[落語漫才] だくだく(当て書き:ロケット団)
#オチを予想してお楽しみください (6文字)
三浦昌朗:今日は最初に言っておきたいことがあるんですよ
倉本剛:なんですか?
三:オチです
倉:ダメでしょ
三:なんでだよ。ここに出てきて言いたいことを言う,それが漫才だろ
倉:そうですけど,漫才のオチを最初に言うのだけはダメですよ
三:なんでダメなの?
倉:オチって分かってます?
三:分かってるよ。今日の漫才のオチは…
倉:だから言うんじゃないよ
三:どうせ言うんだからいいでしょ,いつ言っても
倉:いやいやいや,いつ言うかが大事ですからね
三:今でしょ!
倉:今じゃないでしょ!絶対に今じゃないでしょ
三:通常は最後の方に言うっていうのは知ってますよ
倉:「最後の方」じゃなくて,一番最後ですから。「絶対に一番最後に言う」って決まってますから,オチは
三:でも俺オチが大好きだからね,何回か言いたいんですよ
倉:だからダメだって言ってんの。何回も言ったら最後のオチが落ちなくなりますから
三:それでも落とすのが漫才師だろうが
倉:名言っぽく言ってますけど,「好きだから最初にオチを言いたい」なんて漫才師として最低ですからね
三:いいオチだったら何回言っても落ちますから
倉:「いいオチ」かどうかの問題じゃないの。絶対落ちないから。絶対にやめてくださいよ
三:分かりましたよ。じゃあオチはちゃんと最後の方にいいますよ
倉:「最後の方」じゃない!一番最後!
三:分かったから。一番最後ね。でも俺ほんとオチが大好だから,当然落語も大好きなんですよ
倉:オチがある話,それが落語ですからね
三:だから今日は落語をやりたいなぁと思ってまして…
倉:落語をやりたい?何言ってるんですか?我々もうこうして二人で出てきちゃってますからね
三:こうなったら二人でやるしかないだろ
倉:二人で落語を?落語っていうのは一人でやるもんですからね
三:分かってるよ。俺は今日一人で落語やろうと思ってたのに,お前がついてきちゃったんだろ
倉:「ついてきちゃった」っていう言い方ひどくないですか?私相方ですからね
三:こうなったらしょうがないから「一緒に落語の演目やらせてやる」って言ってんだよ
倉:なんで上から目線なんですか。ちなみになんの演目ですか?
三:古典落語の「だくだく」っていう演目なんですけどね,みなさん知ってますかね
倉:牛丼の話ですか?
三:「つゆだく」だろそれは
倉:牛丼のつゆが「だくだく」っていう話じゃないんですか?
三:「古典落語だ」って言ってんの。古典にすき家とか松屋とか吉野家が出てくるわけないだろ
倉:じゃあ何が「だくだく」なんですか?
三:血ですよ
倉:血がだくだく出ちゃうっていう話?ホラーですか?
三:ホラーじゃないよ。「槍で脇腹突かれて血がだくだく出たつもり」っていう話
倉:「出たつもり」っておかしいでしょ。槍で脇腹突かれたら絶対血がだくだく出ちゃいますよねぇ
三:槍で突かれたつもりで,血もだくだく出たつもりなんだよ
倉:なんなんですか,その「つもり」って
三:そういう話なの。家財道具を全部売っちゃった男が壁一面に白い紙を貼って,そこに豪華な家財道具を描いていい暮らしをしてるつもりになっているっていう話。ある日その男が寝ていると,泥棒がやってきて盗もうとするんだけど,どれも壁に描いた絵だから盗めない。そっちが「あるつもり」で暮らしてるならこっちも「盗んだつもり」になってやろうってことで,風呂敷を広げたつもりになってそこにいろんなもの入れたつもりで盗んだつもり。それに気づいた男はずいぶん粋なことしやがる泥棒だってことで泥棒と格闘するつもりで絵に描いた槍を持ったつもりで泥棒の脇腹に突き刺したつもり。泥棒は「やられた。脇腹から血がだくだく出た……つもり」
(拍手)
三:どうもありがとうございます。これを今からやるから
倉:もう全部言っちゃったでしょ
三:言いましたよ
倉:しかもオチまで言いましたよねぇ
三:そうですね。「脇腹から血がだくだく出た……つもり」,これが「だくだく」という落語のオチです。このオチが大好きなんですよ
倉:だからなんで先にオチを言うの?
三:お前が「どんな話か知らない」って言うからだろ
倉:それを今からやるんでしょ?
三:やりますよ
倉:これからやるネタのオチを最初に言っちゃダメだって言ってるじゃないですか
三:それは漫才のオチの話だろ?これは古典落語だから大丈夫だって。知ってる人はみんなオチ知ってますから。知ってるけど知らないつもりで聞く,それが古典落語のマナーですからね
倉:知らないつもりで聞いてくださるお客様のためにも最後までオチを伏せておくのが漫才師のマナーでしょうが。先に聞いちゃったら落ちなくなるって言ってるでしょ
三:やってみないと分からないでしょ
倉:これもう絶対落ちないですよ。落ちなかったらどうやって漫才終わればいいんですか。僕たち帰れないですよ
三:その時はお前……,謝って帰るしかないだろ
倉:謝って帰る!? 漫才の最後に「申し訳ございませんでした」って言って帰るんですか?
三:まぁ大丈夫だから。それでも落とすのが漫才師だから
倉:カッコつけて言ってますけど,自分でどんだけハードル上げてるか分かってます?自分だけ謝ってくださいよ。こんなに前もってオチ言っちゃったら絶対落ちないですからね。私は謝りませんよ
三:分かったから。お前は謝らなくていいから。とにかくやってみないことには分からないから,落ちるか落ちないか
倉:分かりましたよ。じゃあここが白い紙を壁一面に貼った部屋のつもりで,家財道具の絵を描くつもりの芝居をすればいいんですか?
三:いや…そこからやると長くなるから,もう絵はすでに書いてあるつもりで,そこに寝てるつもりの芝居をやってくれればいいから。俺は泥棒になったつもりで入ってくる。で,最後に,そこに描いてあるつもりの槍があるつもりで,その槍で泥棒になったつもりの俺の脇腹を刺したつもりの芝居をすると
倉:「つもり」が多すぎてよく分からないですけど,とにかくここに寝ればいいんでしょ
三:ほんとに寝るなよ。寝てるつもりだからな
倉:分かってますよ。「つもりつもり」ってうるさいんですよ。ほんとに寝るわけないでしょ漫才中に
三:じゃあ盗みに入るぞ
倉:盗むつもりだぞ。本当に盗むなよ
三:分かってるよ。何盗むんだよこの状況で。最近はみんなしっかり戸締りしてやがるからな,入るのに一苦労…ん?…あの家ドア開けっ放しじゃねぇか。こんな時間だからな,人がいるとしても寝てるだろ。間抜けな野郎だね。どれどれっと。ん?なんだあれ?ずいぶんと高そうな家具が並んでるじゃねぇか。あっ…案の定あそこに寝てやがる
倉:ん?誰か来たね。ど…泥棒じゃねぇか。うわっ…大変…じゃねぇな。うちには取られるもんなんて何もねぇんだった。なんたって家財道具は全部絵だからな。それにしても間抜けな泥棒だね。なんにもねぇ家に入ってきて何盗もうってんだよ。おもしろいことになりそうだ。寝たふりして見物してやろう
三:おっ…ずいぶんといいタンスだね。いいタンスの中にはいい預金通帳があるってもんだ。どれ。あれ?なんだか滑るね。滑ってつかめな…ん?絵か?これタンスを描いてんのか?どういう趣味してんだここの野郎は。まぁいい。あそこに金庫があるからな。しかも開いてやがる。家のドアも閉められねぇ,金庫も扉も閉められねぇ,そんな間抜けな野郎なんだろ。しかし入ってるねぇ,現金。こんなに持って帰れるかね。あれ?なんだよ。つかめねぇな。え?これも絵か?なんだよ。ここの家全部絵じゃねぇか。おかしいと思ったんだよ。金庫の横にこれでもかって金の延べ棒積んであるからよぉ。そんな奴いねぇだろ普通。もしかしてここの野郎,金(かね)がないもんだから壁に絵描いて「あるつもり」になって暮らしてやがんのか。それじゃあ盗りたくても盗りようがねぇじゃねぇか。えらい家に入っちまったね。かといって手ぶらで帰るのもしゃくだな。「あるつもり」になって暮らしてやがるんなら,こっちも盗るつもりになってやろうじゃねぇか。よ〜し。タンスの一番下の引き出しをグイッとあけたつもり。中に風呂敷が入っていたつもり。こいつの端を持ってダァ〜〜〜っと広げたつもり。タンスの三番目の引き出しからいい預金通帳と金目のものを次から次へと風呂敷の中に入れたつもり。金庫の扉を開けて1億5,000万円を風呂敷に入れたつもり。これでもかって積んである金の延べ棒を風呂敷に入れたつもり。風呂敷をグッと縛ってさて逃げようと…思った…けれど…重くて…持ち上がらない…つもり…
倉:何やってんだあいつは。一人芝居か?でもずいぶん粋な泥棒だね。こっちが「あるつもり」になって暮らしてたら盗るつもりになってやがる。「つもり」で暮らし始めたのはこっちの方だ。寝てる場合じゃねぇな。「つもり」の先輩として俺も参戦しないわけにはいかねぇ。掛け布団をパッァーンとはねのけたつもり。「やい!泥棒!」と声をかけたつもり
三:「しまった。見つかったかぁ」とうろたえたつもり
倉:「警察へ連れて行くぞ」と腕をつかもうとしたつもり
三:「何しやがんだ」と腕を振り払い,右ストレートを繰り出したつもり
倉:「殴られてたまるかぁ」と体をかわしてよけたつもり。槍を手にしてビュンビュンとしごいてかまえたつもり
三:「こうなったら仕方がない。あれを使うしかない」と,秘密兵器の瞬間移動を繰り出して消えたつもり
倉:「どこ行きやがった」。「どこ行きやがった」と見失ったつもり。それでも,「ここか?ここか?」と闇雲に槍を突いているつもり
三:「やめろ。振り回すんじゃね。危ねぇだろ」と怖がっているつもり。「危ねぇ。うっ…やられた」,脇腹から血がだくだく出た……つもり。……どうだ?落ちたか?
倉:「どうだ?」って聞いてる時点で落ちてないだろ。なんてことしてくれたんだお前は。今度は本気でお前の脇腹刺してやる
三:やめろ…脇腹を刺すな…
倉:だから言ったんだよ。オチを先に言っちゃったら落ちないって。もう一回チャンスをやるからちゃんと落としてみろ。お前が落とすまで刺し続けるからな
三:もう無理だろ,あのオチもう一回言っても落ちないだろ
倉:「それでも落とすのが漫才師だ」って言ったのはお前だぞ
三:やめろ…。脇腹を刺されてるつもりなのに,ほんとに痛いからやめろ
倉:さぁあの聞きなれたオチをもう一度大きな声で言ってみろ。それでも落とすのが漫才師だろ。いくぞ。もう一度お前の脇腹目がけて槍を突いたつもり
三:「うっ…やられた」。脇腹から血がだくだく出たつもり。こんなにも聞きなれたオチを聞いてもオチを知らないつもりで聞いてくれる優しいお客さんがドッと笑ってくれて◯◯◯◯◯◯
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】