教室と雑巾と私

教室と雑巾とわたし

 今でこそ、どういう扱いなのか知らないのだけど、私が学生だった頃に学校で使われている「雑巾」はそれはもう大層ばっちかった。つまり汚いのである。


 正直触りたくなかった。やむを得ず掃除で使うときは覚悟を決め、使用後は手を石鹸で洗いに洗い、手の臭いをクンクン嗅いだ後、臭ければまた洗った。


 しかし周りのみんなは何の疑問もなく、こきたない雑巾を鷲掴みにし「え?それ洗う意味あります?」というようなバケツの汚水で雑巾をすすいでいた。なんなのそれは、汚れの共有?汚れもみんなでシェアすれば友情パワーがどうこうなるの?


 …そして、その床とか拭いたのと同じ臭い布切れで、あろうことか机を拭くのだ…。その机で給食とか食べるのだよ、明智君。



 私は常日頃、この衛生観念はどうかしてる、と思っていたが周りでそんな事思ってそうな人もいなかったし、先生にそれとなく訪ねてみたこともあったが「そうだよねぇ、ちょっとどうなんだろうねぇ…」と、その話はそれで終わった。私は『教師も色々あるんだろうなぁ』と何とも言えない気持ちで追及の手を止めた。


 まぁ私の雑巾嫌いの前置きはこの辺にして本題へ入ろうかと思う。


 学校で使用される雑巾は生徒の家から持ち寄られるものだった(今もそうなのかな?)。たいていの場合、お母さんが家にある手ぬぐいとかを雑巾状に縫って子供に持たせていた。うへぇめんどくさそう。


 最初は綺麗だった雑巾状の手ぬぐいも学年末にはゴッタゴタに薄汚れた立派な雑巾になる。…ああ、顔とか拭けるくらい綺麗だったのに…立派になって……。



 そんなある新学期(たしか中学生の時)、私は運命的な出会いをした。


 教室の掃除当番になり掃除用具入れを開けると、その子がいたのだ。


 つるつるふわふわさらさらピッカーな雑巾未満ちゃんが!!!


「え!?これは…まさかこれがシルク!?シルクを雑巾に!?え、何で!?金持ちなの!?」私は一瞬の間、激しく混乱した、が、後ろには掃除用具を取らんと待機する同級生たち!!私はあわててシルク雑巾未満ちゃんをひっつかみ…そして心に決めたのだ…。


『この子を守る…!!!』と。



 いったいどこのお宅からまぎれ込んでしまったんだろう。それとも何か事情があるのだろうか、こんな綺麗な子がこんな場所に…まさに掃き溜めに鶴。


 そして周りの同級生どもは何の疑いもなく汚れをシェアする連中だ!自分以外にこの子を守れる奴はいない!


 しかし私も一介の学生、シルクちゃんをただ懐に忍ばせて守る事は出来ない。私たちはwin-winな関係、そう、私はシルクちゃんを使った、布巾として!!


 しかしシルクちゃんを他の立派な有象無象雑巾のようにする訳にはいかない!シルクちゃんは主に机などを拭くのに使い、使用後は石鹸で丁寧に汚れを落とし、しっかりすすぎ、その後風通しの良い場所に干していた。乾いたことを確認後、雑巾置き場の隅の方に目立たぬよう安置していた。


 いくばくかの月日が流れ、シルクちゃんは少しよれてきたりしたが概ね最初の美しさを保ったまま二人の特別な関係は続いた。この時間は永遠に続くのだと私は思っていた。


 …しかし幸福な時間は無慈悲にも終焉を迎える…。



 ある日、教室の掃除当番になった私はいつも通りシルクちゃんに手を伸ばし、そして驚愕した。その変わり果てた姿に…。


 学校の掃除当番は1週間ごとに、今週は教室、今週は廊下、今週は視聴覚室と入れ替わり方式で、最後にシルクちゃんを手に取ってから数週間後の事だった。


 シルクちゃんは…シルクちゃんは全身あまねく汚れをシェアされ、もはやただの雑巾となり果てていたのだった…。そう、それはもう立派な姿に…。

 もうかろうじて面影が残る程度だった…。ほんの数週間の間に…。


「あーーっ私の雑巾がぁぁぁぁ!!」と叫んだ記憶があるので、叫んだと思う。汚れシェア隊のぽかんとした顔の記憶もなんとなくある。


 だれも責めることはできない、だってみんな、お掃除をしていただけなのだから。


 しかし私のこの怒りは!虚しさは!悲しさは!!一体どこにぶつければ良いんだ!!誰だよシルクちゃんをこんなにしたのは!なんの疑問も感じなかったのかよ!「あ、掃き溜めに鶴だ!」って!それともわかっててこんな事を!?「こいつは雑巾として新たな生を得たのだ。そのように使ってやって何が悪い?」的なやつ!?超クールなんですけど!?悪役っぽいけど実は良いやつキャラってやつですか!?知らんけど!


 このやり場のない想い!一体どう消化すれば…!?


 私は考えた!考えに考え思い出しては考えて、そして昨日いいことを思いついたのだ。



「あ、そうだ!noteに書こうっと!」



とっぴんぱらりのぷぅ




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