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スリル

 水道橋の遊園地に遊びに出かけたのだが、電気の不通とかで、ジェットコースターやらメリーゴーラウンドやらが丸々動いていなかった。
 困っていると、三百円でできるアトラクションがあるから、広場へ来いという園内放送が鳴り出して、気になるから行ってみた。
 一度に七人まで遊べるものらしく、私はほとんど一番乗りだったので、運良く最初の組に入ることができた。
 他の来園者も暇だったろうから、やるやらないに関わらず、広場のぐるりを取り巻いて、物凄い人だかりである。
 何をするのか分からないでいると、虫かごが七つ運ばれてきて、目の前に置かれた。中には手のひらほどもある赤い蜘蛛がうごめいている。
 園の係りが説明を始める。
「皆さんの前に蜘蛛をご用意いたしました。蜘蛛には糸が結んであります。これをご自分の指にもう片方を結んで、ヨーヨーのように弾ませて頂きます。三分以内に蜘蛛を潰せた方には、商品を差し上げます。蜘蛛には毒がありますが、大してひどくはありません。ただ噛みつきますので、ご注意を」
 別の係りが私の手を掴んで、右手中指にお構いなしに糸をきつく結んだ。蜘蛛を籠から出して、さあどうぞと号令がかかる。
 蜘蛛は地面に放り出されて、暫くじっとしていたが、どこかに行こうと足を動かしはじめた。当然糸があるから、どこにも行けるはずがない。
 糸は蜘蛛の胴体のくびれに結いてあったから、足をひとつ引きちぎれば、それで事が済むという話でもない。いずれ蜘蛛もこの糸に気がつくであろうと考えたら、先制を加えた方が有利に違いないので、私は思い切って右手を振り上げた。
 蜘蛛がかさっという微かな音をたてて、宙を舞った。私は拳固を固めて、引きつけた蜘蛛を殴る。口に触れれば噛まれるかもしれないとは思ったが、瞬時に手を離せば噛み付く時間もないだろうと素早く拳を繰り出した。
 二三度上手く蜘蛛に当たらないこともあったが、段々慣れてくるもので、次第に蜘蛛が潰れだす。体の膨らんだところから、緑色の汁が出始めたが、どうやらこれが毒らしいのである。

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