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【ラジオ原稿】富士山自然図鑑②「カラマツの生存戦略」※無料

こんにちは。富士山自然図鑑を担当します富士山ネイチャーツアーズの岩崎と申します。
このコーナーでは私の大好きな富士山で生きる植物をはじめとする様々な生き物たちにスポットを当てて、彼らの生き様や、思わず「へぇ~」と声を出してしまいたくなる興味深い生態を紹介していきます。
富士山に行くのが楽しくなる、新たな富士山の楽しみ方が見えてくる、そんな情報をお届けします!
第一回目では「富士山五合目の自然環境の全体像」と「植物たちが生き残るために様々な工夫をしている」ってことをお話ししました。第二回目からは、一つ一つの生きものにスポットを当てて詳しく掘り下げていこうと思います。

今回は富士山五合目で森林を形成する代表選手、「カラマツ」の紹介です。カラマツという木はその名の通りマツの仲間なので針のような葉を持つ針葉樹です。針葉樹というと冬でも葉を落とさず、濃い緑色のイメージが強いですが、このカラマツは日本にもとから存在する針葉樹の中では唯一冬に葉を落とす針葉樹なんです。そのため、漢字では当て字で「葉を落とす松」落葉松と書かれることもあります。 葉を落とすということは・・・そうです、秋になるととても美しく黄葉するんです!黄葉と言ってもモミジやカエデのような赤い紅葉ではなく、黄色い黄葉なので、この時期、ちょうど真っ盛りかと思いますが、富士山五合目周辺はとても美しい黄金色に染まります。見頃は11月の初旬までなので是非富士山五合目へ出かけてみてください!

さて、このカラマツがどんな生き残り戦略をしているのか?
もちろん葉を落とすことも、富士山の厳しい冬を乗り切る体力温存というスゴイ戦略なのですが、最大の特徴は、強風・暴風に耐え忍んで生きるための術を持っているということです。富士山は独立峰であることから風当たりが大変強く、山頂では最大で91mを観測したこともあるほどです。五合目でも冬には20~30mもの風が吹き付けます。たとえ強くて堅い樹木であっても、そんな厳しい環境の中で直立していることはとてもできません。そこでカラマツは考えました。風にたなびくように横に伸びればいいんだ!富士山は偏西風の影響で西から強風が吹き付けるので、カラマツは東向きに、富士山の地面を這うように成長します。 これはカラマツが他の木よりも成長スピードが速いため、その時、その場所の自然状況に合わせて成長の方向を柔軟に変えられるためだと考えられています。他の種類の樹木はまっすぐ空を目指して光を集めようとしますが、強烈な風に耐えられず折れてしまいます。 結果として富士山ではこのカラマツが一番高い所まで生息域を拡大し、森林限界地点の最大勢力と成りえたというわけです。

上に伸びることをやめ、這うように生長する森林限界付近のカラマツ(富士宮口)

よく比較されるのが日本アルプスなどに生息するハイマツという松です。その名の通り強風に耐えるため地面を這うように生育するのですが、よく似た標高、環境の富士山には一本も生息していません。 実はハイマツは氷河期の生き残りの高山植物で、極寒の氷河期に適応して進化したため、地球が温かくなるにつれて暑さに耐えきれず、涼しい高山に逃げ込んだもののみが生き残ったわけです。現在私たちが見ている富士山は氷河期の終わりの噴火によって出来上がった山であるため、ハイマツが逃げ込むタイミングが無かったというわけです。
一方、様々な環境への順応性が高かったカラマツは、低山から徐々に生息域を拡大して、一万年もの時間をかけて富士山の2600m付近まで登って来たわけです。

矮小化して厳しい環境を耐え抜くカラマツ(御中道にて)

力強く、そして柔軟に生きるカラマツたちに会いに、是非富士山五合目にお出かけください!

それでは、またお会いしましょう!富士山ネイチャーツアーズ岩崎でした。ありがとうございました。

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