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白昼百物語 二十六話目~顔

子どものころは自分の顔が苦手だった。子どものころと言っても、幼稚~園に通っていたころのことである。小学生にあがって遅くとも三年生くらいにはその感覚はなくなっていた。
他の友達がうらやましかった。どうしてみないつも同じ顔でいられるのだろう、と。それに輪郭がくっきりはっきりしている。
私の顔は、ときおり違う顔に見えることがあった。そして輪郭がだぶっているような、曖昧に見えることがあった。
それが怖いというよりも、何か不安だった。自分の顔がどれなのか、わからなくなりそうだった。
いつのまにか違う顔になることはなくなった。
高校生以上になって、ときおり、見るたびに顔が違っているように見えると言われることがある。言った人は、化粧やその日のむくみ具合などで違うように見えるといったような意味合いだったと思うし、本当に全く違う人間の顔になっていたら、そんな呑気なことを言っていないだろう。
でも私はそう言われる度、幼稚園のころのあの不安な気持ちを思いだしてしまう。
あの頃鏡に見えた顔は、一体誰だったのだろうか。

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