白昼百物語 二十八話目~迷子の木
昔から方向音痴である。車に乗ってもすぐにナビを頼るから、なおさら道を覚えられない。幼いころもすぐに道に迷った。母と伯母とデパートに行ったとき迷子になった。すぐに何かに気を取られるぼーっとした子だった。気がつくと母も伯母も見えなくなっていた。たしかいくつか年上のいとこも一緒だったが、私一人である。
あの心細さ。走り回って泣き出して、おそらく誰かがサービスカウンターに連れていってくれたのだろう、放送をかけてくれて無事に母と再会できた。階段の前でのぼろうかおりようか、それとも動かずにじっとしていようか迷っていたことを思いだす。しゅんとする私を見つけて母と伯母は笑っていた。私は笑うどころではなかったが、迷子を笑っていられるまだのどかな時代だったのだろう。
幼稚園のときによく遊んでいた公園があった。その公園の遊具のトンネルをくぐると大きな木があって、その下の砂場でよく遊んでいた、はずだった。
ある日からどう頑張ってもその木にたどり着けなくなったのだ。公園には行ける。しかしトンネルをくぐってもその木がない。切られた、というわけではない。そもそもそんな場所がなかったかのように、トンネルをくぐってもただ公園の別の場所にでるだけなのだ。
あの木への道は、迷子の私にだけ辿りつける場所だったのだろうか。
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