24.『衝撃』
完全に体調を崩してしまった杉内は家族と東京に帰り、僕は一人で二日目に参加する事が決まった。
今日もライブの開始は10時頃だ。昨日は台風直撃の最中、真っ暗な道を歩いて下山したのでよく分からないが、会場まで到着するのに2時間は見ておいた方が良いだろう。だとすると、既に時間に余裕はない。早速、キャンプ場を後にすることにした。
杉内の親父さんの車に乗り込み出発したが、恐らく一日目だけで帰るフジロックの観客の車なのだろう。国道がそこそこ渋滞している。中々前に進まない車内で僕は昨日の朝のバスを思い出し内心焦っていたが、しばらく走ると国道沿いにコンビニが見えた。あれは昨日、死にそうになりながら山を下りてようやく国道にたどり着いた時にあったコンビニじゃないか!
「ここで降ろして下さい!」
車が路肩に止まり、ドアが開く。
「本当に有難うございました!」
僕は礼を言って車を降りた。
「本当に、本当に気をつけてな。絶対に無茶はするなよ。帰ったら必ず連絡するんだぞ!」
やはり杉内の親父さんは、本当に僕を置いていくべきかまだ迷っているのだろう。顔にありありとその迷いが出ている。
「マジで気を付けてな。一緒に行けなくてごめんな」
杉内も心配そうに僕を見送る。杉内の家を出発する時、まさかこんな展開になるとは誰も思っていなかった。でも何故だかこの時の僕は疲れや不安よりも、杉内の家を出る時に心の中で湧きあがっていたドキドキやワクワクが復活していたのだった。
「じゃあな!」
再び渋滞の列に合流し去っていく車に手を振る。それまで杉内と10年近く一緒に過ごしてきた日々。それをたった一日で上回ってしまう程、昨日二人で経験した事は濃密であったように思う。
やがて杉内の親父さんのハイエースは見えなくなってしまった。
「よし!」
気合を入れて会場に向け出発だ!
国道を横断し、早速コンビニの脇に見える山道に向かう。幸い僕以外にも歩いて山道を登る選択をした人達が結構いる。取り敢えず会場までの道が間違っている、という事はなさそうだ。
コンビニを通り過ぎる時、フト思った。天候はかなり回復してきたとはいえ、まだ小雨くらいはパラつきそうな気配だ。何よりTシャツに濡れたズボンという馬鹿げた恰好では、昨日と同じ悪夢を経験する可能性は高い。雨というより寒さ対策も兼ね、コンビニで装備を整えた方が良いだろう。
コンビニにはビニールカッパの上下があった。ハンドタオルも役に立ちそうだ。店内を見渡してみると、僕と同じように薄着の人達が同じような買い物をしている。何だか少し安心した。
店から出て早速カッパを着込み今度こそ出発しようとすると、また気になるものが目に入った。先程国道を横断した時は気付かなかったが、警官が道路の真ん中で台の上に立ち、何か叫んでいるのだ。
「交通整理か?」
とも思ったが、何となく気になって叫んでいる内容に耳を傾けてみた。
「本日のフジロックフェスティバル二日目は、昨日の台風による会場へのダメージが激しい為、中止となりました!」
「えええええええっ!!!!!! 」
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