[漫才コント] 固定が先か携帯が先か
#オチを予想してお楽しみください (8文字)
夢路いとし:昔からお年寄りを狙った詐欺というのはなくならないものでして…
喜味こいし:はいはい
い:君もお年寄りやから,気をつけなあかんで
こ:あのな,君は兄貴やから私よりお年寄りや
い:僕は大丈夫や
こ:「大丈夫」言うてる人が一番危ないんやがな
い:僕はだまされませんよ。だます側やから
こ:君は詐欺師か
い:僕は漫才師ですがな
こ:まぁまぁ漫才師も詐欺師も似たようなもんやけどな
い:あることないこと言うのが仕事やから
こ:最近は携帯電話会社の人を装って家にやってくる詐欺師もおるらしいね
い:そうでっか。逆もおるん違うか?
こ:「逆」というと?
い:詐欺師を装って家にやってくる携帯電話の会社の人
こ:そんなやつがおるか?
い:なんかこういろいろ契約させようとする人おるやないか
こ:それはセールスマンや。詐欺師とは違う。多少強引なセールスマンもおるかもしれんけど,真っ当なセールスマンのほうが多い
い:あの〜,私携帯電話会社の者なんですが…
こ:携帯電話会社の方?
い:この度,インターネットの新しくてお得なプランが出まして,お話だけでも聞いてもらえないかと…
こ:あ〜ええわええわ。うちは今のプランで満足してますから…
い:かなりお得なプランですから。お話だけでも…
こ:話だけ?
い:えぇ
こ:ほんまに?
い:え?
こ:ほんまに話だけでええんやな?
い:それはあの~それは言葉の綾というものでして…
こ:本音を言うと?
い:とりあえずお話を聞いていただいて,契約が取れたら私の給料が上がります
こ:そこまで言わんでええ
い:大して話など聞かず,契約だけしてくださればなおいいです
こ:本音言いすぎや。おたく詐欺師と違うか?
い:こない本音言う詐欺師がどこにおります?
こ:そりゃそや
い:真っ当なセールスマンですわ
こ:真っ当でもなさそうやけど,まぁまぁ正直でええわいな。おたくは携帯電話会社の方でしたかな?
い:へぇへぇ
こ:ということは,家の電話も詳しいんですか?
い:家の電話ですか?
こ:えぇえぇ,家の電話
い:あの〜…,「家の電話」というのはなんですか?
こ:「なんですか」て…,家の電話は家の電話や
い:あ~,自宅専用に契約している携帯電話のことですか?PHSなんかを自宅用として契約されてる方も増えてますから
こ:そやなしに,「家の電話」というのはあの~固定電話や,固定電話
い:固定電話?それはあの〜…固定されてるんですか?
こ:「固定されとる」というか,「家から持ち出せないようになっとる」というか…
い:えっ!? 家から持ち出せないんですか?
こ:あたりまえや。固定電話やから
い:それはあの〜…,なんのために固定されてるんですか?
こ:「なんのため」て,おかしなこと聞きますなぁあなた
い:ほんなならそれは,何で固定されてるんですか?
こ:「何で」て,電話線ですよ
い:え?
こ:電話線
い:電話しないんでっか?
こ:「でんわせん」やなしに電話線!線や線!コードや!
い:電話するのに「でんわせん」て…,ネーミングセンス疑いますな
こ:私が付けたわけやない。どちらかというとそっち側の人間でしょ,名前付けたんは
い:私は携帯電話会社の人間ですから,携帯することには興味ありますけど,固定することには興味ありまへん
こ:「興味」はええけど,ほんまに知らないんですか?固定電話
い:聞いたことすらないです。そんな名前の電話は。ほんとに固定されてるんですか?
こ:だから,固定されてるというか…
い:線がついてる
こ:そや
い:わざわざ線をつけて外に持ち出せないようにする意味が分からんのですが…
こ:「わざわざ」て…
い:もしかして…,逃げようとするんですか?電話が
こ:あのね,犬のリード的なものやないの。外に持ち出せないようにするために線をつけてるわけじゃないんです
い:ほんならなんのために線つけてるんですか?
こ:「なんのため」も何も,線をつけないと繋がらないでしょ,電話が
い:(笑)それはお客さんの勘違いですわ
こ:「勘違い」というのは?
い:その線は充電の線ですわ。電話繋がりますよ,その線はずしても。充電が切れてしまっている場合は充電の線をつけたまま電話しないとダメですがね
こ:分かっとるわそれくらい。充電の線と間違えてないわ。あのね,あなたいくつや
い:20歳すぎです
こ:何ぃ!
い:20歳すぎ
こ:そんなわけないやろ。鯖を読むのもほどほどにせぇよ
い:ちゃんと20歳はすぎてますがな。20歳すぎないと今の歳にはなれまへん
こ:……。あのな,あなたの年齢やったら,若い頃は確実に電話に線がついてたやろ
い:いや~線なんてついてなかったですわ
こ:ほんならどんな電話だったんや。あなたが若い頃使っていた電話は
い:ショルダーバッグみたいに肩から下げるタイプの…
こ:それ…,初期の頃のえらい高い携帯電話で,「ショルダーフォン」とかなんとかいう名前の電話やないか
い:当時は「移動電話」と呼ばれてました
こ:今時の金持ちは固定電話も知らん時代になったっちゅうことか
い:「固定電話」なんてそもそもなかったんじゃ…
こ:「蜃気楼」みたいな言い方すな。「携帯電話」という言い方から考えたら分かるやろ
い:というと?
こ:元々携帯してなかったからこそ,携帯できるようになった電話を「携帯電話」と呼ぶようになったんやないか。最初から携帯するものやったらわざわざ「携帯電話」と呼ぶ必要がない。それをただの「電話」と呼ぶやろ
い:あ〜なるほど。それは一理ありますな
こ:「一理」やなしに実際そうなんやから
い:でもそれやったら,「固定電話」という言い方は,元々携帯していた電話を何らかの理由で固定するようになったから「固定電話」と呼ぶようになったんやないですか?最初から固定されていたらわざわざ「固定電話」と呼ぶ必要がない。それをただの「電話」と呼びます
こ:……。ほんなら…,「固定するようになったなんらかの理由」っちゅうのはなんや
い:それは知りまへんがな。「固定電話」言い出したんはお客さんであって,私はまだ固定電話の存在を信じたわけやないですよ
こ:あのね,これは信じるとか信じないとかそういう話やないの。携帯電話が普及した後に,元々あった家の電話のことを「固定電話」と呼ぶようになったんやから
い:それはずるいですわ
こ:何がずるい?
い:「携帯電話が普及した後に,元々あった家の電話のことを『固定電話』と呼ぶようになった」なんて後出しジャンケン的な論理,私の「携帯電話の方が先説」の説明にも使えますからね
こ:あのな,あなた,「卵が先か鶏が先か」みたな話に持っていこうとしとるけど,固定電話のほうが絶対に先や。私は固定電話も携帯電話も両方この目で見とるんやから。あなた固定電話見たことないんでしょ?
い:確かに。お客さんがそこまでおっしゃるのなら,百歩譲って昔は固定電話というものがあったとしましょ
こ:「昔は」て,今もありますよ
い:今もある?
こ:ありますよ
い:どこに?
こ:「どこに」て…,うちにもありますよ
い:本当にあるんですねこの世の中に。「固定電話」などという固定された電話が
こ:だから「ある」言うとるやないか
い:ということは,携帯電話はお持ちでない?
こ:携帯電話も持ってますよ
い:両方お持ちで?
こ:持ってますよ
い:今流行りの二刀流ですか?
こ:これを「二刀流」と呼んでいいのかどうかはよう分からんけど…
い:あの〜,携帯電話と固定電話というのはどうやって使い分けるんですか?
こ:「使い分ける」て…,まぁ〜そのときの気分とかでやなぁ…
い:あ~,オシャレみたいなかんじで
こ:気分でネイルの色変えるとか,そういうことやないけども…
い:どういう気分のときに固定電話を使われるんですか?
こ:いやあの〜…,「気分」という言い方は不適切でしたな。大抵は,近くにあるほうを使う
い:「本当はソースかけたいんやけど,近くに醤油しかないから醤油でええわ」みたいなことですね?
こ:まぁまぁそんなかんじや
い:携帯電話と固定電話,どっちがソースでどっちが醤油なんですか?
こ:どっちゃでもええ
い:でもその〜「固定電話」というのを固定しておくためには,毎月それなりの料金がかかるんと違いますか?
こ:「固定しておくための料金」というのはおかしな言い方やけど,お金はかかりますよ。基本料金っちゅうのがありますからね
い:携帯電話があるのにわざわざお金を払ってまで固定電話を持つ意味はどこにあるんですか?
こ:意味?「意味」と言われてもやなぁ…。固定電話は昔から使うてますから,その流れみたいなもんやがな
い:失礼ですが,お客さんは「気分」とか「流れ」でしか使わんようなものに,意味もなく毎月一定のお金を支払うほどの大金持ちなんですか?
こ:ほんまに失礼やな。まぁ…,あなたの実家と比べらたら,私んとこなんて全然金持ちやないけど…
い:金持ちが道楽で固定電話を持ってるというのであればそれはもちろん自由ですけどねぇ,そういうわけやないのであれば,節約したほうがええんと違いますか?
こ:なんでセールスマンの君にそないなこと言われなあかんねん。確かに言う通りかもしらんけど…
い:ほんなら思い切って,解約したらどうですか?
こ:解約?固定電話を?
い:こういうのはタイミングと勢いですから。今解約しないと,また何年も固定電話の基本料金払い続けることになるんと違いますか?
こ:まぁ…それはそうかもしらんけど…
い:善は急げですわ
こ:いやでも…,固定電話解約したら…
い:自宅のインターネットどうしよう?
こ:え?
い:思うたん違いますか?
こ:そうや!それで固定電話契約しとるんやがな
い:でしたら,固定電話がなくても繫げる当社の新しくてお得な◯◯◯ー◯ッ◯◯◯◯をご利用ください
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】