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MANABIYA Report vol.32【笹尾和宏さん】

2019.11.15(金)19:00~21:00
じけまち商店街
用がないなら”まち”にでよう!~PUBLIC HACKがまちの可動域を拡げる~
PUBLIC HACK 著者/水辺のまち再生プロジェクト 笹尾和宏さん

1.はじめに

今回のGuestspeakerは『水辺のまち再生プロジェクト』の一員として【都市の自由使用】に着目して活動をされている笹尾和宏さんです。笹尾さんは学芸出版社さんから先日出版された『PUBLIC HACK』の著者でもあります!
笹尾さんをお招きするにあたり「お話きくなら屋外でしょ!」と思いじけまち商店街の片隅で開催しました。

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■“まちでの活動”は“まぐろの回遊”のようになっていないか?

「買い物すんだし、ほな帰ろか」
「やることなくなったし、バイバイしよか」

笹尾さんはまちでの実体験から「まちはゆっくり過ごす場所ではなくなった?」「することがなかったら家に帰るの?」「用を果たすためにまちに来ていいの?」といった疑問がわいてきたそうです。

「用事を果たすためにまちにいる」ということは、まちには動き回る人たちしかいられない場所という捉え方もできます。笹尾さんはそんなまちのふるまいを一生泳ぎ続ける“マグロの回遊“になぞられました。

2.小さな活動がまちを変える

(1)きっかけは面白い事をしている大人たち
「都市は大きく仕掛けていかないと変えることなんてできない」と思っていた学生時代。まちに対し面白いアプローチで仕掛けていく大人たちを見て、「自分たちの小さな活動でもまちを変えていける」ことを知った事が、笹尾さんの活動のきっかけになったそうです。

(2)「きっと水辺が好きになる」から始まった
笹尾さんの活動主体となる「水辺のまち再生プロジェクト」は水辺の魅力を知って欲しい!との思いから始まりました。今では有名な【水都大阪】も当時は水辺に注目する人はおらず、とにかくどうやって水辺に注目を集めるか?でした。
・「水辺ナイト」:水晶橋でバーを開催
・「北浜テラス」:川辺にデッキを作り大阪版川床をつくる
・「水上移動演劇」:都市の風景をお芝居の舞台として風景の変化に合わせ演劇

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(3)水辺の魅力を伝えることが出来た!でも肝心のライフスタイルは?
「水辺のまち再生プロジェクト」を始め、いろんな分野の人たちが水辺に関わり、水辺は次第に注目を集め始めました。その結果、たくさんの飲食店が出店し、さまざまな観光船が往来する「賑わい空間」に生まれ変わりました。しかし、そんな光景を目の当たりにして笹尾さんたちの中で違和感が湧いてきました。

集客施設やマチの賑わいは大事ですが、それは消費の舞台が水辺に変っただけで、笹尾さんたちが目指していたものとちょっと違う。本来目指していたものは水辺という空間を使った豊かなライフスタイル。民間事業者による賑わいづくりは必要ですが、一方では民間事業者ではない「一市民の生活行為」における緩やかなまちに対する活動が大事では?との思いに至り、「水辺のまち再生プロジェクト」は次第に活動内容を変えるようになりました。

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3.「都市生活者」目線のまちづくり

(1)変えていくのは都市生活者の考え方
●都市生活者が変れば都市が変る
笹尾さんは都市を場所としての「都市空間」と使う人としての「都市生活者」に分類されました。まちの活性化や賑わいづくりは「都市空間」に着目しています。都市を変えるとは「都市空間の改変」とみられがちです。しかし、「都市生活者」が変れば都市が変るともいえるのではないでしょうか?ひとりの力は小さいかもしれないが、まちにはたらきかける人が増えれば増えるほど、まちに与える影響が大きくなるのではないか?といった視点です。

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●満足度ラインを下げる
「一市民の生活行為」におけるまちづくり活動において必要な視点として「満足度ラインを下げる」「自分で楽しむ力を高める」を紹介していただきました。満足度ラインが高ければそこに到達するまでに企業などのサービスを必要とする。しかし、満足度ラインを下げ自分が楽しむ力を少し高めれば、満足度ラインに到達できる。笹尾さんたちの活動は人々の意識を変えると共にまちの使いこなす能力を高めることにありました。

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●活動の再定義
水辺の魅力を伝える活動として始まった「水辺のまち再生プロジェクト」そこから都市生活者目線へとスタンスを変えていき、活動を再定義する必要がありました。
~NO BORDER, BE WILD~
「出来ない」という活動の線引きを勝手にせず、自分たちの野生(感性)のままにまちを使っていく

(2)都市の自由使用
●しれっとのびのび上手にまちを使う。
誰もが自由に許可なくまちを使うことを「自由使用」と言います。その反対が「特別使用」。特別使用には許可が要ります。許可を受けずに自分たちが使いたい範囲でどれくらいまちを楽しめるのか?その取り組みが都市の自由使用です。

渋谷駅前やNYのタイムズスクエアを始めとして、最近の都市は公共スペースの振る舞いが魅力として発信されています。ここで大事なのは「何をして過ごすか」。そのための視点と手順、そして自由使用における状況を紹介して頂きました。

[やりたい事を見つける3つの視点]
①セルフ化する②外に持ち出す③自然から持ち込む

[やりたい事を実現する手順]
やりたい事が決まる→やりたい事を研ぎ澄ませる→場所を解釈して理解する→迷惑かけずにやる→生活の延長上として私的にまちをつかう

[自由使用における状況]
1. まず人が居る、過ごしている
2. その場所の特性を汲んで、楽しげ/気持ちよさげにしている
3. その様子が、周りにも魅力的に映っている
→それぞれが“まちの登場人物”となって“個人的な営み”が重なっていくことで生き生きとしたまちの風景が生まれる

●経験を通じてみえてきたこと
さまざまな実践から見えてきたこととして「法律上やってはいけないこと以上に僕たちはやってはいけないと思っているのではないか」といった事が浮かび上がってきました。
そこで笹尾さんはやっていいこと悪い事をグラデーション化すれば、実はやっていい事が見えてくると考えました。このやっていい事の領域を増やしていくことでもっとまちの可動域が広がると笹尾さんはおっしゃいます。

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4.都市の自由使用がまちに対して良い効果を生む

(1)自身の都市生活の幅が広がる “あなた自身が都市”
水辺でディナーを取りたい、屋外で映画鑑賞したいなど、自分たちのしたい事は既存のサービスではなく、自分たちで生み出すことができる。そうすることで、自身の都市生活に幅をもち暮らしに対する選択肢が増える。

(2)あなたを起点に浸透していく “メディアになって伝わる” “真似をする人が出てくる”“プロデュース側が動く
通りすがりの知人が不意に参加してくれる。見ず知らずの人が自分たちの活動を見てうらやましく思う。そんな可能性に満ちた空間であれば、最終的にはプロデュース側(民間事業者)がアクションを起こすきっかけになる。

(3)プロデュース型の都市デザインに役立つ
実践を踏むことで実行したときの景色を想像することが出来る。そうすると、大きなプロジェクトを行った時も実効性の高い取り組みにつなげることが出来る。無意識や無関心、人任せでサービスを買うのはある意味、思考停止の常態である。
「自由な営み・振る舞い」を通じて「ん?」と思うことは、説得力や実効性のある「企画・改善」の芽を生む。

4.最後に

「STAYABLITY」笹尾さんが本を出版するときに考えた言葉です。都市にどうすれば佇むことが出来るか?居心地のいい都市とは?それは「都市空間」からのデザインではなく「都市生活者」からのデザインを追求しているようです。そんな「STAYABLITY」をひも解くキーワードとして4点あげていただきました。

『STAYABLITY』
・収まりのいい場所があり、見つかる
• 気まずく、肩身狭く感じない
• うまく居続けられるスキルがある
• ただ居る人に対するまちの器がある

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笹尾さんは著書「PUBLIC HACK」で「一市民の生活行為」の範囲で出来るまちづくりを紹介されています。ただ、笹尾さんはすべての人に「PUBLIC HACK」のような行為をして欲しいわけではないそうです。紹介している内容を見て「私でも出来るかも」といった思いを持って欲しい。その思いを持った人たちがまちを使い続けることでまちの多様性が担保され続けると考えているそうです。

あなたが楽しめれば都市は楽しい
そんな人ばかりになれば都市が変わる
都市が変わるには全員でなくていい。
一定数の人たちが“いい“と思えば地域の印象が変っていく
まず、あなたがどう過ごせるか

5.感想

笹尾さんとは「ひめじまちづくり喫茶」で出会いました。その時もGuestspeakerとして参加されていましたが、当時の内容は勤めているグランフロント大阪のエリアマネジメントに関するお話でした。とはいうものの、そのエリアを使うにあたって「賑わい」ではなく「居心地」に視点を置いて話されていたのを覚えています。
その後、水辺のまち再生プロジェクトで開催された「PUBLICSHIP SCHOOL」や「クランピングウィーク」に参加させていただき、まちを使う身体能力を養っていってもらったように思います。

特に僕自身、意識していたわけではないのですが、年々まちを見る目が変ってきたというか、「へー、こんなんあるんや」とか「へー、ここ面白そうやん」みたいなところが見えるようになってきました。おそらく、笹尾さんたちがおっしゃった「自分で楽しむ力」が高まっているのかなと思います。
そんな事をしていると、「こんなふうに使ったら面白いかも」とかが見えてくるようになり、実際につかってみて「やっぱり楽しかったな」と思えるようになります。そういった積み重ねが自分の生活や都市空間を豊かにしていくのかなと思います。

以前、ワイン好きの友達が「誰でも参加できるようなワイン会をしたい」と言ったので、公園を使って「水辺のワイン会」を企画しました。ある程度の段取りは僕がしましたが、友達も主体的に動いてくれてとても素敵な会になりました。友達だけでなく、参加者の方々も喜んでくれて、「またしたいねー」って言ってくれています。
PUBLIC HACKは簡単なようで実は敷居が高いのかもしれません。ただ、誰かがすることで、そこに巻き込まれた人が楽しい時を過ごせれば、それでいいと僕は思います
そして、楽しい経験をした人たちが、まちで何かを少し始めたら、まちはもっと彩りを増していくのではないでしょうか。

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