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漫才論| ¹²⁷漫才添削事例③

LINEオープンチャット『漫才なんでも相談室🌱』にて,投稿していただいたネタの感想と軽めの添削を行なっています。「漫才添削ってどういうかんじなの?」と思っている方のために,漫才添削事例をご紹介いたします(オープチャットに入るとその他の添削事例もご覧いただけます)【「漫才なんでも相談室」は終了しました】

今回ご紹介するのは,甚平者さんの『クレームの作法』というネタです。このネタは,昭和の伝説的な漫才師「夢路いとし・喜味こいし」をイメージして書かれたネタです。昭和の漫才を知らない方からすると,「ん?このネタどういうこと?」という印象を受けるかもしれません。その場合はまず,いとこいさんの漫才動画をご覧ください。いとこい漫才をイメージしながら読んだほうがいい台本だと思います


『クレームの作法』甚平者

有栖からん「僕この前ね、ラーメンを食べましてね」
丹羽ころん「ほう」
からん「ラーメン自体は美味しかった」
ころん「うん」
からん「ただ1つ気になる点があった」
ころん「どないしたんや」
からん「ラーメンに1本の髪の毛が入ってた」
ころん「ああ、なるほどなあ」
からん「ただここで僕はちょっと悩んだね」
ころん「何を悩む事が」
からん「ひょっとしたらこれは僕の髪の毛かもしれないと」
ころん「なるほどな、確かにそうやって考えられるのはええ事やな」
からん「それでまあ、結局何も言えずに食べ終えたんやけども」
ころん「でもその時は、一言申してからでもええな。但し、上からではなく丁重に」
からん「でも、ひょっとしたら自分の毛かもしれへんのやで」
ころん「だからこそ、丁重に言う訳や。『誰の毛かも分かりませんが、事実としてラーメンの中に紛れ込んでいたのでこの様に言わせていただきました』って」
からん「君は変わっとるんやなあ」
ころん「何が」
からん「そこまでするの」
ころん「一応、大人としての常識の範囲内でやな」
からん「でも、カップラーメンでわざわざそんな事」
ころん「カップラーメンやったら君の毛や!」
からん「家で食べてたのに、誰に物申したらええのか」
ころん「アホな事言うな!、君の言い方にも問題ある!……店で食べた様な言い方をするなっちゅうに」
からん「別にラーメン屋に行ったとは一言も言ってないからね」
ころん「それやったら家でカップラーメンを食べたと言わんか」
からん「言葉って難しいね」
ころん「君が勝手に難しくしてるだけや、何も深く考える事はない」
からん「でも君がさっき言った下から物を申すってのは」
ころん「それはやな、上から高圧的に意見だけを物申すのがクレーマーや。ちゃんとお店に改善点を物申すだけやったら、何も丁寧な言葉で話しかける。これが大事」
からん「なるほどなあ、そやったら僕もやってみて良いかな」
ころん「君もその作法というのを確かめてみたいんか」
からん「是非ともお願いしたいね」
ころん「それやったら僕が店員やったるさかい、君が思う様にやってみなさい」
からん「あの、お尋ねしますが」
ころん「はい、何でございましょうか」
からん「このカバンどう思われますか?」
ころん「はい?」
からん「このね、カバンどう思います?」
ころん「いやあ、立派なカバンだと思いますね。何だか大きくて丈夫でね。にしては何も入ってませんがどうされましたか」
からん「あのね、つかぬことをお聞きしますが」
ころん「何でしょう」
からん「つべこべ言わんと金を詰めて欲しいのですが」
ころん「………」
からん「早くしてくれないと私自身何をするか」
ころん「君なあ……」
からん「表で私の同僚も待ってる事ですし」
ころん「やかましい!、君のやってる事は強盗やないか!」
からん「下から物を申せば何でも良いって」
ころん「それとこれとは別や!」
からん「それやったら君がお手本を見せてくれんかな」
ころん「分かった。なら僕がお作法を見せるから、君は店員さんをやってくれ」
からん「いらっしゃいませ(両手を上げる)」
ころん「強盗やない!、それはもう終わった」
からん「どうされましたか」
ころん「ちょっとお尋ねしたい事があるのですが」
からん「何でしょう」
ころん「先程羽織を買わせて貰った者ですが」
からん「はい」
ころん「家に帰って見てみたら、半分が市松模様で残り半分が唐草模様の羽織でしてね。それはどういう訳やと」
からん「申し訳ございません。新しいのに変えさせていただきます」
ころん「ええんやええんや、間違いは誰にもあるから。そんなに気にせんと」
からん「それでは市松模様の羽織でよろしいですね」
ころん「そうですそうです。私ここで待ってるので、よろしくお願いしますね」
からん「すぐにご準備させていただきますね」
ころん「お願いします」
からん「………」
ころん「………」
からん「市松模様の羽織をお待ちの」
ころん「はい」
からん「クレーマーの方ー」
ころん「………」
からん「クレーマーの方ー」
ころん「………(訝しげな顔をする)」
からん「あっ、こちらにおられましたかクレーマーの方」
ころん「あのなあ…言うに事欠いて人の事をクレーマークレーマーって」
からん「でも腹に一物あるからここに来られたんじゃ」
ころん「何でそういう…あのな、それやったらそれに乗じて言わせてもらうけどもやな」
からん「何でしょう」
ころん「こんな半身違いの羽織なんか何でここに置いてあるんや、おかしいやろ」
からん「ええ、今は亡くなりましたがうちの祖父が愛用してました」
ころん「えらい変わった方やったんやな」
からん「ええ、ですからこの羽織は色んな意味で『片身変わり(形見代わり)』なんです」
ころん「上手いこと出来てるなあ(苦笑)」

漫才添削

私が大好きないとこいさんをイメージしているということで,今回は感想ではなくちょっと手直ししてみました
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からん:僕この前ね
ころん:はいはい
からん:ラーメンを食べましてね
ころん:ラーメンを
からん:そのラーメンに1本だけ入ってた
ころん:何が?
からん:1本だけ
ころん:1本だけ?麺が?
からん:ラーメンに「麺が1本だけ」なんてことがあるか?

ころん:ないか?

からん:一瞬で食べ終わるやないか

ころん:それはそれは長い麺が渦を巻いて入ってたら・・・
からん:あほなこと言うな

ころん:ほんなら何が入ってた?

からん:え?

ころん:1本だけ何が入ってた?

からん:髪の毛

ころん:髪の毛が1本?

からん:そうそう

ころん:たまにあるな。ラーメンに髪の毛入ってること

からん:そこで僕はちょっと悩んだ
ころん:店員さんに言おうか言うまいか

からん:ひょっとしたらこれは僕の髪の毛かもしらんから

ころん:君ようやってたからな

からん:何が?

ころん:ラーメン食べて

からん:うん
ころん:最後に自分の髪の毛入れて
からん:・・・・・・
ころん:「おっちゃんラーメンに髪の毛入ってます」言うて

からん:そうするとただでおかわりできる

ころん:あれはやめたほうがええ。君はいつか逮捕される
からん:今はもうそんなことしてまへん
ころん:あたりまえや
からん:今回も逮捕されないように,何も言わず最後まで食べて
ころん:いやいや。こういう場合は一言言うてもええと思うけどな
からん:何を?
ころん:丁寧な言葉で

からん:はぁ。丁寧な言葉で
ころん:「誰の毛かも分かりませんが,事実としてラーメンの中に紛れ込んでいたのでこの様に言わせていただきました」と
からん:君は変わっとるな〜
ころん:何が?
からん:そこまで言わんでもええと思うけど

ころん:逮捕されるから?

からん:逮捕される

ころん:自分の髪の毛わざと入れてたら逮捕されるけど,今回はわざと入れたりはしてないんやろ?

からん:してない。してないけど,それが僕の髪の毛である確率は50%あるわけやから
ころん:わざとやないんやったら,常識の範囲内でこれくらいは言うても問題ない
からん:カップラーメンでわざわざそんなこと言わんでも
ころん:カップラーメン!?
からん:そうですよ

ころん:カップラーメンやったら98%の確率で君の髪の毛やないか
────────────
途中までですが,こんなかんじだとよりいとこいさんっぽいかなと思ったのですが・・・

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フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた


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藤澤俊輔 (漫才作家/小噺作家)
あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】