飛蚊症、命名の儀。
私には飛蚊症の症状がある。
「飛蚊症ってなんじゃ?検索ダリーわ、おせーて。」という人の為にざっくりと症状をお伝えすると「視界にゴミクズのようなものが見える症状」だ。蠅が飛んでないのに「なんかさっきから蠅が飛んでるんですけど」って感じ。
私の場合とくに重篤な症状ではない。生まれ持っての物なのか、目の酷使によって生成されたか定かじゃない。漫画家になってまもなく、お墓掃除に行ったときお空を見上げて気が付いた。青い空に浮かぶカエルの卵のような水玉模様。
「飛蚊症じゃねーか!!」びっくり仰天。青天の霹靂。青天の水玉模様。
飛蚊症は網膜剥離などの重篤な症状によってできることがある。この場合もう直ちに病院へ行きましょう。
ひとまず私の話に戻そう。
私の飛蚊症は明るい所限定の症状だ。主に日中の屋外で視界の中心よりちょっと左上あたりに、そいつはいる。丸い水玉っぽいのが1~3個。明るさによって増減する。室内の明るさではよっぽど天気が良かったり体調が悪かったりしないと見る事はない。
さて、ここまで読んで視界に特にトラブルの無い方は想像して欲しい。自分が飛蚊症になったらどうか。
「視界にゴミっぽいのが見えるのね?…で?」って感じだろうか。もしそう感じられたのなら、そいつは大いにうらやましい!なぜなら私は違ったからだ。
明るい所、限定とはいえ視界におそらく一生消えることの無い異物の存在。場合によっては症状が進行し暗い所でも見えたり数が増えたりもする。
私は恐ろしかった。恐怖に震えた。不安になった。ガタガタ震え…はしなかったが。とにかく「ひぃっ嘘だろ!?そんな!あばばばば…。」とはなった。
何か恐ろしい出来事に遭遇した現代人の性として私はインターネットに頼った。「飛蚊症」について調べに調べた。
調べれば調べるほど「飛蚊症は治らない。」という文言にたどり着く。一生、視界の中にゴミがチラチラ見え隠れする状態のストレスに耐えねばならないのだ。おー嫌だ嫌だ。
そんな折、私はあるサイトにたどり着いた。いわゆる2ちゃんねるのまとめサイトだった。
そこには飛蚊症の症状を持っている人々のやり取りが繰り広げられていて、子供のころから飛蚊症だったが、それが何なのかわからず過ごしてきた人が結構いるようなのだ。意外と最初からそうだと、そんなもんなのだろう。
そこで私はとある人の書き込みに目が奪われた。
『俺も子供のころから視界の隅に黒いのがあって「ブラックドラゴン」って名付けてた』
……マジで?
…ブラックドラゴン…?
何それすごくカッコいい!!!!ふっはーーっっっ
視界の隅にいつでもブラックドラゴンを従えて?…あ、ああ…あああ!!!
「自分も飛蚊症に何かカッコいい名前をつけよう!!!」と決めた。
決めたとき私はすでにいい大人だった。というか4~5年前の出来事なのだ。ホカホカだ。すでにお判りだと思うが私は中二病なのだ。
「中二病?なにそれ検索ダリーわ。おせーて。」という人もいるかもしれないが、ここでは割愛させていただこう。そして検索もおススメしない。意図せず開いてはいけないパンドラの函(はこ)を開くことになりかねないからだ。邪気眼!!!
なにはともあれ、中二病の私は自分の飛蚊症に名前を付けることにした。そしてどうせならキャラクター性を持たせようと思った。だって漫画家だからね!(漫画家の皆さん、漫画家であることを免罪符のように使ってしまい申し訳ありません。多大なご迷惑をかけた事、深く陳謝し謝罪します。かしこ。)
私は青空に浮かぶ水玉を見上げながら、うんうんうなった。その時、水玉は夏の大三角形のように三つならんでいた。「三人か」。
「よし決めた!聖剣バルザックと神剣ジルクリフトと魔剣ルドルフだ!!!!」
カッコいい…大満足だ…。
空を見上げる。三人がいつも見守ってくれている。
あんなに恐ろしかった飛蚊症が見えるたびに三人のキャラクターが脳裏にチラつく。
私たちはいつでも一緒だ。場合によっては増えるかもしれない。その時は新しくキャラを追加しよう。キャラ追加コンテンツだ。しかも無料のアプデなのだ!すごい!
ブラックドラゴンをたずさえしドラゴンマスターの人ありがとう。この感謝はきっと届く事はないだろう。件のまとめサイトにたどり着くことすらできないのだ。もしかしたらもうなくなってしまったのかもしれない。
だけど私は救われた。ドラゴンマスターの助言にしたがい三人の剣聖を視界の中に見出せたのだ。
ありがとうありがとう。どうかブラックドラゴンと末永くお幸せに。