MANABIYA Report vol.34【田村康一郎さん】
2020.1.24(金)19:00~21:00
coworking space" mocco"
自分が動けば、まちも動く~プレイスメイキングでまちを繋ぐ~
プレイスメイキングXリージョナルメンバー/ソトノバライター/QUOLディレクター 田村康一郎さん
1.はじめに
「都市を変える」それは一部の人たちでしか出来ないことでしょうか?いま、世界各地で私たちの『暮らし』から都市を変える動きが起こっています。
【都市は自分たちで変える】
プレイスメイキングはそれを可能にする力です。今回は海外で大きなプロジェクトに携わりながらも自分たちの暮らしとの距離感に疑問を持ち、“プレイスメイキング”に出会い、“プレイスメイキング”を学び、“プレイスメイキング”を実践されている田村康一郎さんにお話をしていただきました。
2.“もやもや”から踏み出す小さな動き
(1)達成感の裏側にある違和感
大学卒業後は都市計画コンサルタントに就職された田村さん。仕事ではJICA関連の国家プロジェクトに数多く携わり、世界各地を渡り歩いてらっしゃいました。特に発展途上国の国家的プロジェクトに携わることが多く、タンザニア、ルワンダの国境にある施設の合築を計画したり、ベトナムの海上を走る橋梁の建設による経済効果の試算を行ったりされていました。そうやって年半分以上を世界各地で過ごす暮らしを8年間されてきた田村さんですが、仕事に対する達成感や充実感と共に違和感もあったそうです。
その違和感とは「日常との乖離」や「スピード感」、「見えない成果」でした。
日常の暮らしを支える土木事業に魅力を感じ、業務を携わる中で達成感や充実感を感じながらもどこか日常とかけ離れた部分に対する違和感。大規模プロジェクトのため多くの時間と労力が投入され事業自体はものすごいスピードで進んでいるのですが、なかなか形に現れない違和感。多くの人たちが関わり、田村さん自身も膨大なデータを積み上げていきプロジェクトを進めながらも、社会的もしくは政治的判断によるプロジェクトの中止に対する疲労感があったそうです。
(2)踏み出す一歩、広がる世界
“やりがい”と“もやもや”を抱え「生活に近いところで簡単に都市の変化を感じたい」という思いがつのるなか、田村さんの人生を変える一つの記事に出会いました。その記事が『プレイスメイキング』に関する記事でした。
その記事には「プレイスメイキングは小さいスケールでまちを変える方法」と書いてあったのです。「プレイスメイキングを学びたい!」という思いが田村さんを動かし、会社を退職し世界で唯一プレイスメイキングを専門的に学べる学校、ニューヨークにある「Pratt Institute」に入学しました。
学校ではアメリカ、イギリス、インド、ブラジル、中国、グアテマラ、など世界各地の人が集まっていました。講義では都市デザイン、心理学、社会学、都市政策、ランドスケープなどさまざまな角度から都市に関する学びがありました。また、校内での座学と同時にブルックリンのまちなかで商業者と一緒にマーケットの立ち上げにデザイン監修として携わることでより実践的な学びの機会が得られたそうです。
3.“まちの課題“を解決する小さな動き
田村さんからプレイスメイキングとは?について話して頂きました。「プレイス」とは「場所」、そのためプレイスメイキング=居場所・場づくりとよく言われるそうですが、ニューヨークで2年間学んだ田村さんは少し違和感があるそうです。
(1)その場所はスペース?それともプレイス?
田村さんがスペースとプレイスについて話してくれました。スペースとはがらんどうな空間、ただ存在するだけの空間。例えば、だだっ広い駐車場や人がいない公園、たばこを吸う人たちの集団といったイメージです。それに対してプレイスとは思い入れがある空間。例えば駅前のマルシェや東京の路地などがあげられます。田村さんは『いい場所では多様な活動(パブリックライフ)が生まれている』と言われました。
僕は田村さんのお話から、スペースのイメージとしては無機質であったり均一的な空間。そこに体温を感じにくい空間のように思いました。対して、プレイスは思い思いに活動している人たちがいる空間。いろんな活動が許されている空間だと感じました。
(2)欲しい未来のために
プレイスメイキングによりまちが変った代表的な事例としてニューヨークにあるブライアントパークを紹介していただきました。写真でしか見たことありませんが、ここは僕も大好きな場所で一度行ってみたい場所です。そこでは、さまざまな活動が行われています。楽器を使って演奏したり、散歩の途中に入り口にあるキオスクで買い物をして公園で食べたり、本を読んだり、大きなチェスをしたり、友達や恋人同士でお話したり・・・・。だれもがこの場所で佇むことを許されて、だれもが「この場所いいよね!」という特別な気持ちを空間に持つ。そんな場所がブライアントパークです。
でも、30年前の1980年代、ブライアントパークは今とは全く異なる場所でした・・・・。
当時、ブライアントパークはまちのど真ん中にある危険な地域でした。公園の周囲は大きな樹木で覆われ中が見えない状況でした。中が見えないので、麻薬の密売が横行する治安の悪い場所でした。そんな公園につけられた別名は「ニードルパーク」でした。そんな危険な公園を問題視した地域の人たちが課題解決の方法として『プレイスメイキング』を利用してブライアントパークの再生を行いました。
問題なのは人が寄り付きにくい事、だから公園の外周にある木を剪定して見通しを良くしました。でも、それだけでは人は訪れません。人が訪れるために、入り口にキオスクを置いたり、外周に卓球台を置いたり、本棚を備え付けたり。また、人々が訪れやすいようにヨガや映画上映などさまざまなイベントを企画しました。
そしてブライアントパークといえば『椅子』です。ブライアントパークには約3000脚の折り畳み椅子があるそうです。その椅子は園内ならどこでも移動可能です。二人でお話したい時は二脚、一人の時は一脚、みんなが思い思いにお気に入りの場所に椅子を置いてくつろぐ。そして、ひとしきり佇んだあと、その場を離れた時に残された椅子たちがコミュニケーションの余韻を伝えてくれる。ただの折り畳み椅子ですが、公園という舞台に降り立った演者がその椅子を使っていろんなシーン生み出し、演者がステージを降りたあとでも椅子を見た他の演者が少し前にその場所で行われた公園のバレエに想いを馳せる。そんな素敵なストーリーを伝えてくれるアイテムになっています。
MANABIYAvol.01 武田重昭さんの資料より
そうやって人が訪れやすい環境をハードとソフト両面から作り上げていった結果、自由の女神以上の観光客が訪れる場所にまで育っていきました。
単にイベントをするだけではない、図面を書いて終わりではない、モノを作るだけでない。まちの課題に対し物理的な環境に働きかけ、人を巻き込んで、多様な活動を呼び起こし、継続する仕組みをつくる一連の活動がプレイスメイキングである
4.“小さな動き”がまちを動かす
(1)まちに関わる多様な活動
ニューヨークで2年間プレイスメイキングを学んできた田村さん。今年から3本柱で活動が始まったそうです。一つは『ソトノバ』という公共空間に特化した情報発信サイト。
“ソトノバとは「ソトを居場所に、イイバショに!」をコンセプトにソトやパブリックスペースを豊かにしていくことを目指すメディアプラットフォームです。”(ソトノバウエブサイトより引用)
実は田村さんがプレイスメイキングに出会った記事はソトノバが発信した記事だったそうです。今度は田村さん自身が情報の発信者としてソトノバに関わるようになりました。もう一つは東京での仕事。こちらはエリアマネジメントという収支を含めて地域の価値を高める組織運営のコンサルタントをされるそうです。
(2)生活者として、実践者として
最後の活動は現在居住されている奈良県生駒市で小さく始まった「公園にいこーえん」です。この活動は小さな子供を抱えたお母さんが地域で子供を遊ばす場所が少ないことから、自分たちで遊べる場所を作ろうと、月一回公園で遊びの場づくりを始めた活動です。田村さん自身は縁もゆかりもない地域に移り住み、地域の関りがなくつらい日々が続いていたそうです。そんなときに、奥さんの関りから地域のお母さんたちと出会い、「公園にいこーえん」に参加したそうです。
また、「公園にいこーえん」を始めたお母さん自身は専門的な知識を持った方ではありませんでした。でも、自分が望む未来を手に入れるために、小さいけれど一歩踏み出すことで「公園にいこーえん」という活動が始まり、田村さんたちが参加するようになりました。また、始まって一年もたっていませんが、その活動に地域のおじいさんや共感したり、他の団体とのコラボも始まっているそうです。
田村さんは「大きな活動ではないけれど、プレイスメイキングの実践者として身の丈を大切にしながら関わりたい」とおっしゃいました。
5.あなたも出来る“まちの動かし方”
プレイスメイキングはその場所に応じた活動なので正解はないかもしれませんが、進め方の一例を教えていただきました。大きなステップとして5つあるそうです。
①場所を決める・仲間をみつける
プレイスメイキングのチーム作りはスポーツチームに似ているとおっしゃいました。選手、ファン、オーナー。この3つの関係が大切。あくまでも主体は選手、大型開発ではオーナーの意向が強く反映されますが、プレイスメイキングはあくまで選手が中心。自分たちがやりたい活動をどう作っていくかが大事。
②場所の特徴と課題を読み解く
地域の課題をどうとらえるか?いろいろ専門的な事もあるけれど、とにかく現地に赴き自分の感覚で考える。現地で感じた課題を言語化する。
③理想のビジョンをえがく
なぜやるの?を大切にする。
「ブライアントパーク」は人が訪れ治安を回復する。「公園にいこーえん」は子供たちと遊ぶ環境を手に入れる
④実験してみる
気軽に・早く・安く:LQC(Lighter、Quicker、Cheaper)
なんと加古川のIPSがここで登場(笑)
⑤結果から学び、大きな改善につなげる
どれだけ効果があったか?それをやることで、どうなったか?次にどうつなげるか?
→戦術的な活動(タクティカルアーバニズム)
6.最後に
最後に田村さんからプレイスメイキングで大切にしたいことを話して頂きました。
プレイスメイキングはもっと場所を良くするサイクル
プレイスメイキングは小さくやってバージョンアップするやり方
プレイスメイキングは常に関りしろをひらいている
プレイスメイキングは主観と多様性を大事にする
プレイスメイキングはとりあえず使ってみる
プレイスメイキングは思ってもみない使いかたの発見がある
プレイスメイキングは大きく構えなくても大丈夫
とにかく場所に関わってみる
そんな気持ちを持って外に出てみて下さい
7.感想
今回は田村さんをお迎えしてプレイスメイキングについてガッツリお話していただきました。僕は田村さんの人生やまちへの関り方がプレイスメイキングそのものだと思います。自分でまちの違和感を感じ、欲しい未来のため小さいけれど一歩踏み出す。その歩みの先に一人では出来ない大きな変化を感じることが出来る。本当に今回のタイトルどおり「自分が動けば、まちも動く」だと思います。
多分、プレイスメイキングは人生の生き方なんだろうと思います。そこには必ず自分たちの“やりたい“がある。その”やりたい“を主人公にして自分たちはどう演じるか?その演じ方、舞台は?演者は?お客さんは?パトロンは?そういった一つ一つの事を実践しながら積み上げていって自分たちの”やりたい“を”やってみた“に変えていく行為なのかと思います。だから、プレイスメイキングには普遍性のようなものを感じます、都市を変える方法ではありますが、都市計画に携わっていない人にも突き刺さる。今回MANABIYAに来ていただいた方たちは都市計画の専門家ではありません。でも、みなさんの心に刺さるものがあったようです。
今回、レポートを起こしている中で一つの言葉に出会いました。
「許される」
今の世の中では多様性という言葉がよく使われます。多様性を大切にしよう!と声高に叫びつつも一つの過激な発言や社会規範から外れた活動に対し、これでもか!というくらい批判が集まると同時に、多様性な社会だから認めてあげようぜ!と批判に対し反論する意見もある。でも、世の中認められないこともあるし、認められない意見を持っている人たちも存在していることは確かだと思います。
でも、ブライアントパークの景色を見ると、お互いを意識せずに過ごしている。その距離感がとても心地良い。それぞれが距離感をちゃんともっていると同時に、その公園には思い思いに活動することが「許されている」と思います。特に認めなくてもいい、自分に悪い影響を及ぼさない範囲であれば許してあげる。その許容性がブライアントパークにはあるのかと同時に、多様性とは認めることではなく、許される(許す)ことなのかと思いました。
今回のMANABIYAもとても面白かったです。田村さんの動きに動かされる人もいるでしょう。そんなまちの動きにMANABIYAが少しでも役割を果たしているのであれば、僕の動きもまちを変えている一つになるのではないかと思います。