見出し画像

白昼百物語 十八話目~人形

人形とかぬいぐるみというものは、簡単に買ってしまうが、簡単には捨てることができないものである。思い出があればなおさらだが、UFOキャッチャーでとっただけのものでも、顔があるものは捨てるのがはばかられる。日本人形やフランス人形のように人に近い見た目のものは特に。だからこそ人形供養などがあるのだろう。
生まれたときに買ってもらった雛人形を娘に受け継いで、今もひな祭りの折には箱から出して飾っている。何事も億劫がる怠惰な私であるが、雛人形に関してはひな祭りまでには必ず飾っている。結婚が遅れるとは言うものの、片付けるのが遅れるのはいい、飾るのは必ず三日までにしなければならない。強迫的なまでのその想いは、まだ実家にいたころにあった出来事のためだ。
霊感云々に関しては、おそらく母のほうが私より強い。母はあるとき人形が怒っている夢を見た。たしか一晩だけではなかったと思う。それで母は母の実家からもらってきた日本人形があったことを思いだした。母は慌ててその人形を押し入れから取り出して、箱を開けた。夢で見たように、人形の白い顔は目がつりあがり怒っている形相であった。
もう一つあった人形と一緒に、母は部屋にかざった。母は人形の夢を見なくなった。そしていつのまにか、白い顔の人形の顔は柔和になっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?