吉本興業とズレの話
吉本興業の話です。
この徳力さんの記事を読んで、色々書こうと思ったんですが、その前に芸能事務所と経済の話を書いてしまいました。
さらに、色々言いたいことがあるのですが、このおばちゃんの話でいいかな、と言う気もしてきました。
今回の騒動で、吉本興業という組織と世の中との間に大きなズレが生じていたことが見えてきてしまった。関西人からすれば、「こんな吉本は見たくなかった。笑われへんわ」というのが本音です。
このズレというのが、この騒動のキーワードのように思います。
ズレと言えば、あの会社を芸人のマネジメントで食べている芸能プロダクションという側面で見ると見誤ります。
非上場になったので事業構成の比率がわかりにくいですが、その始まりから言っても本来、劇場運営が基本で、劇場を埋めるために芸人と契約して確保しておく、という仕組みになっています。現在の、6000人が所属するという言い方にも飛躍があり、劇場に出る口座を持ってる芸人が6000人くらいおるで、という話でしかない、と思われます。
もちろんマネジメント契約を結んでいる人たちもいて、スポーツ選手などのマネジメント契約が基本となる世界の人たちとは、世界に通用する契約をしていることでしょう。
文化人枠も契約内容があるかもしれません。俳優・タレントから怪しくなって、芸人は、多分契約なんてない。
こうしたマネジメントをやっているのが、よしもとクリエイティブ・エージェンシーだったんですが、そこが、今年の6月に吉本興業という名前になり、それまでの吉本興業はHDとなったことで、認識にズレが生まれているように思います。
その辺の経営の問題は、この記事がまとめています。
朝ドラ「わろてんか」のヒロインが吉本興業の母・吉本せいさんであることはよく知られています。戦前には通天閣も持った不動産会社であることは、ドラマからもわかります。
その頃から吉本興業の芸人には契約書はありませんが、戦争で丸焼けになった時に、吉本興業は花菱アチャコ以外の全ての芸人との契約を打ち切ります。
吉本興業は終戦直前に花菱アチャコを除く全所属芸人との専属契約を解消するに至った(同時に会社に借金がある芸人についてはその借金を棒引きしている)。
戦後も映画館をはじめとして、劇場を持ち、そこで演芸を上演することが主体で、吉本所属というのは、吉本の小屋に出る専属であるという認識がいまだに強いと考えられます。その裏には戦前からの松竹との引き抜き合戦などもあるでしょう。所属というよりも専属だから、契約書もない口約束で通用する社会だと考えているのかもしれません。
どちらにしてもマネジメントをするならば、契約書は必須でしょうが。
その認識は、山口組とズブズブの関係だった創業家(吉本から林になっているのは、吉本せいの弟である林正之助時代から娘婿の林裕章にかけての発展があったから)からの独立を意図した非上場化の時に改めるべきだったのでしょう。
しかし、所属芸人がファミリーという岡本社長の発言は、彼の考えというよりは、彼の上司である大崎会長、さらにその上司だった林裕章・元社長の考えであるような気がしますし、それは結局、林正之助時代から変わっていないのでしょう。そこで、変わるべきものが主導権争い以外に、もっとあったんじゃないかということです。
そこにズレを感じます。
先ほどの、文春オンラインの記事の中で、谷口先生は、
吉本の社長にしても、家長のつもりなのか、「ファミリー」という言葉もしばしば使います。でも実際は、そのファミリーに「入れてもらえない」と感じる人もいる。大金持ちもいるけど、食っていけない人もたくさんいる。こんなファミリー、児童虐待で、DVですよ。
と言っています。
ダウンタウンの二人は、大崎会長や岡本社長からは、まさにファミリーでしょうが、東京NSC出身の芸人がどれくらい会社をそう感じていたのか。そこにあるズレを、社員はどう感じていたのか。
さらに、最近の吉本芸人の大御所感、吉本という会社の大御所感も、社会の吉本に対する認識とズレがあります。
テレビに出ている芸人の数でみてもその影響力は明らかですし、いまや政治との距離も近い。あの新喜劇の舞台に安倍総理があがったり、会長が沖縄の米軍基地跡地利用に関する有識者懇談会の委員になっています。
笑いのエッジは風刺にあって、権力者のことをネタにして、庶民に「そうそう」と思わせるところにキモがあった。それが、吉本の中の“大御所”と呼ばれる人たちが権力を持っていき、むしろ風刺される対象になっていった。
この間の騒動の取り上げ方も、そこでの所属芸人の発言の取り上げられ方も違和感というかズレがあります。これは社会の注目度なのではなく、結局、株主でもあるテレビを始めマスコミの注目度が高いのであって、我々にとっては、もう、どっちでもエエこっちゃなのではないでしょうか?
一方で、これだけ社会で重用されている企業が非上場企業で、芸能興業という、ちょっと前まで反社会的勢力との付き合いが普通だった世界を取り仕切っていたことに対して、私たちも官僚も政治家も、あまりにも考えなし=ズレていたんじゃないでしょうか?
吉本はそんなん違うで、っと言えるような会社ではすでになくなっていました。
ウィキペディアでも、記述が追いつかず、ここではまだ、戦前の最盛期を上回っていません。今や6000人らしいのに。
吉本興業は、直営劇場を東京に2つ、大阪に3つ、さらにテレビ番組収録用のホールを東京・大阪に各1つ持つにいたり、所属タレントは約800人という陣容になった(2008年(平成20年)秋に大阪にさらに劇場を新設)。全国に直営劇場・寄席・映画館を47館持ち、所属芸人は約1300人という戦前の全盛期(1935年(昭和10年)頃)には未だ及ばないものの、依然として総合娯楽産業の雄であることは言を俟たない。
それに象徴されるように、持ち株会社化以降の急発展、急拡大に、大崎会長以外は誰も追いついておらず、吉本興業と社会の間に、また、吉本興業の社員と社会の間に認識のズレがあるのでないでしょうか。
笑われへん吉本が、今後どうするのか。
笑えない結末だけは避けていただきたいものです。