】ゆうちゃんシリーズ「だいすきだいさくせん」

ゆうちゃんちのキッチンにみんながあつまりました。やってきたのはニンジン、タマネギ、ジャガイモ、シイタケです。
「きょうもダメだったニン」とニンジンがさびしそうにいいました。「わたしだってかなしいったらありゃしない。もうなみだポロポロなんだから」と、タマネギはじぶんでかわをむきながらなきました。「ぼくだってジャジャーンとおでまししたのにダメだったジャガ」そういいながらジャガイモはしょげています。シイタケは「おいらはもうかさをひらくげんきもないよ」といいながらしぼんでちいさくなりました。
どうしてみんな、そんなにかなしそうなの? それは――
だいすきなゆうちゃんにたべてもらえないからなんです。それがかなしくてかなしくてたまらないのです。どうしたらゆうちゃんにたべてもらえるんだろう? どうしたらゆうちゃんに「おいしい」っていってもらえるんだろう? みんなは、そればかりをかんがえているのでした。

やがてジャガイモが「どうせボクらはゆうちゃんのきらわれものジャガ」とゴロゴロしながらつぶやいたときでした。
「いいことおもいついたニン!」と、ニンジンがさけびました。でも、だれもうれしそうではありません。だって、ニンジンのかんがえたアイデアがうまくいったことなんてないからです。
「ねえ、こんどこそほんとにだいじょうぶ?ダメだったらおおなきするわよ」とタマネギ。「きみのいうことはあてにならんジャガ」とジャガイモ。「いつものまっかなウソじゃないの?」とシイタケ。みんなニンジンのいうことをしんじていません。それでもニンジンは、「こんどこそ、カンペキなさくせんだニン」とじしんまんまんにいうのでした。
あまりにむねをはっていうので、「そんなにいうならおしえてよ」とタマネギがいいました。「まあ、とりあえずきいてみるジャガ」とジャガイモも、そしてシイタケも、ニンジンのそばにやってきました。
「それじゃあ、おしえるニン!」とニンジンはとくいげにいいました。「かんたんなことだニン。ゆうちゃんのだいすきなものにへんそうすればいいニン!」
みんな、びっくりしたような、あきれたようなかおをしています。たしかに、ゆうちゃんのだいすきなものならたべてもらえますね。でもね……
「ねえねえ、そんなにうまくいくのぉ?」とタマネギがききました。ジャガイモもシイタケも、しんぱいそうなかおでみています。それでもニンジンはじしんまんまんです。
「こんどこそだいじょうぶニン、にんぽうへんしんのじゅつだニン!」ニンジンは、にんじゃのマネをしていいました。それをみていたら、なんだか、だいじょうぶのような、だいじょうぶじゃないような……ほかのみんなは、へんなきもちになってきました。
やがてタマネギが「あなたがそこまでいうならやってみようか」というと、ジャガイモも「よし、ジャンジャカへんそうジャガ」とむねをはりました。「おいらだってしぼんでるばあいじゃないわい」とシイタケはかさをシャキンとたてました。
「よし!きまりだニン!」ニンジンのかけごえでさくせんかいしです。なづけて「ゆうちゃん、だいすきだいさくせん」です。さあ、どうなることやら。

さいしょはニンジンです。ニンジンは「ゆうちゃん、まっかなイチゴ、よろこんでたべてたんだ。だからぼくはイチゴになる」というと、さきのとがったぶぶんだけになりました。さきっちょだけになったニンジンは、カタチはなんとなくイチゴににてきました。でもニンジンはまだまんぞくしていません。「まだあかいろがたりないニン」といいながら、ニンジンはまわりをみわたしました。
「そうだ。あれであかいろをつけるニン」ニンジンはそういうと、とうがらしのこなのなかにとびこみました。とうがらしのこなにつつまれたニンジンはまっかっかになりました。「ゴホゴホ。ちょっとからいけど、カンペキだニン」ニンジンはだいまんぞくでイチゴパックのなにかくれました。
しばらくすると、ゆうちゃんがやってきました。そしてれいぞうこをあけました。そのとたん――
「わあ! へんてこなイチゴがある~」といいながら、ゆうちゃんはにげだしてしまいました。
「そんなぁ…」ニンジンはかなしそうなかおをしました。するとそばにいたイチゴが「ざんねんだったね。でもぼくは、ニンジンらしいきみのほうがいいな」とやさしくはげましました。

さあ、つぎはタマネギです。タマネギは「ゆうちゃん、アイスクリームをおいしそうにたべてたの。だからわたしはアイスクリームになってみるわ」というと、そとがわのちゃいろいかわをぬいであたまとしっぽをきりとりました。まるくてしろいタマネギは、なんとなくアイスクリームににてきました。でも、タマネギはまだまんぞくしていません。「かわをぬいだだけじゃ、アイスみたいにまっしろにはなれないわね」タマネギはそういってまわりをみわしました。そして、「あれでまっしろになっちゃうんだから」というと、こむぎこのふくろのなかにとびこみました。こむぎこまみれになったタマネギはまっしろになりました。「ゲホゲホ。ちょっとむせたけど、すごいびはく、カンペキなアイスのできあがりね」タマネギはおおよろこびでれいとうこのなかにかくれました。
しばらくすると、ゆうちゃんがやってきました。そしてれいとうこをあけました。そのとたん――
「ギャー!アイスクリームのおばけだぁ」とさけびながら、ゆちゃんはまたにげていきました。
「え~っ、どうしてなの~」タマネギがかなしそうなかおをしていると、そばでこえがしました。「ざんねんだったね。でもいつものままのほうがステキだとおもうよ」と、アイスクリームがやさしくほえみました。

さいごはジャガイモとシイタケがいっしょにへんそうしました。「ゆうちゃん、おやつのビスケットをパクパクたべてたんだ。だからボクたちはビスケットになる」とふたりはいいました。ジャガイモはそとがわのかわをぬいでわぎりになると、いろもあつさもどことなくビスケットににてきました。シイタケはいしづきをきりとってねころぶと、なんとなくチョコビスケットににてきました。それでもジャガイモもシイタケもまんぞくしていません。「やっぱりあながプツプツあいてないとビスケットにはみえないジャガ」とジャガイモがいいました。「ボクはフニャフニャだからもっとかたくならないと」とシイタケがいいました。そしてふたりはキッチンをみわしました。「そうだ! あれにしよう」「ぼくはあれにしよう!」
ジャガイモはフォークをみつけてこすりつけると、からだにちいさなあながいくつもできました。これでさっきよりビスケットっぽくなりました。ジャガイモは「チクっとしたけれど、これでビスケットそっくりジャガ」というとビスケットのさらにとびのりました。
シイタケはれいとうこのなかにはいりました。やがてこおってコチコチになると、さっきよりすこしはチョコビスケットににてきました。「う~、さむかったけどこれでバッチリさ」と、シイタケはビスケットのさらにとびのりました。
しばらくすると、ゆうちゃんがやってきました。そしておかしとだなをあけました。そのとたん――
「うわあ!おばけビスケットだぁ」とさけんで、またまたにげていってしまいました。
「だめだめジャガ」「にげないでよ~」ジャガイモとシイタケがかなしそうにいいました。すると、「キミたちはやっぱり、おいしそうなジャガイモとシイタケなんだよね」と、そばにいたビスケットがやさしくいいました。

ニンジンもタマネギもジャガイモもシイタケも、だれもゆうちゃんにたべてもらえませんでした。
「やっぱりボクらはゆうちゃんのきらわれものだニン」「もう、かなしすぎてなみだもでないわよぉ」「もうおしまいジャガ」「かさをとじてかえりましょか」と、みんなしょんぼりしています。すると――
ゆうちゃんママがやってきました。そして、おなべとほうちょうとまないたをとりだして、しょげているみんなをりょうりしはじめました。
ゆうちゃんママはえがおでみんなをりょうりしていきました。ニンジンもタマネギもジャガイモもシイタケも、ゆうちゃんママのてにかかって、かたちがどんどんかわっていきます。さっきのみんなのへんそうよりも、ずっとずっとへんそうです。けれど、だれもしんぱいしていませんでした。それは、ゆうちゃんママがずっとえがおだったからです。ニンジンもタマネギもジャガイモもシイタケも、ゆうちゃんママのえがおをみているだけで、うれしくてたのしくてたまらなかったのです。

やがてりょうりがおわると、ゆうちゃんママが「ごはんできたわよー」とおおごえでいいました。そのこえをきいて、ゆうちゃんがゆうちゃんパパといっしょにやってきました。
「パパ、おなかすいたね」「そうだね、とってもおなかすいたね」
ゆうちゃんパパ、ゆうちゃんママ、ゆうちゃん、みんなそろってごはんです。さて、きょうのおかずは……
クリームシチューです。

「とってもおいしいね!」といって、ゆうちゃんパパはバクバクたべました。でもゆうちゃんは、はじめてみるクリームシチューにドキドキしています。
「ねえパパ、ほんとにおいしいの?」ゆうちゃんはすこししんぱいそうにききました。
「うん、とってもおいしいよ。ゆうちゃんもきっとだいすきになるよ、ねえママ」
「そうよ、おいしいからゆうちゃんもたべてみたら?」
ゆうちゃんパパもゆうちゃんママもにっこりわらいました。そのえがおをみてゆうちゃんがゆっくりたべはじめました。ゆうちゃん、はじめてのちょうせんです。さてどうかな?

「うん!すっごくおいしいね」と、ゆうちゃんはげんきにいいました。そしてどんどんバクバクたべました。
「ゆうちゃん、すごいね」「だっておいしいんだもん!」
ニッコリわらうゆうちゃんをみて、ゆうちゃんパパもゆうちゃんママも、そしてみんなも、とてもうれしくなりました。ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、シイタケ――みんなはいったママのてづくりクリームシチュー。ゆうちゃんはだいすきになりました。
「ゆうちゃんのこといちばんわかってるのは、やっぱりママだったニン」
「ママにはかなわないね。うれしくてなけてきたわ」
「ボクらはボクらのままでいいジャガ」
「へんそうしたってにてないもん」
そういって、みんなはかおをあわせてわらいしました。

これで、さくせんしゅうりょうです。
だいすきだいさくせん、どうでしたか?
”みんなの” だいすきだいさくせんは、ちょっとしっぱいだったかもしれませんね。でもね――
ゆうちゃんママのつくったクリームシチューで、ゆうちゃんもゆうちゃんパパも、ニンジンもタマネギもジャガイモもシイタケも、みんなえがおになりました。だから――
"ゆうちゃんママの" だいすきだいさくせんは、だいせいこうですね。  【おしまい】

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