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『ILLUME』とはなんだったのか:第6回:創刊号と編集方針

長いね、それにしても。自分でも書いているうちにいろんなことを思い出すものだと呆れています。

4本柱を核として

江崎玲於奈先生がインタビューに出てくださることが決まって、ついに1989年4月創刊に向けて、本格的に稼働したILLUMEですが、当然、インタビュー以外の企画も動いていました。

11月の編集会議で、山崎先生からダメ出しをくらった創刊企画は、練り直され、4本柱と2本のコラム、1本の連載という構成になりました。

4本柱とは、編集会議で山崎先生から指摘された四つの企画

サイエンスシリーズ、インタビュー、イクスクルーシブアーティクル、フロンティアレポート

のことで、これを柱にする構成は、全巻にわたって貫かれました。ただ、その順番は、デザインや印刷単価の削減などに応じて変わっています。

創刊号の構成は以下の通りです。

表紙:内容と連動したビジュアルに、穴あけ
表2−1p:テーマグラフィック:「星月夜」ヴァン・ゴッホ
2p:刊行にあたって、編集顧問一覧、表紙の説明
3p:目次
4〜18p:イリューム・インタビュー:21世紀への創造のビジョンを求めて 江崎玲於奈先生 インタビュー:片山修、写真:細江英公
19〜21p:エッセイ:未来をデザインするコラーニの書斎 藤本彰
22〜40p:サイエンスシリーズ1:宇宙の創世、ビックバン理論の発見 大師堂経明 
41〜48p:創造性と日本社会1 論文:創造性と日本の文化ー科学技術の文脈から 村上陽一郎
49〜56p:創造性と日本社会2 対談:現代科学技術と独創性ー日本の文脈から 中岡哲郎×村上陽一郎
57〜59p:トピックス:走れ宇宙に太陽帆船 高橋真理子
60〜77p:最先端レポート1 【ILM】きら星の大集団……ギャクシーの創造 トーマス・G・スミス
78〜80p:資料編:創造性の研究(1)穐山貞登

筆者の紹介はあえてしませんが、よく集めたものだと思います。

特集テーマの設定

江崎先生のインタビューのテーマが「創造性」だったというのは前号に紹介しましたが、この号全体の特集テーマが「地球新時代に向けて創造性をさぐる Exploring Creativity  Its Direction in the Advent of the New Global Era 」とされています。

毎号、編集企画を作る際には、まず本全体を貫く特集テーマを決め、それに基づいて4本柱を企画します。それは当初は端的な言葉で始まり、最終的に全部の原稿が揃い、レイアウトができてから「特集タイトル」を決めていました。

しかし、時には、4本柱の全てを、この特集テーマで括れない場合があります。言葉に縛られれて小さな企画になることよりも、その時に面白い企画があれば、そちらを優先するためです。

例えば、2号は「生命と場」、3号は「物の性質」というふうに主題が決められていますが、副題があります。

2号 特集●生命と場ーー遺伝子レベルから人間の知的活動まで、さまざまな生命現象における創造性を探る
3号 特集●物の性質ーー私たちをとりまく「物」とは何か。その探求に人間の創造性をみる

というふうに、主題が茫漠とした広い概念なので、企画意図を補う副題をつける様になります。

これが、4号では「特集●技術と藝術、そして文明ーー近代を超えた私たちの時代の課題と創造性について考える」となり、5号では「特集●科学・技術と人間性ーー科学・技術文明はどこに向かうのか? その未来を人類を中心とした文脈でとらえる」とどんどん長くなっていきます。

これは、企画の面白さを優先するあまり、全体の統一性が取れなくなっていくことと、それでも号全体を網羅する言葉をつけたいという編集部の苦悩の結果でもありました。

特集テーマが消えた日

1号から4号までは「創造性」というのが一つの通しテーマとしてありましたので、「創造性」という言葉をつける様にしています。それが外れた5号からは、さらに包括概念を探す旅に出てしまうことになったわけです。

この特集テーマの作成は、編集人であるA氏の専権事項だったのですが、だんだん苦労に耐えかねて締切に間に合わなくなっていきます。

編集顧問会議で「前号の評価と次号の企画へのサジェスチョン」をいただくのですが、企画段階では編集テーマだけが仮になり、次第に発行されてからつけられた特集テーマを見た編集顧問の先生方から、その突出ぶりを指摘される様にもなっていきます。

そしてついに、第9号で特集テーマをつけることを諦めます。

第9号の企画は、バラバラだったからです。

サイエンスシリーズ:地球の気候をかたちづくるものーエネルギー移動と水の循環のシステム 住明正
インタビュー:文明システムへの視点の欠落が、技術の短絡的発想につながる 梅棹忠夫(国立民族学博物館館長)
ダイアローグ:【工学と芸術の立場から】科学・技術の成果を、パッチワークで繕い、綱渡りで乗り切るーー21世紀へのパースペクティブ構築のために 山﨑正和×吉川弘之
最先端レポート:【大仏様】歴史に見る先端技術導入の場面 田中淡

一つ一つの企画はすごく面白いし、素晴らしい原稿をいただいたのですが、本全体としては、括りようがなくなってしまいました。

地球環境変動の原因を探る研究と、鎌倉時代の建築技術である大仏様には何の関係もないですからね。

それでも元々は、科学・技術と一括りにされる時代において、科学を外した「技術」を考えることにフォーカスした回だったのです。

この時は、結局、編集顧問会議で「無理につけなくても良いのではないか」というお言葉をいただき、TEPCOにも納得してもらったという経緯がありました。

ある意味、編集部の能力を問われる危機の時代だったと言えます。

素人にわかりやすく、玄人に後ろ指を刺されず

創刊号に話を戻します。

先程の目次を見ていただければ、江崎玲於奈先生のインタビュー以外の記事も、気合が入っていることがお分かりになるかと思います。創刊号ですからたり前ですが、この時、いくつか、その後の編集方針となる言葉が生まれています。

サイエンスシリーズでは、テーマを決めるにも、書き手を探すにも編集部でした勉強をして目処は立てますが、最終的な企画案にする前に、A氏が、物理学であれば、小林俊一先生に、生物学であれば岡田節人先生に、化学であれば福井謙一先生にご相談していました。

科学界での正当性と正統性にこだわるA氏には、最先端のことを書いてもらうには、現役を退いた元学者やサイエンスライターではなく、最先端の研究者にその面白さを書いてもらうのが最も説得力があり、研究の最先端の面白さが伝わるはずだという信念がありました。

そこで、そのテーマに相応しいと思われる専門家の書き手を「科学界の目利き」に教えていただくという手法を取ったのです。

しかし、最先端の研究者は一般向けの書籍を書いた経験がある方が少ないため、原稿をお願いすると難しくなってしまうきらいがあります。

そこで編集顧問会議でいただいた指針が「素人のためにできるだけ理解しやすく、玄人に後ろ指を刺されることがなく」でした。

わかりやすくても専門家が見て間違っていては仕方がない。わかりやすさを標榜するばかりに、科学者から見て眉を潜めたくなるような科学記事や科学ジャーナルが多いという不満と懸念からいただいた方針でした。

この編集方針は、サイエンスシリーズだけではなく、本誌全体の指針となります。

そして、そのためのせめぎ合いが、編集部の苦闘を生むのですが、その話は次回に。

表紙に穴を開けるというデザインをしたグラフィックデザイナーの話はまた今度ね。

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サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。