ここは何処?私は誰? 第一話
この世は、破壊と生産の繰り返し。
物は作られ、その後、役目を終えて分解され廃棄される。
人々は現状を否定し、未来を創造する。
すべての物は、いずれ無くなり、そして新たなものが再生する。
老朽化した建築物は破壊され、更地になり、新建築が建造される。まさに、破壊中の建築物を目撃した。複数台の重機は、その老朽化した建築物に無感情な拳を振り下ろす。破壊される建築物を見ると、悲しい情景が思い出された。もう、数十年も昔の事、小1の私は田舎の学校に転校した。築数十年の木造建築だった小学校は、真冬は風が吹き抜け、真夏は、窓を閉めても、外の蝉の声が容易に聞こえた。私が五年生の時、その校舎は取り壊された。壊される校舎での約4年間の思い出までもが、あっけなく崩された。おそらく市街地の学校であれば、解体用にシートで囲まれ、中の様子は見えないが、田舎の校舎は回りを囲まれることなく、みんなの目に触れる状態で、否応なしに解体された。あの無機質な重機に、めためたに破壊された。
下校前の掃除の時に、同級生のみんなで雑巾がけをした、あの長い廊下の黒光りした板も、わずか数日の間に跡形もなくなった。
わたしの心は、すっかり居場所を失った。
その空虚感は、しばらく引きずった。
みんな、それまでの校舎のことは、もう忘れてしまったのか。
無理して、新校舎の事を話そうとしているようにも聞こえた。
大人は、「新校舎で良かったね」という。みんながみんな、子供たちはそう思わないのに。
なぜだか、これまでの校舎のことは、記憶を消そうとし、新校舎のことだけを考えさせる。
今思えば、すべてよき思い出。
この重機の動きに、私の心の中の悲しい想い出が甦ってきた。