MANABIYA Report vol.30【松岡京子さん】
2019.09.27(金)19:00~21:00
Roof LCC
勝手にまちのコンシェルジュ~自分のまち、楽しんで発信~
ヒメジガハハゲストハウス代表 松岡京子さん
1.ゲストハウスを始めたくて
(1)はじまりは「マーケット」
姫路城の南側、本町商店街の中に小規模ゲストハウス「ヒメジガハハゲストハウス」があります。旅するMANABIYAvol.30のGuestspeakerはその「ガハハゲストハウス」のオーナー、松岡京子さんをお迎えして、播磨町にあるまちづくりシンクタンクroof播磨オフィスで行いました。
8年前から姫路でゲストハウスを始めた松岡さん。そのきっかけは、大阪でテレビ制作をしていた時に京都で知った「手作り市」にさかのぼるそうです。その「手作り市」にはいろんな国の人が参加していて、儲かったり、儲からなかったり。儲からなくても毎回出店するおじさんがいたそうです。なぜ、そのおじさんは毎回出店していたのか?それは、周りの出店者さん達との会話が楽しいからだそうです。そんな、「手作り市」をみて、松岡さんは出身地の姫路で「手作り市」をしたい!と思ったそうです。
当時、姫路を離れ大阪に住んでいた松岡さんには姫路の友達が3人しかいなかったそうです。その3人に声をかけ、SNSで協力者を募っていったそうです。そして、地域の協力を得ながら姫路版手作り市「手作りてんこもり市」を開催されました。この、「てんこもり市」は回を重ねるごとに出店者や協力者が増え、ブース数は160店以上となる姫路を代表する大きなイベントになり、2016年まで計11回続きました。
(2)心地よいまちで
大阪にいながら姫路の人たちと繋がっていった松岡さん。だんだんと松岡さんの中で姫路に対する愛着が湧いていきました。そして、大阪の職場では諸事情による業務の縮小化を迫られていたこともあり、退職していつかは始めたかったゲストハウスの運営を姫路で行うことに決めました。
これまで世界各地をバックパッカーとして渡り歩いた松岡さんは、数々のゲストハウスでいろんな人との交流を体験されていました。だから、いつかは「ゲストハウス」を作りたい!と思っていたそうです。
ゲストハウスを始めようと思ったのが今から10年前、当時はまだ古民家再生やリノベーションといった概念は今ほど浸透していなくて、物件探しは大変だったそうです。物件を見つけても、宿泊に関する兵庫県の定めで改装費がかさみ、家主さんとの調整に時間がかかるなど、さまざまな障害があったそうです。そして、失敗しても不動産を持っていれば償却することで幾らかの足しになるとの思いで物件を購入されました。
(3)伝播する想い
手作り市を知り、手作り市を始め、地域とのつながりが生まれ、地域への愛着が育ち、地域に戻り自分のやりたい事を始める。松岡さんがゲストハウスを始めるまでの流れにはまちづくりに関する示唆が沢山ありました。最近、まちづくりにマーケットを取り入れる事例が多いです。にぎわいづくり、市場調査。そんな狙いで行われているのが大半だと思います。一方で手作り市はコミュニティを育てる役割も果たしていました。そんなコミュニティに触れ、自分も始めたいと松岡さんは手作り市を始める。余談になりますが、その「手作りてんこもり市」に出店していた方が同じようにコミュニティに触れ、その楽しさを伝えようと加古川で「ピクニックマーケット」という市民による手作りのマーケットをされています。まちづくりで大事なのはそのまま移植するのではなく、その地域に合うようにカスタマイズすることだと思います。それぞれの主宰者がそれぞれの想いを持って開催するマーケット。“コミュニティをつくりたい”という目的のための一つの方法としてマーケットの開催があるのだと思います。
(4)私の中のシビックプライド
そして、みんなでつくるからこその価値があると思います。少しずつみんなで始める。消費する人ではなく参加する人。そんな人たちは自ら地域に関わることで地域に愛着をもち、地域が好きになる。
『シビックプライド』という言葉があります。これは人々が地域に対する愛着を表す言葉です。『シビックプライド』とはどうやって育つのでしょう?姫路なら姫路城は市民の誇りかもしれません。しかし、姫路城以外のまちなかは地域の誇りではないのでしょうか?まちなかにゴミが落ちていたら?誇りを持つ人たちはそんなことをしません。地域を活性化させるべきだ!『シビックプライド』を育てる。その想いはとても大切だと思います。しかし、自らが勝手に始め、勝手に広げる。その拡がりの輪が心地よければ自然に浸透する。その一連のプロセスを共有することで『シビックプライド』が育っていくと思います。
2.ゲストハウスが面白くて
(1)さあ始まった、でも姫路城が・・・・
めでたくゲストハウスを始めた松岡さん。しかし、順調な滑り出しとはいかなかったようです。それは姫路城改修工事中だったから・・・・。ゲストハウスを始めた2011年は改修工事の真っただ中。姫路に訪れる観光客数が減っている状態でした。ところが、なぜか姫路城を見たいという海外の観光客もいたそうです。どうやら、姫路城改修工事を大きく告知してなかったからだそうです。姫路城見たさに訪れた観光客、しかし目の前には箱に覆われた姫路城。困った松岡さんは姫路城以外の観光スポットや美味しいお店などをがんばって紹介されたそうです。結果的に姫路城以外の魅力を掘り起こすきっかけになったと松岡さんはおっしゃいました。
(2)人が“まち”をつくる。“まち”が人をつくる
ゲストハウスにはいろんな国の方がいらっしゃいます。面白かったのは姫路と難波の違い。姫路にはお城や歴史など文化を目当てにいらっしゃる観光客が多いのでドイツやフランスをはじめとする、ヨーロッパの方々が多いそうです。だから、問題を起こすような人が少ない。一方で、難波の方では男性スタッフの対応が必要になるような場面もあるそうです。別に国別で人の振る舞いを判断している訳でもないですし、人が多いといろんな人がいるので一概に判断は出来ませんが、歴史や文化をリスペクトしている人はそれ相応の振る舞いをするということかと思います。歴史・文化の違いは“まち”における人の振る舞いに影響するものだと知らされました。そして、それはそこに住む人たちの日常から発するもので、私たちの“日常”こそがまちを育て、“異日常”を求める観光客の共感を生むことを知りました。
(3)国境を越えたつながり
ゲストハウスにはいろんな国の方がいらっしゃるので、エピソードに事欠きません。例えば、ゲストハウスに長期滞在したサウジアラビアの男性ですが、彼は日本が大好きで日本人の友達をつくりたかったそうです。で、どうしたかというと、紙に「僕と友達になってください」と書いて駅前に立っていたそうです。そんな人いたら怖くて声かけられないですよね(笑)。そんな彼をみて不憫に思った他のゲストハウスにいた女性が一緒に立ってくれたそうです。女性の力ってすごいですよね。いろんな人が話かけてくれて、結局友達どころか彼女を作っちゃったそうです。面白いですね。
(4)地域にゲストハウスがある風景
また、ゲストハウスは交流を求めてくるお客さんが多いそうです。そのため、いろんな交流の仕掛けをされたそうです。
みんなで晩御飯を作ったり、誰かが先生になってみんなに教えたり、お気に入りの映画を勝手におススメして上映するなど、さまざまな仕掛けをされていました。そうやって、宿泊客と近所の人たちとのコミュニケーションが広がると、近所に住むあの人に合うために再訪するお客さんもいるようです。また、近所の方々もその輪が楽しいので、自分でイベントを企画したりするそうです。そのイベントっていうのが、「たべっ子どうぶつ」っていう動物の図柄が入ったビスケットで神経衰弱をする「だべっ子どうぶつの会」です。もう最高ですね(*‘∀‘)
そうやって、地域と宿泊客が溶け込む場所としてゲストハウスが機能していることが素敵だと思います。
3.ゲストハウスを続けたくて
(1)姫路の敵は大阪・京都?
10年前、ゲストハウスはまだ珍しいものでした。しかし今、ゲストハウスは日常のものになろうとしています。日本の観光客数はここ10年で3.7倍と圧倒的に量がふえました。それに合わせ、二度目、三度目の観光客は質を求め日本各地に足を延ばすようになりました。また、書籍などで頻繁にゲストハウスが取り上げられ、ゲストハウスへの認知は広まっています。逆に言うと物珍しさや安いだけでは成り立たなくなってきています。
松岡さんがおっしゃるには、姫路は大阪・京都から新幹線ですぐの位置にあるので、都市部との競争になっているそうです。大阪は観光客が多いので企業が宿泊施設の経営に乗り出し、オフシーズンでは1000円程度の安値で販売するなど、とても太刀打ちできる状況ではないそうです。とはいうものの、ゲストハウスを続けたい松岡さん。松岡さんは姫路のゲストハウスとして求められていることを考えられています。
(2)勝手に伝える姫路の魅力
姫路の良さを伝えたい。いろんな人との関りを生みたい。そんな想いで取り組んでらっしゃるのが、姫路のお祭り文化を発信することです。姫路の沿岸部では西は網干から東は高砂あたりまで、お祭りの盛んな地域が連なっています。松岡さんが姫路の祭り文化に触れ、こんな面白いものを色んな人に知って欲しいと始めたのが、『姫路播州秋祭りファン倶楽部』というウエブサイトです。
少し覗いてみたのですが、素人でも楽しめるよう丁寧に記事が書いてあり、とても分かりやすいです。例えば、曽根の秋祭りでは「一ツ物事」という神事があります。それは5~7歳の男子が男衆に肩車され、地面に足をつけることなく宮入する行事だそうです。とても珍しい神事ですが、まんがを織り交ぜわかりやすく伝えてくれています。もちろん、英語版もあります。このウエブサイトは公式サイトではなく松岡さんたちが勝手に作ったもの。ここでも“「いいな」と思うことは自分でやる”松岡さんらしさが発揮されています。
姫路播州秋祭りファン倶楽部 ウエブサイトはこちら
https://himejifestival.wixsite.com/japan
(3)多様性を担保するもの
ゲストハウスはただ安い宿泊施設ではない。いろんな人がたまたま同じ場所にいて、さまざまな交流が生まれる。その多様性が魅力です。そのため、合いそうな人ならマッチングしてみたり、スタッフには出来るだけ会話をしてもらうように仕向けたりしているそうです。
特にスタッフさんは大切で、お話出来る能力が大事とおっしゃいました。頭が良く、会話も上手で容姿もいい、でも、なんか鼻につく人。おっちょこちょいで口べたで身なりに無頓着、でも、なんか話しやすい人。いろんな人がいますよね。松岡さんは自分の感覚で話しやすい人を選んでいるそうです。それは、やっぱりゲストさんに楽しい思い出を作って欲しいから。そんなゲストファーストの姿勢を見ることが出来ます。
これからのゲストハウスはどうなるのでしょうか?価格では見えない価値。ゲストハウスが本来持っている価値。その価値を問いかけながら松岡さんは姫路でゲストハウスを営んでいくのだろうと思います。
4.終わりに
(1)バイタリティあふれるシャイな人
今回のMANABIYAはメンバーがセッティングしてくれたので、僕は松岡さんと初対面でした。ガハハゲストハウスのことは知っていて、ゲストハウスをしている人だから、すごく社交的で自信にあふれた感じの人かなと思っていました。でも、実際にお会いすると、すごくシャイな方でびっくりしました。実は緊張しすぎて前日は気持ち悪くなったとこか・・・・。本当に申し訳ありませんでした。
とは言うものの、友達3人から「手作りてんこもり市」を始め、ゲストハウス探しでは手当たり次第にポストインして物件を探したり、姫路のお祭り情報サイトを勝手に立ち上げたり、本当に活動的な方でした。そうそう、だってバックパッカーとしていろんな国を回ってきた人ですからバイタリティありますよね!
(2)勝手の作法
今回のMANABIYAは『勝手に』という言葉があふれていました。最近、僕は『勝手にやる』の大切さをとても感じています。私たちは“まち”に住んでいます。人工物である“まち”は実は自然物である“植物”と同じ動きをすると著書『アメリカ、大都市の死と生』でジェイン・ジェイコブスが語っています。植物は不要な部分は朽ちて無くなるが、必要な部分や栄養が充実している部分はその生命力を持ってぐんぐん育ちます。“まち”も同じで、自分たちが必要だと感じる部分、楽しいを思える部分を一層活性化させる。一方で不要な部分は朽ちていく。但し、“まち”の場合はそこに一定のお金をつぎ込んで無理矢理活性化させようとしますが・・・。
私たちが活性化させたい部分、それはルールに縛られるものではありません。誰かに与えられるものではなく自分達でやるもの。自分の“楽しい”という本能に従い勝手にやる。自分で感じ、自分で考え、自分で判断する。そして、その輪を広げたいのであれば、伝えたい人に配慮する。それこそが『勝手にやる』ということでは無いかと思います。
・誰かの価値観では無く、自分の価値観を信じて。
・自分の価値観を伝えるため、伝えたい人に最大限配慮して。
僕は松岡さんのお話から【勝手にやる作法】を学んだように思います。