[長尺漫才] ステーキ食べたい(当て書き:プラス・マイナス)
#オチを予想してお楽しみください (14文字)
岩橋良昌:ちょっと悩んでることがありまして…
兼光タカシ:なんでしょう
岩:誰かの家に食事に呼んでもらえることってあるじゃないですか
兼:ありますねぇ
岩:そんときに,「どうすればステーキを出してもらえるのか」ということをずっと悩んでるんですよ
兼:なんやねん。そんなん悩みちゃうやろ
岩:れっきとした悩みや。お金持ちの幸せそうな人々はみんなステーキ食うてるやろ?
兼:みんなてことないやろ。「ステーキ食うてるから幸せ」ってわけやないし
岩:幸せなんはステーキ食うてるからや。「ステーキは幸せの塊や!」言うてたで
兼:誰がや。ことわざか。「ステーキは幸せの塊」てなんやねん
岩:それに, 生まれてから一度も人んちでステーキ出してもらったことないから,「俺みんなに嫌われてんちゃうかな」て心配なるやん
兼:それは当然やろ
岩:「当然やろ」ってなんでやねん。俺そんなに嫌われてんの?
兼:誰かを家に呼んでステーキ出す人なんてほとんどおらんから「当然や」言うてんねん。お前が嫌われてるかどうかについては,俺の口からは言われへんけど…
岩:絶対嫌われてるやろ,俺
兼:まぁでも,誰かを家に呼んでステーキ出すのはうちくらいなんじゃないですか?
岩:え?兼光さんち行ったらステーキ出してくれんの?
兼:うちのホームパーティーはいつもステーキって決まってますからね
岩:ってことは?今週お前んちで開かれるホームパーティーのメニューは?
兼:ステーキや
岩:なんやねん,これでもう悩み解決やないか。今からテンション上がってきた!
兼:そんなに人んちでステーキ食いたいんやったら,「今度うち来たとき何食べたい?」って聞かれたときに,「ステーキ食べたい」言うたらええやん
岩:それはさすがに言われへんやろ
兼:どうしても食いたいんやろ?人んちで
岩:どうしても食いたい。人んちで
兼:それやったら言うしかないやろ
岩:いやいやいや。いくら厚かましい俺でも,「ステーキ食べたい」は言われへんて
兼:言えないんやったら,今度のホームパーティーのステーキもお預けや
岩:なんでやねん
兼:ちゃんと「ステーキ食べたい」って言うたらええけど
岩:だから…,言われへんねんて
兼:今度のホームパーティー何食べたい?
岩:ス…ス…ステ…ステ…
兼:……。え?「ステーキ」さえも言えてないやん
岩:だから「言われへん」言うてるやん
兼:「言われへん」てそういうことなん?恥ずかしくて言われへんとか,遠慮して言われへんとか,そういうことちゃうの?
岩:緊張しすぎて「ステーキ」って単語さえも発音できなくなんねん
兼:お前今「ステーキ」って言えてるやん
岩:今はな
兼:どういうことや。「ステーキ食べたい」言うてみ
岩:ステーキ食べたい
兼:言えてるやん
岩:今は言えますよ,そりゃあ
兼:「今は」ってなんやねん
岩:正式に聞かれると,緊張して言えないんですよ
兼:「正式に聞かれると」って何?
岩:だから,「何を食べたいか」って正式に聞かれると,言われへんねん
兼:なんなんそれ。「あがり症」ってこと?
岩:なんやそれ
兼:緊張しすぎて普通じゃいられなくなる病気みたいなもんや
岩:「ステーキ食べたい」って言えなくなる病気ってこと?
兼:お前今「ステーキ食べたい」って言えてるやん
岩:だから,「普段は言える」言うてるやろ
兼:今度のホームパーティーで何食べたい?
岩:ス…ス…ステ…ステ…
兼:わざとやろ
岩:わざとちゃうわ。「何食べたい?」って聞かれると「緊張する」言うてるやろ
兼:どうしても「ステーキ食べたい」って言われへんの?
岩:どうしても言われへん。「ステーキ食べたい」なんて
兼:言えてるやん
岩:だから正式に聞かれると…
兼:何食べたい?
岩:ス…ス…ステ…ステ…
兼:なんやねんこのシステム。仕組みがよう分からへんけど,正式に聞かれたときに「ステーキ食べたい」って言われへんいうんやったら,おかゆやからな
岩:なんやねん「おかゆ」て
兼:「おかゆ」というのは,米に多めに水を入れてやわらかく煮た食べ物のことや
岩:おかゆは知ってんねん。「『ステーキ食べたい』って言えなかったらおかゆや」ってどういうことやって聞いてんねん
兼:「ステーキ食べたい」って言えないんやったら,「誰かの家に呼ばれたときに出てくるメニューは決まっておかゆや」言うてんねん
岩:なんやねんそのシステム。「ステーキ食べたい」って言わんかったら,普通は普通のメニューが出てくるやろ
兼:俺が「岩橋は実はおかゆが大好物で,『必ずおかゆを出してほしい』言うてたで」って言いふらして回るからや
岩:何してんねんお前は
兼:お前が「ステーキ食べたい」って言えないからや
岩:「ステーキ食べたい」って言われへんのはそない悪いことちゃうやろ
兼:今は言えてんねん,「ステーキ食べたい」って
岩:だから正式に聞かれると…
兼:克服させてやりたいねん
岩:え?
兼:俺はお前のあがり症を治してやりたい
岩:兼光…
兼:それとや,この際やから言わしてくれ
岩:なんやねん,改まって
兼:前々から「言おう言おう」思うてたんやけど,お前は日頃からおかゆをバカにするとこあるやろ?
岩:いやいやいや,ないよそんなん。おかゆをバカにしたことなんて
兼:ほんなら,誰かの家に呼ばれて,メニューがほんまにおかゆのみやったらどうする?
岩:「どうする」て…,食べますよ
兼:喜んで?
岩:「喜んで」ってまぁあの〜…普通に?
兼:テンションは?
岩:テンション?
兼:おかゆを食べるときのテンションや
岩:おかゆを食べるときのテンション?まぁ…テンションはちょっと低めになるかもわからんけど…
兼:そういうことや
岩:どういうことや
兼:テンションが下がるということは,おかゆをバカにしてるということや
岩:なんでそうなんねん。バカにはしてないやろ。ホームパーティー呼ばれてメニューがおかゆのみやったら誰でもテンション下がるやろ
兼:俺は下がりませんよ。むしろ上がるわ
岩:テンション上がんの!? おかゆのみで?
兼:俺はおかゆを心から愛してますからね
岩:おかゆって,「愛する」とかあります?
兼:お前は知らんと思うけど,おかゆというのは,人の心の状態を明らかにするそれはそれはありがたい食べ物や
岩:いやいやいや,おかゆってそんなすごい食べ物ちゃうやろ
兼:おかゆが出てきたときにテンションが上がるとすれば,感謝に満ちた純粋な心を持っているということが明らかになり,テンションが下がるとすれば,心が薄汚れてるってことが明らかになるやろ
岩:「薄汚れてる」は言いすぎやろ
兼:お前の心は薄汚れてんねん
岩:おかゆで判断すんな
兼:だから,うちでホームパーティーをやるときは,メニューは決まっておかゆのみ。実はそうやって密かにみんなの心を探ってんねん
岩:え?おかゆのみ?
兼:そこはええやん。実はそうやって密かにみんなの心を探ってんねん俺
岩:それはどうでもええ。おかゆのみ?
兼:おかゆのみや
岩:話ちゃうやん
兼:何が?
岩:今度のホームパーティーのメニューや
兼:おかゆやろ?
岩:「ステーキ」って言うたやん
兼:言うてない
岩:みなさん言いましたよねぇ?この人。「ステーキ」って
兼:「ステーキ」ってなんやねん
岩:なんで急に「ステーキ」分からなくなってんねん
兼:今度のおかゆのみのホームパーティー楽しみやな〜
岩:最悪や,ホームパーティーでおかゆのみて…
兼:お前今おかゆバカにしたやろ
岩:バカにはしてない。バカにはしてないけど,おかゆのみでホームパーティー最後までもたんやろ。それやったら,おかゆの代わりに,雑炊にしてもええんちゃう?
兼:なんで?
岩:「なんで」って…,いつもおかゆなんやろ?
兼:毎回おかゆや
岩:それやったら,たまには雑炊でもええやん
兼:まぁ…たまには雑炊でもええけど,お前おかゆを避けようとしてる?
岩:してへん,してへん。実は俺,美味しい雑炊の作り方知ってんねん
兼:どんな?
岩:まず鍋をやって,その後で雑炊にする
兼:あ〜鍋の後の雑炊な。確実に美味いやつや。それやったら鍋パーティーにしたらええんちゃう?
岩:ええの?
兼:ええよ。何鍋がええの?
岩:そやな〜 ちなみに,お前がよくやる鍋は?
兼:おかゆ
岩:なんでそうなんねん。おかゆは鍋ちゃうやろ
兼:土鍋でおかゆ作れば鍋やろ。うちは子どもの頃から「鍋」といえばおかゆや。家族みんなでおかゆつついて
岩:おかゆなんてつつけます?
兼:心が純粋な人はつつけんねん。で,その後に雑炊やな
岩:米に米やろそれやったら。おかゆの後の雑炊ってどういう状態や。おかしなことなるやろ
兼:お前が「鍋の後に雑炊したい」言うからや
岩:俺は,「普通の鍋をして,その後で雑炊したい」言うてんねん
兼:みんなそうやって「普通,普通」て言うけど,お前が「普通や」言うてる鍋がほんまに普通の鍋か分からんやろ?俺にとっての「普通の鍋」はおかゆなんやから
岩:それはそやけど,「寄せ鍋」とか「キムチ鍋」とかあるやん
兼:あ〜…「普通の鍋」ってそういう鍋のこと言うてんの?
岩:あたりまえや
兼:でも,うちでおかゆ以外の鍋言うたら…,せいぜい「カニ鍋」くらいやで?
岩:めっちゃええやん!そういうの言うてんの
兼:カニ鍋なんかでええの?
岩:「カニ鍋なんかで」って,最高やろカニ鍋は
兼:うちのカニは特別なんやけど,それでもええの?
岩:「特別」ってなんやねん。高級ってこと?
兼:いやいやいや,うちの家族はみんなそれが「普通や」と思うてんねんけど,うちでカニ鍋やるとみんな決まって「兼光んちのカニってすげぇな…」って言われる
岩:それ超高級なカニやろ
兼:いやいやいや,全然高いもんちゃうよ
岩:金持ちはみんなそう言うねん。「全然高いもんちゃう」て
兼:うちのカニはちょっと作り方変わってんねんけど…
岩:カニ鍋の作り方やろ?
兼:ちゃうよ。カニの作り方や
岩:「カニの作り方」ってなんやねん
兼:うちでは,カニの殻にカニかま詰めてカニを作る
岩:カニの殻に?カニかま詰めんの?兼光んちのカニってすげぇな…
兼:魚屋でカニの殻をもらってきて,そこにカニかま詰めんねん。鍋に入れるとカニの殻のダシがカニかまにしみ込んで美味いやろ?どの家庭でも,カニの殻にカニかま詰めんのは子どもたちの仕事やと思うけど…
岩:兼光家だけや,その仕事あんの
兼:兄弟で誰が早く詰められるか競争するやろ?俺はいつも一番やってん,カニの殻にカニかま詰めんの。懐かしいやろ?
岩:「懐かしいやろ?」言われても…
兼:で?今度のパーティーはほんまにカニ鍋でええの?他に食べたいもんない?
岩:ス…ス…ステ…ステ…
兼:お前また…
岩:やっぱり無理や。「ステーキ」すらうまく言われへん
兼:だから今は言えてるやん,「ステーキ」って
岩:でも,今のカニの話からすると,お前が言うてる「ステーキ」もちょっと怪しない?
兼:「俺のステーキが怪しい」ってどういうことやねん。失礼やないか
岩:俺が思うてるステーキとお前が思うてるステーキが違うってことあるやろ?
兼:そんなんないやろ。「ステーキ」は全国共通や
岩:肉を焼いたやつやろ?
兼:それはあたりまえや。焼かんとポロポロなるやろ
岩:ポロポロ?
兼:ステーキってそぼろのことやろ?そぼろは最高に美味い。特にごはんにかけて食べるときのそぼろは。そぼろが美味すぎてごはん足りなくなってよう兄弟喧嘩とかしたやろ?今となってはええ思い出やけど…
岩:そぼろは美味いけど…,ステーキはポロポロしてへん
兼:ポロポロしてへんの?うちの親はそぼろのことを「ステーキ」言うてたけど
岩:……。まぁ~…呼び方は各家庭とか地方によってもいろいろあるけど,多くの家庭では,そういうポロポロしたやつやなくて,肉の塊のことを「ステーキ」言うねん
兼:あ〜そっちな。塊のほうな
岩:そっちやそっちや
兼:食べ残したそぼろを拾い集めて塊にしたやつのことやろ?うちではちゃんとそれを拾い集めて,塊にして,焼いて食べんねん。人はみなそぼろを食べ残すから。あれがステーキやろ?あれは美味い!
岩:「人はみなそぼろを食べ残す」ってなんやその名言。しかしあれやな,お前ずいぶん楽しそうに話すな〜そんな子どもの頃の話を
兼:当然や。楽しいやろ。どれも懐かしい家族の思い出や
岩:……俺,今度のホームパーティーおかゆにするわ
兼:え?なんで?「雑炊がいい」って言い出したのはお前やろ
岩:俺,心が薄汚れてた。いや,薄汚れたなんてもんやない,真っ黒や,俺の心ん中は。ステーキとかカニとか,高級な物を食える人が幸せやと思うてた。でも,そういうことやないねん。お前見てて分かったわ。高級な物なんかなくたっていい。家族や友人がそばにいて,みんなで分け合って,みんなで笑い合って,みんなで思いやって生きる。それが幸せや。俺,幸せを見失うとこやった。心入れ替えるわ。お前の言うとおりや。おかゆってほんまありがたい食べ物なんやな
兼:岩橋〜分かってくれたんか。お前ならいつか必ず分かってくれる思うてた。何がほんとの幸せかが分かれば,「あがり症」も克服できるやろ
岩:そんなんで克服できんの?
兼:心の病は,「何かにしがみつこう」という態度が良くなかったりすんねん。こだわりを捨てられたら,良くなることもある
岩:じゃあ俺,今なら…言えるかな…
兼:今のお前なら,たぶん大丈夫や
岩:兼光,もう一回だけ聞いてくれるか?あれを
兼:そうやな。ほんなら聞くぞ
岩:あぁ
兼:正式に聞くぞ
岩:あぁ
兼:今度のホームパーティー,何食べたい?
岩:ス…ス…ステ…ステー…
兼:よし!その調子や!がんばれ岩橋!
岩:ステーキ…ステーキ食べ…ステーキ食べ…
兼:よし!あと一息や!
岩:ステーキ食べ…ステーキ食…ステ…ステー……ダメや。やっぱり無理や
兼:ほとんど言えてるやろ。あとは「たい」だけや。「ステーキ食べたい」の「たい」だけやから,あきらめんな
岩:やっぱり俺には無理だよ。「ステーキ食べたい」なんて言われへん
兼:だから今は言えてんねんて
岩:ええねん。もう,「ステーキ食べたい」なんて言う必要もなくなったんやから。俺は今心の底から「おかゆが食いてぇ」って思うてんねん。こんな清々しい気持ち初めてや
兼:そうか。無理して言うようなことちゃうわ。むしろその気持ち,忘れたらあかん。それやったら今度のホームパーティー,ほんまにおかゆでええんやな?
岩:俺は今ほんまにおかゆが食いたい
兼:そうか。ホームパーティーで万が一ステーキが出ても,それでもお前はおかゆのみでええんやな?
岩:ええよ。俺はどうせ「ステーキ食べたい」なんて言われへんし,それに,お前が言うてるステーキはたぶん,ステーキやないし…
兼:そうか。ほんなら,昨日もらった霜降りの松坂牛もええんやな?
岩:霜降りの?松坂牛?ってことは,本物のステーキ?
兼:「本物の」ってなんやねん。あたまえやろ。ステーキに本物も偽物もないやろ
岩:それ,お前の家族以外の誰かからもらったもんか?
兼:どういう質問やそれ。「家族以外の誰かから」て。近所の人からもらったもんや
岩:なら本物やな
兼:あたりまえや。それもええんやな?
岩:いや…ちょっと待って
兼:なんやねん。お前が今心の底から食いもんはおかゆやろ?
岩:それはそうなんやけど,できればおかゆだけやなくて松坂牛も…
兼: お前「心入れ替える」言うたやん。さっそく欲出してきて何してんねん
岩:そやけど,目の前に松坂牛ぶら下げられたら誰だってそうなるやろ
兼:まぁ…それはそやな。ほんなら今度のホームパーティー,おかゆとステーキどっち食べたい?
岩:◯◯◯◯◯◯◯◯
兼:◯⚪︎◯◯◯◯な
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】