[落語] 「シュークリーム[仮]-◯◯◯を止めるな!-」【改訂版】
息子:おとっつぁんただいま〜
父:お〜おかえり。どうだ?買えたか?例のシュークリーム
息子:いや。駄目だったよ。午後も売り切れだよ
父:午後も売り切れか〜
息子:大行列だよ。えーらい待つよ
父:そんなにすげぇのか?
息子:ほら。今の店の様子。WEBカメラってので見れんだよ
父:今時はそんなんで見られんのか
息子:ほーらいますよ〜人人人
父:すげえ人・・・ん?これ人か?
息子:何が?
父:怪獣じゃねぇのか?これ
息子:怪獣?
父:ほらここ。緑とか赤のやついんだろ
息子:あ〜着ぐるみだよそれは
父:着ぐるみ?
息子:商店街で流行ってんだよ。怪獣とかゆるキャラの着ぐるみ着て店の宣伝すんの。どの店もやってるよ
父:全然宣伝してねぇじゃねぇか。みんなシュークリーム屋に並んで
息子:宣伝ついでに並んでんだよ。この店よくテレビとか取材に来るからさ,怪獣の着ぐるみ着て並んでるだけで宣伝になる
父:ついでにシュークリームも買えるなんていい仕事だな
息子:この人たちもなかなか買えないみたいだけどね。夜の部だってすぐ売り切れちゃう。あっほら。こっちも見てよ
父:なんだよ
息子:シュークリームこしらえてるとこ。WEBカメラでリアルタイムで見れんだよ
父:お〜これあれか?シュークリームの生地こしらえてるとこか?
息子:そうそう。ほら,生地練ってるでしょ。そこに入れんだよ
父:何を?
息子:とろろ
父:とろろ!? 「とろろ」って・・・,あのとろろか?
息子:山芋すったやつ
父:シュークリームにそんなもん入れんのか
息子:それが人気の秘密なんだよ。ほら。練ってるところにすぐとろろ
父:「とろろ入れてる」ってだけでこんなに人気あんのか?
息子:あ〜あとはあれだね。役所広司さん
父:役所広司?「役所広司」って…,あの役所広司か?
息子:俳優の
父:役所広司の店か?ここ
息子:違うよ。おとっつぁん「ブラタモリ」って知ってる?
父:ブラタモリ?あ〜知ってるよ。タモリがブラブラといろんな町を歩き回って紹介する番組だろ?あ〜ブラタモリのゲストで来たのか役所広司が
息子:いや,そうじゃなくてさぁ,タモリさんみたいなかんじで役所さんがメインでブラブラしながら町とか店を紹介する番組があんだよ
父:新番組か。最近はいろんな芸能人が散歩するって番組増えてっからなぁ
息子:芸能人ってさぁ,なんであんなに散歩が好きなのかなぁ?「散歩散歩」って,散歩の常習犯だよね
父:「散歩の常習犯」って言い方はねぇだろ。あれだって仕事だよ
子:こないだその番組で役所さんが来てさぁ,「常習犯のお通ーりだ〜い」ってかんじで行列かき分けて先頭に割り込んで,シュークリーム食べてったんだよ
父:割り込んだわけじゃねぇだろ。テレビだから優先してもらったってだけで
息子:でもそのせいでさらに行列が長くなってさぁ,こっちはいまだにシュークリーム買えないんだよ。ほんと欲しいのに
父:役所さんだって,「並んでるみなさんに悪ぃな〜」って思いながら食ってんだよ
息子:ほんとかなぁ?「超うめー。超好き」って言いながら満面の笑み浮かべて食べてたよ
父:それはテレビだからだろ?仏頂面で食うわけにはいかねぇ。それに,食った後の決め台詞みたいなの持ってると食レポやりやすいんだよ。役所広司がプライベートで「超うめー。超好き」なんて言うわけがねぇ
息子:あ〜そういうことか。「まいう〜」みたいなかんじで,「超うめー。超好き」って言ってんのか
父:で?どうすんだ?明日も並ぶのか?
息子:いや,もう並ばない
父:なんだよ。もうあきらめんのか
息子:名前書いてきた
父:名前?なんの?
息子:今後は当分抽選なんだってさ。抽選で当たればシュークリームが買えるってシステム
父:予約じゃなくて抽選!? 予約だと対応しきれねぇくらいの人気ってことか
息子:でもさ,確実に当たる名前書いてきたから大丈夫だよ。自信あんだ。当たったら電話来るから
────────────────────────
それから一週間が過ぎたある日のことでございます────────────────────────
店員:ごめんくださいまし。ごめんくださいまし
父:誰だよこんな朝っぱらから。なんだよ。見慣れねぇ顔だな。どうした?
店員:あの〜こちらに,「シュークリームさん」という名前の方はいらっしゃいますか?
父:シュークリームさん?そんな変な名前の奴いるわけねぇだろ
店員:そうですよねぇ・・・
父:その〜「シュークリーム」ってのは名字か?それとも名前か?
店員:いや〜それがですねぇ,どこまでが名字で,どこからが名前かよく分からねぇんですよ〜
父:だったらお前〜,名字がシューで,クリームが名前だろ
店員:いや実は〜,「シュークリーム」で全部じゃねぇんですよ
父:「シュークリームで全部じゃねぇ」ってどういうことだよ
店員:へぇ。それがですねぇ,べらぼうに長い名前でして
父:べらぼうに長い名前?どんくらい長えんだよそれ
店員:へぇ。言いますよ
父:おぉ。なんだよ。スッと言えよ
店員:いきますよ。え〜と・・・,「シュークリーム シュークリーム 午後ーも売り切れ 怪獣ついでに 大行列 えーらい待つ ほーらいます こう錬るところにすぐとろろ 役所広司のブラ広司 散歩 散歩 散歩の常習犯 常習犯のお通ーりだい 常習犯の ほんと欲しいの ほんとかなーの 超うめーの超好き」って名前でして
父:・・・・・・。なんだよそれ。え?それほんとに名前か?
店員:いやそう書いてあるんすよここに。そんな名前の方・・・いませんかねぇ?
父:いるわけねぇだろ。そんなふざけた名前の奴
店員:あの〜,これに似た名前の方は・・・
父:いねぇよ。だいたい似てたって仕方ねぇだろ
店員:書き間違いってことも考えられますから
父:「書き間違い」って,どこをどう書き間違えたらそんな名前になるんだよ
店員:いやでも〜こちらにも「負けず劣らず長い名前の方がいらっしゃる」と伺ったもんですからね〜
父:長い名前?あ〜いるけどよぉ。うち倅のことだろ?でも「長い」ってだけで,全然似てねぇよ
店員:そうですか。ちなみに,なんて名前なんです?
父:うちの倅かい?うちの倅は,「寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る処に住む処 藪ら柑子の藪柑子 パイポ パイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命の長助」ってんだ。どうだ?いい名前だろ?
店員:・・・・・・。似てますね〜
父:どこがだよ。どこが似てんだよ。全然似てねぇよ。うちの倅の名前はべらぼうにおめでてぇ名前なんだよ。そんなシュークリームみたいな甘ったるい名前と一緒にされちゃあ困るよ
店員:あの〜,もう一回だけ息子さんの名前教えてもらえませんか?
父:もう一回?
店員:えぇ。お願いします。できればちょいとゆっくりと
父:ゆっくりと?え〜寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ
店員:シュークリーム シュークリーム 午後ーも売り切れ
父:海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末
店員:怪獣ついでに 大行列 えーらい待つ ほーらいます
父:食う寝る処に住む処
店員:こう錬るところにすぐとろろ
父:藪ら柑子の藪柑子
店員:役所広司のブラ広司
父:パイポ パイポ パイポのシューリンガン
店員:散歩 散歩 散歩の常習犯
父:シューリンガンのグーリンダイ
店員:常習犯のお通ーりだい
父:グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
店員:常習犯のほんと欲しいのほんとかなーの
父:長久命の長助
店員:超うめーの超好き
父:・・・・・・
店員:似てますね
父:「似てる」っていうのかい?こういうの。だいたい誰なんだよその「シュークリーム」って野郎は
店員:へぇ。駅前の商店街にあるシュークリーム屋をご存じで?
父:あ〜知ってるよ。行列がすごくてなかなか買えねぇ店だろ?
店員:へぇ。今抽選ってのをやっておりまして,「シュークリーム シュークリーム 午後ーも売り切れ 怪獣ついでに 大行列 えーらい待つ ほーらいます こう錬るところにすぐとろろ 役所広司のブラ広司 散歩 散歩 散歩の常習犯 常習犯のお通ーりだい 常習犯のほんと欲しいのほんとかなーの 超うめーの超好き」さんが当選されたんですけどねぇ,電話番号が書いてなかったもんで。で,住所を頼りにこうしてここへやって来たってわけなんです
父:え?てこたぁ・・・,うちの倅が当選したってことかい?
店員:あっいやでも,名前が似てるってだけで人違いだったみたいなんで,ほか当たってみます
父:あの野郎,「確実に当たる名前書いた」ってこういうことか。どういう神経してんだあいつは
店員:では,失礼しますよ
父:いや,ちょっと待て。ちょいと待ってくれい
店員:え?
父:あの〜・・・その名前だけどよぉ・・・
店員:へぇ
父:似てるねぇ・・・
店員:え?
父:いや名前だよ。うちの倅の名前とよ〜く似ている
店員:いやでもさっきは,「全然似てねぇから一緒にすんな」って・・・
父:書き間違えたのかもしれねぇなぁ
店員:え?
父:うちの倅そういうとこあんだよ。あいつは
店員:書き間違えた?息子さんが?盛大に書き間違えましたね〜
父:その名前を書いたのがうちの倅だってことを証明すりゃあ,当選ってことでいいんだろ?
店員:へぇ。それさえ確認できれば
父:ちょいと待ててくれよ。今確認してくっから────────────────────────
父:おい。おーい。寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る処に住む処 藪ら柑子の藪柑子 パイポ パイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命の長助
息子:なんだよおとっつぁん
父:「なんだよ」じゃねぇよ。なんだあの名前は
息子:「あの名前」って?
父:「シュークリームがどうのこうの」って名前だよ
息子:シュークリーム?あ〜「シュークリーム シュークリーム 午後ーも売り切れ 怪獣ついでに 大行列 えーらい待つ ほーらいます こう錬るところにすぐとろろ 役所広司のブラ広司 散歩 散歩 散歩の常習犯 常習犯のお通ーりだい 常習犯のほんと欲しいのほんとかなーの 超うめーの超好き」のこと?
父:お前よく覚えられたなその名前。あれ書いたのお前だろ
息子:書いたよ。あっ!もしかして来たの?連絡
父:連絡は来ねぇ。シュークリームが来た
息子:シュークリームが!? 自分で?
父:そんなわけねぇだろ。お店の人が届けに来てくれたんだよ
息子:お店の人が?わざわざ?
父:お前書くの忘れたろ。電話番号
息子:あっ!忘れた!
父:それでわざわざ届けに来てくれたんだよ
息子:そいつは申し訳ないことしたなぁ
父:そんなことよりお前,なんであんな変な名前書いた?
息子:変じゃないだろ。「シュークリーム大好き!」ってことをアピールしたほうが当選する確率上がるかな〜と思ってさ。当たったんでしょ?ほんとに
父:そりゃまぁそうだけどよぉ・・・
息子:で?どこにあんの?シュークリーム
父:受け取ってねぇ
息子:受け取ってない?なんで?
父:いやあの〜,店の人がよぉ,うちに「シュークリームみたいな名前の奴いるか」って聞いてきたから「そんな奴はいねぇよ」って言ったんだよ。でもうちには「『長い名前の奴がいる』って聞いた」って言うから,「うちの倅は『寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る処に住む処 藪ら柑子の藪柑子 パイポ パイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命の長助』ってめでてぇ名前だから,そんなシュークリームみたいな甘ったるい名前じゃねぇ」って言っちまった
息子:え!? それで帰っちゃったの?
父:いや,まだ玄関にいる
息子:じゃあ受け取ろうよ
父:受け取れねぇ
息子:なんで?
父:証明する必要がある
息子:何を?
父:その「シュークリームなんちゃらかんちゃら」って名前を書いたのがお前だってことをだ
息子:「証明」って言われてもさぁ,そんなのどうやって証明したらいいんだよ
父:分からねぇけど,とにかくお前も来い
息子:分かったよ。今行くから────────────────────────
父:おう,待たせたな。やっぱり倅が書いたみたいだ
店員:そうですか。それは良かった。念のため,本人確認させていただければ・・・
父:いや〜今倅から聞いたんだけよぉ。どーしてもおたくの店のシュークリームが食いたくて,あいつ思わずあんな名前書いちまったらしいんだ。さっきも言ったようにあいつの本名は,「寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る処に住む処 藪ら柑子の藪柑子 パイポ パイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命の長助」ってめでてぇ名前だ。あたりめぇだが,免許証とか保険証とかマイナンバーカードも全部その名前になってっからよぉ,それを書いたのがうちの倅だってこと,証明できねぇんだ。証明はできねぇんだけれども,あいつのシュークリームに対する熱い思いに免じて,あいつが本人だと認めてもらえねぇかなぁ
店員:名前を書き間違えたんじゃなくて,シュークリームへの思いが強すぎて思わずあんな名前を!?
父:そうなんだよ。すまねぇ。そういうとこあんだよあいつは。誰に似たのかねぇ。まぁでも頼む。この通り。認めてやってくん・・・
息子:おとっつぁん
父:おっ来やがったな。ちょっとこっち来い。いいから。こいつがね,うちの倅なんですけどね
店員:あなたが,「シュークリーム シュークリーム 午後ーも売り切れ 怪獣ついでに 大行列 えーらい待つ ほーらいます こう錬るところにすぐとろろ 役所広司のブラ広司 散歩 散歩 散歩の常習犯 常習犯のお通ーりだい 常習犯のほんと欲しいのほんとかなーの 超うめーの超好き」さんですか?
父:だから「そうじゃねぇ」って今言ったろ。聞いてたのか人の話
息子:いえ僕は,「寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る処に住む処 藪ら柑子の藪柑子 パイポ パイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命の長助」という者なんですが,「シュークリーム シュークリーム 午後ーも売り切れ 怪獣ついでに 大行列 えーらい待つ ほーらいます こう錬るところにすぐとろろ 役所広司のブラ広司 散歩 散歩 散歩の常習犯 常習犯のお通ーりだい 常習犯のほんと欲しいのほんとかなーの 超うめーの超好き」と書いた者です
店員:ご本人ですね。間違いない
父:え?証明できたのかい?今ので
店員:ええ。間違いないです。完璧に証明されました
父:ああそうかい?じゃあそのシュークリームは・・・
店員:えぇもちろんです。ではお代のほうを・・・
父:おぉ払うよもちろん
店員:あっ・・・ちなみに〜今何時です?
父:今?え〜今は10時を回ったとこだけど?
店員:まだ1時間しかたってないんですね
父:何言ってんだよ。夜の10時だよ
店員:え?夜の10時!? あれ?じゃあもう帰らないと。あの〜これは持って帰りますんで
父:おいなんでだよ。シュークリームは置いてってくれよ
店員:あんまり名前が長いんで,◯◯◯◯が◯◯ちゃいました
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あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】