[読む古典漫才] 靴屋は靴を履かない(当て書き:おせつときょうた)
#オチを予想してお楽しみください (4文字)
しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる
●漫才における「相槌」はそのときの雰囲気で自然に入れるものなので通常漫才台本には書きませんが,本格的な掛け合いのしゃべくり漫才をイメージできるようあえて細かい「相槌」を書き込んでいます。それが「読む漫才」です。
おせつ:最近きょうたくんが色気づいてましてね
きょうた:僕ですか?
お:あなた色気づいてるでしょ?
き:なんのことを言うてるんですか
お:靴ですよ
き:靴?
お:彼ね,おとといあたりから急に靴履き始めましてね
き:3日前まで靴履いてなかったみたいやないか
お:なんでそうやって見栄張って
ね
き:見栄?
お:「昔から靴履いてましたよ」みたいな顔するんですか
き:実際に昔から履いてますからね
お:いつから?
き:「いつから」って,覚えてないくらい昔からですよ
お:覚えてないだけですよ
き:そんなことないわ!
お:せいぜい2,3か月前からでしょ?
き:もっと前や!
お:色気づいて急に靴履き始めてね
き:この人ねぇ,昔から靴に対する考え方がおかしいんですよ
お:「靴に対する考え方」ってなんやねん
き:あなた普段靴履いてないでしょ
お:履いてないですよ
き:おかしいでしょ?
お:何が?
き:40近いおじさんがね,裸足で東京の街ウロウロしてるなんておかしいですよねぇ
お:40近いおじさんがね,靴履いて東京の街ウロウロしてたら「あの人色気づいてるな」って思われるじゃないですか
き:その考え方が「おかしい」言うてんねん
お:だいたい僕は靴を履く側の人間じゃないですからね
き:「履く側」とか分かれてないでしょ靴は
お:売る側の人間なんですよ僕は
き:靴を売る側の人間?靴屋ってことですか?
お:僕は根っからの靴屋ですからね
き:「根っから」とかあります?靴屋に
お:靴を売る側の人間が靴履いてたらおかしいじゃないですか
き:おかしくないわ!裸足の靴屋のほうがおかしいでしょ
お:例えば,寿司を握る側の人間がね
き:お寿司屋さんが?
お:寿司を食べながら寿司を握ってたら嫌じゃないんですか?
き:嫌ですよそれは
お:同じことじゃないですか
き:何が同じなんですか
お:だから,寿司を握る側の人間が寿司を食べながら寿司を握っていたら嫌がられるのと同じように,靴を売る側の人間が靴を履きながら靴を売っていたらお客さんが嫌がるだろうと思って,私は裸足で靴を売ってるんですよ
き:裸足のほうが嫌がられるでしょ
お:お客さんだって裸足で靴買いに来ますからね
き:そんなわけないやろ
お:靴がないから買いに来るんですよ。当然裸足で来ますよねぇ
き:お客さんみんな靴履いて来てるでしょ〜
お:それは二足目を買う人の話でしょ?
き:何足目か知らんけど。「二足目」ってことはないやろ!
お:靴持ってるのにさらに靴買うなんてね,完全に色気づいてますよね
き:靴屋として最低な発言ですよそれは
お:僕は靴がない人のために靴を売ってるんですよ。そんな金持ちの道楽で二足目買うような人には売りたくないんですよ
き:なんなんですかその歪んだ志は。あなたね,靴屋としての自分の立場を履き違えてますよ。靴屋だけに
お:なんで急にダジャレ入れきたんですか
き:僕だってたまにはボケてもいいじゃないですか
お:すべり王子はボケたらあかんて
き:誰がすべり王子やほんま〜「すべり笑いで天下取ったろかい!」ってこのやろー
お:毎回綺麗にすべりますからね〜立場履き違えてるのあなたよ〜
き:この件は認めますけど,あなたも履き違えてるんですよ
お:僕が「何を履き違えてる」って言うんですか
き:なんでみんながあなたの店に靴を買いに来てくれるか知ってますか?
お:靴がないと困るからやろ?
き:靴なんてなくても困らへんねん。鍛えれば裸足でいけますからね
お:それは僕が一番よく知ってますよ
き:そうやった。いつも裸足の人おった
お:みんな僕みたいに裸足で生活したらいいんですよ。なんでわざわざ靴買いに来るんですか
き:困るからや
お:やっぱり靴ないと困るんでしょ〜
き:あなたがですよ
お:僕が?
き:靴誰も買いに来なかったら困るでしょ?
お:困りますよ。生活できなくなりますからね
き:みんなあなたの生活を支えるために,必要でもない靴をわざわざ買いに行ってるんですよ
お:僕のために?
き:チャリティですよ
お:チャリティ!?
き:貧しいでしょあなた
お:なんでみんな僕が「貧しい」って知ってるんですか?
き:裸足で東京の街ウロウロしてるからや
お:そういうことね。そうとは知らず,靴持ってるのに二足目の靴を買に来たお客さんに,「あなた完全に色気づいてますよ」言うてしまいまして
き:直接言うてたん?やめてくださいよそれは
お:あなたの言うとおり,私は自分の立場を履き違えてました。靴屋だけに
き:僕のダジャレ蒸し返えさなくていいですから。それよりね
お:なんですか?
き:靴に対する考え方も改めほうがいいんじゃないですか?
お:そうですね。私は靴を履いて東京の街を歩いてるみなさんに,「何色気づいてんねん!」言うてたんですが
き:それも直接言うてたん?思ってただけじゃなくて?
お:今後は心を入れ替えます
き:それからね
お:まだあるんですか?
き:変な靴を作って売ってるでしょ?
お:変な靴は売ってないですよ
き:みかんの皮でできた革靴とか
お:みかんの皮でできた革靴は,確かに販売しておりました
き:ふざけて作ったんですかあれは
お:ふざけてはいないですよ。まだマシなほうじゃないですかあれは
き:そうやねん。ひどいのがあれですよ
お:何?
き:餃子の皮で作った革靴
お:餃子の皮で作った革靴ね。ありましたね
き:あれはふざけて作ったね
お:ふざけてはないんですよ。問題ありました?
き:餃子の皮でできた革靴履いて出かけてね,途中で雨降ってきたら困るじゃないですか
お:そのときは,水餃子になりますから
き:雨に濡れて?
お:だから大丈夫です
き:何が大丈夫なんですか
お:役に立ちますからね。水餃子
き:「水餃子は役に立つ」ってどういうことですか
お:雨の日に出かけると,小腹がすくこともあるじゃないですか?
き:……「食べろ」ってこと!?
お:「食べろ」とは言うてないですよ
き:足に履いてる水餃子を?
お:靴屋である私が,足に履いてる水餃子を「食べていい」なんて言うたら,いろいろ問題になりますからね
き:ほぼ言うてるでしょ
お:ただ,小腹がすいて飢え死にするくらいならね
き:飢え死に?
お:足に履いてる水餃子だろうとなんだろうと,「食べたほうがいいんじゃないですか」と,暗に申し上げてるんですよ
き:小腹がすいたくらいで飢え死にしませんからね
お:小腹がすいたらあとは飢え死にするのみですよねぇ
き:そんな恐ろしいシステムないわ!
お:いざとなったらなんだって食べたほうがいいんですよ
き:だいたいねぇ,餃子の皮で作った革靴?雨の日に履いたら水餃子になるんですか?
お:それはあの〜・・・ごく稀に・・・
き:ならないでしょ
お:なりませんよそりゃあ。なるわけでしょ
き:なんで嘘つくんですか。全然心入れ替えてないじゃないですか
お:「ふざけてる」ってものすごく責めてくるからつい
き:「つい」じゃないですよ。実際ふざけてるでしょ?変な靴ばっかり作って
お:結果的に変な靴になってしまったことは認めますけどね,ふざけてはないんですよ
き:どういうこと?
お:「お客様に喜ばれる靴を作りたい」という一心で,世界中の革という革を試してたんですが
き:まじめにやってたんですか?
お:あるとき行き詰まって頭がおかしくなりまして,みかんの皮とか餃子の皮にまで手を出してしまったんですよ
き:「頭おかしい」という自覚あるのね
お:ありますよ。「皮違い」ですからね
き:ほんまに「皮違い」なんですよ。みかんの皮とか餃子の皮で革靴なんてできるはずがないですからね
お:僕が目指してるのは,健康的で,経済的で,雨にも強くて,履けば履くほど革が丈夫になって,一生履ける革靴。そういう革靴なんですよ
き:志高いのはええことやけど,健康的で,経済的で,雨にも強くて?履けば履くほど革が丈夫になって,一生履ける革靴?そんなん無理でしょ
お:あるんですよもう
き:あんの?それやったら買いますよ
お:売れないんですよこれは
き:なんで?
お:特殊な革でできた革靴なのでね
き:「特殊」って,ワンタンの皮とかじゃないでしょうね
お:そんなふざけた皮じゃないですよ
き:だったらなんの革でできた革靴なんですか?
お:◯◯の皮でできた革靴です
き:あ〜◯◯ね
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】