漫才論| ⁸³カバー漫才台本 「チュートリアルの『バーベキュー』を銀シャリがカバーしたら」
「カバー」と言いながら,カバーではなくコピーやモノマネになってしまうパターンが多いカバー漫才ですが,その原因についてはこちらの記事で書きました
原因が分かっても,コピーやモノマネではない「カバー漫才」がどのようなものなのかを見てみないとイメージが湧かないかもしれないと思い,カバー漫才台本を作ってみました
元ネタは,2005年のM-1グランプリ決勝で披露されたチュートリアルの「バーベキュー」のネタです。今回はこのネタを「銀シャリがカバーしたらこうなるのではないか」というイメージで書いてみました(読みやすいように元ネタよりも短くしてあります)
橋本:明後日バーベキュー行こう思うてましてね
鰻:一人で
橋:みんなでや
鰻:みんなで!?
橋:あたりまえや。なんで一人でバーベキュー行かなあかんねん俺
鰻:流行ってるやん。ソロチャンプ
橋:ソロキャンプな。なんでチャンピオンやのに一人ぼっちでバーベキュー行かなあかんねん俺
鰻:ソロキャンプか。あれ一人で行くやつやろ?
橋:あれはキャンプに一人で行くのであって,一人でバーベキューだけやりに行ってるんちゃうよ
鰻:バーベキューだけの人もおるやん
橋:家族とか友達とかならバーベキューだけ行くパターンもあるけど,一人で行ってバーベキューだけして帰るパターンあんまないやろ
鰻:一人で行ったほうが自由やん
橋:自由やけど寂しいやん。一人でバーベキューは
鰻:寂しないよ。一人やったら自分の好きなように刺せますからね
橋:「刺せる」って何が?
鰻:具材を自分の好きな順番で刺せるでしょ
橋:具材を串に刺す順番?
鰻:ぼくは自分の好きなように刺したいんですよ
橋:刺したらええやんそんなん。みんないても好きなように刺せるやろそれは
鰻:文句言うやつがおんねん必ず
橋:「文句」って何?
鰻:「刺す順番おかしい」とか
橋:「おかしい」とかないやんあんなん刺す順番に。バーベキューは自由や。フリー具材や
鰻:「フリー素材」みたいに言うな
橋:具材は好きなように刺したらええねん
鰻:橋本やったらどういう順番刺す?
橋:それは「バーベキュー」やからね。まずは肉から刺すんじゃないですか?
鰻:肉からね。次は?
橋:次?次は〜ピーマンとかね
鰻:ダサっ!
橋:何が?
鰻:「肉→ピーマン」から刺し始めるのは古い
橋:「古い」ってなんやねん。そんなんに「古い」も「新しい」もないやん。「1960年代の古き良きバーベキューの具材の刺し方が今ここに!」とかないやろ
鰻:何を言うてんねん
橋:具材の刺し方に「『古い』とか『ダサい』とかない」言うてんねん
鰻:何事にも「流行り」というものがあんねん
橋:あるけど,バーベキューの具材刺す順番に「流行り」なんてないやろ
鰻:2021年はピーマンからや
橋:何が?
鰻:今年はピーマンから刺すのが流行ってんねん
橋:そんなん流行ってます?「ピーマン」なんてぼくの人生の中で一回も流行ったことないよ
鰻:だから例えば,ピーマン→たまねぎ→エリンギ→ホタテとかや。な?
橋:「な?」言われても
鰻:こういう流行りを踏まえて刺さんと
橋:それほんまに流行ってんの?
鰻:まずはピーマンからや
橋:ほんならもうピーマンから刺したらええんやな
鰻:そうや。まずはピーマン。次は?
橋:え〜ウィンナー→鶏肉→エリンギ?
鰻:ええやん
橋:ええの?これが?
鰻:おまえ初めてか
橋:何が?
鰻:それ自分で考えたん?
橋:「自分で考えた」って何?
鰻:「ピーマン→ウィンナー」から入るのはニューヨークスタイルやから
橋:ニューヨークスタイル?
鰻:「雑誌かなんかで見たんかな」思うて
橋:見てないわ!ほんであんのか「月間バーベキュー」みたいな雑誌が
鰻:トーマス・マッコイが得意とするニューヨークスタイルや
橋:誰やねんそいつ。「トーマス・マッコイ」って。そんな「近代バーベキューの父」みたいなやつおんのかほんまに
鰻:有名やん
橋:知らんて誰も。発明の父トーマス・エジソンのあとに出てきた次世代のトーマス,「近代バーベキューの父トーマス・マッコイ」なんて誰も知らんて
鰻:何を言うてんねんおまえはさっきから
橋:だから「ニューヨークスタイル」とかええねん。自分の好きなように刺したらええやん。バーベキューなんて
鰻:ほんならもう一回刺してみ
橋:え?
鰻:二本目の刺し方でほんまの実力が分かるから
橋:「実力」とかないやんこんなんに
鰻:何からいく?
橋:ほんならもう〜ピーマン→
鰻:最初はな。次は?
橋:エリンギ→とうもろこし→とうもろこし?
鰻:ええやん!
橋:何が?
鰻:最後の「とうもろこし→とうもろこし」はもう師匠の刺し方や
橋:師匠の刺し方!?
鰻:バーベキュー師匠や
橋:「ハンバーグ師匠」みたいに言うなよおまえ
鰻:ホームページ持ってんの?
橋:「ホームページ」って何?
鰻:バーベキューのホームページ
橋:持ってないわそんなもん。バーベキュー専門のホームページなんて
鰻:師匠!
橋:俺師匠じゃないから
鰻:もう一本刺していただいてもよろしいでしょうか?
橋:もうええやん。適当に刺してるだけやから俺
鰻:師匠!そこをなんとかお願いします
橋:ほんならもう〜ピーマン→たまねぎ→イカ→ベーコン→とうもろこし
鰻:素晴らしい作品ですね師匠!
橋:「作品」って何?
鰻:早速その新作を披露されてはいかがでしょうか?
橋:なんやねん「新作」て。そんな大層なもんちゃうやろ
鰻:明日のバーベキューで
橋:「明日のバーベキュー」って何?
鰻:ぼく明日バーベキュー行く予定なんで
橋:いやいや。ぼくは明後日バーベキュー行く予定やから
鰻:師匠,明日も一緒に行きましょう
橋:なんで二日続けてバーベキュー行かなあかんねん俺
鰻:明日のバーベキュー一人で行くの寂しいんで
橋:おまえ一人で寂しいんやないか。もうええわ
これを読んで,「チュートリアルのモノマネ」という印象はなく,「銀シャリのネタのようだ」と感じられたら,「カバー漫才」として成功だと思います
このテーマに関する質問・意見・反論などは
「みんなで作る漫才の教科書」にお寄せください
「みんなで作る漫才の教科書」とは,テーマ別に分類した「漫才論」にみなさんから「質問」「意見」「反論」などをいただいて,それに答えるという形式で教科書を作っていこうというプロジェクトです
THE MANZAI magazine
❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」
フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔 出演: おせつときょうた