白昼百物語 三十二話目~トイレの花子さん
こどものころにしたことなので、許してほしいのだが、小学生のころのことである。三年、四年だったか。放課後のクラブのあとだっただろうか、少し遅い時間に一人トイレに入っていた。クラブ活動場所の近くの、あまり人通りの少ないトイレである。そこはなんとなく薄暗いせいか、校舎のはじにあるせいか、トイレの花子さんが出るという噂のある場所だった。私の入っていたのは、その花子さんが出ると噂の場所の隣のトイレだった。入ったときはトイレは全て空いていて、用を足しているときも誰かが入ってきた気配はなかった。
トイレから出ようとするようなタイミングで複数の女の子が入ってきた声が聞こえた。彼女らは個室に入る様子はなく、私のとなりのトイレのドアをトントンと叩いて、例の、はーなこさん、という呼びかけをしている。声の感じから一、二年生のように思えた。少なくとも高学年ではないと思った私は、いたずら心が湧いて、かぼそい声ではーい、と返事をしてしまったのだ。予想通り彼女らは叫びながら去っていった。私はなんとなく気まずいような気持ちでこそこそとトイレから出て、友人の待ってくれている場所に向かった。
あとで思い出したことがある。例の女の子たちが叩いただろう隣のトイレの戸が閉まっていたのである。
いつのまに、人が来ていたのだろうか。