あなたが忘れられない食事は何ですか? 【食エッセイ】
「本当にオーダーするの?」
旅をするときの楽しみは、その土地の料理をいただくことだ。東京にいれば、世界各地の料理を食べられる。でも、食べるだけでは感じられないものもたくさんある。町を歩き、その土地の風を浴び、香りを嗅ぎ、身体の感覚をすべてをつかってする食事は感動するし、美味しさを感じる。オリオンビールは東京で飲むよりも、沖縄で飲んだ方が3倍美味しい。
パリのサンジェルマン通りにある小さなお店に入った僕は、その土地の旬の料理との出会いを楽しみにしていた。フランスと一括りにしても広いし、食文化は豊かだ。村ごとに特徴的なチーズがひとつはあるといわれるほど、チーズの種類は豊富だし、ソースが基本と言われ、シンプルに焼いた魚や肉にさまざまなソースをかけて食べる料理がたくさんある。その食文化はユネスコの世界無形文化遺産にも登録され、彼らは家族団らんの食事を大切にしているという。
「アンドゥイエットね」
スタッフにおすすめを訊ね、ではそれを、と注文すると「本当に頼むの?」と返ってきた。え、おすすめでしょ?どうして?と聞くと、匂いがとにかく強烈だという。主にトロア、リヨン、トゥール、オルレアン地方で広く親しまれているその料理は、豚の腸に内臓(胃や小腸や大腸)を詰め込んだソーセージ。フランスの中でも超がつくほどクセのある料理だという。
目の前に登場したそれの見た目は、美味しそうなソーセージ。けれど、ナイフとフォークを入れ、口に近づけただけで、鼻がもたげるような強烈な香りが突き刺さる。それを見たスタッフはにやにやと「だから言ったでしょ?」といわんばかりだ。
でもこれが本当に美味しかった。
もし人生最後の日に何を食べたい?と聞かれたら、ランキングのトップ10にランクインする。数年経ったいまでも、一瞬で蘇る。
そんなに匂うのなら、下処理などで取り除いたらいいんじゃないの?と疑問に思った人もいるかもしれない。
でもそれには反対だ。匂いも味の一部。
あの匂いがなければアンドゥイエットじゃないんだ。
「あなたが忘れられない料理は何ですか?」
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