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漫才論| ⁶⁶カバー漫才台本 「チュートリアルの『バーベキュー』を笑い飯がカバーしたら」

「カバー」と言いながら,カバーではなくコピーやモノマネになってしまうパターンが多いカバー漫才ですが,その原因についてはこちらの記事で書きました

原因が分かっても,コピーやモノマネではない「カバー漫才」がどのようなものなのかを見てみないとイメージが湧かないかもしれないと思い,カバー漫才台本を作ってみました

元ネタは,2005年のM-1グランプリ決勝で披露されたチュートリアル「バーベキュー」のネタです。今回はこのネタを「笑い飯がカバーしたらこうなるのではないか」というイメージで書いてみました(読みやすいように元ネタよりも短くしてあります)

哲夫:明後日なんですけどね
西田:おぉ
哲:ぼくバーベキューに行こうと思ってましてね
西:あぁ一人で
哲:みんなでや
西:みんなで!?
哲:あたりまえや。なんでぼくバーベキューに一人で行かなあかんねん
西:一人で行ったら串に具材刺し放題やないか
哲:「串に具材刺し放題」はなんもうれしい要素ないやん
西:何が?
哲:一人でひたすら串に具材刺すなんて寂しいだけですよねぇ

西:寂しないよ
哲:寂しいですよねぇ
西:一人なら自分の好きな順番で串に具材刺せますからね
哲:具材なんてみんないてもみんな自分の好きな順番で刺してるやん
西:みんないても自分の好きな順番で刺してええの?
哲:おまえバーベキューの時,誰に気遣ってんねん
西:ほんならまず肉刺して
哲:おぉ
西:次にピーマンとか刺してもええの?
哲:ええよそれは別に
西:気遣わんでええの?
哲:だから誰に気遣ってんねん。ただね
西:何?
哲:ちょっとダサいですけどね
西:ダサい?何が?
哲:「肉→ピーマン」から刺し始めるのは80年代の刺し方やからね
西:「80年代の刺し方」ってなんやねん
哲:だからぼくやったらね
西:おい。「80年代の刺し方」ってなんやねん
哲:まずお肉を刺して
西:おい
哲:次にとうもろこしとかね
西:それは90年代の刺し方やないか
哲:「90年代の刺し方」ってなんやねん
西:それは古いしダサい
哲:おまえの80年代の刺し方より新しいやないか
西:何事にも「流行り」というもんがあんねん
哲:そうやで。2021年はピーマンから刺すのが流行ってますからね
西:今年はピーマンからが流行ってんの?
哲:今年はみんなピーマンから刺すんですよ
西:ほんなら俺は
哲:うん
西:ピーマン→ウィンナー→鶏肉→エリンギでいくわ
哲:それはニューヨークスタイルやないか
西:「ニューヨークスタイル」ってなんやねん
哲:今年ニューヨークで大流行した刺し方や
西:具材を串に刺すのに「スタイル」なんてあんのか
哲:だからぼくはね
西:おぉ
哲:ピーマン→たまねぎ→エリンギ→ホタテでいこうかな

西:それはおまえ,トーマス・マッコイのと同じやつやないか
哲:誰やねんトーマス・マッコイて
西:おまえトーマス・マッコイ知らんの?
哲:知らんやろそんな「近代バーベキューの父」みたいなやつ
西:ほんならおまえ,偶然トーマス・マッコイと同じ刺し方したってこと?
哲:偶然やそんなもん。っていうか誰やねんトーマス・マッコイて
西:近代バーベキューの父トーマス・マッコイやないか
哲:「『近代バーベキューの父』みたいなやつ誰やねん」って俺ボケで言うたのに当たってもうてるやん
西:「ニューヨークスタイル」の生みの親
哲:あの「ニューヨークスタイル」もトーマス・マッコイが考えたやつなん!?
西:俺のはそんなんちゃうで
哲:何が?
西:ちゃんと自分で考えた刺し方やから
哲:自分で考えたん?
西:ピーマン→ベーコン→アスパラ→ウインナー
哲:おまえそれ週刊誌に載ってたやつないか!見たやろ週刊誌
西:バーベキューの週刊誌なんて見てないわ!
哲:「週刊バーベキュー」
西:あんのかそんな週刊誌
哲:ありますよ
西:ないやろたぶん
哲:ぼくのはね
西:おぉ
哲:ピーマン→エリンギ→とうもろこし→とうもろこし

西:おまえ「日刊バーベキュー」見たやろ
哲:「日刊バーベキュー」なんて絶対ないやろ。そんな毎日毎日バーベキューの記事なんて書くことないわ
西:しかも,最後「とうもろこし→とうもろこし」でしめるなんて師匠の刺し方やからな
哲:え?これ師匠の刺し方なん?
西:偶然か
哲:偶然師匠と同じ刺し方になってもうた。まぁまぁセンスあるんかなぼく
西:ホームページ持ってんの?
哲:「ホームページ」って何?
西:バーベキューの
哲:バーベキュー専門のホームページなんて持ってないよ
西:師匠!もう一本刺していただいてもよろしいでしょうか?
哲:俺「師匠」ちゃうで
西:もう一本お願いします
哲:ほんなら,ピーマン→イカ→ベーコン→とうもろこし

西:素晴らしい作品ですね師匠
哲:師匠になると「作品」って言うてもらえんの?
西:早速その新作を披露されてはいかがでしょうか?
哲:「新作発表会」みたいなんもあんの?
西:明日のバーベキューで
哲:「明日のバーベキュー」って何?
西:私あの〜明日バーベキューに行く予定なんですよ
哲:ぼくは明後日みんなでバーベキュー行く予定やから
西:師匠,明日も行きましょう
哲:嫌やて。なんで俺二日続けてバーベキュー行かなあかんねん
西:明日のバーベキュー,ぼく一人で行くの寂しいんで
哲:おまえ一人で寂しいんやないか。もうええわ

これを読んで,「チュートリアルのモノマネ」という印象はなく,「笑い飯のネタのようだ」と感じられたら,「カバー漫才」として成功だと思います

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THE MANZAI magazine
❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」

フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた


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藤澤俊輔 (漫才作家/小噺作家)
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】