シン・三大欲求
太古の昔から、我らが誇る人間の三大欲求とは、ご存じの通り「食欲・睡眠欲・性欲」(あいうえお順)である。これを古い三大欲求、古・三大欲求、転じて、古参欲求とでも呼ぼう。この古参欲求は、サルまがい卒業したての頃から、n度目の地球滅亡予言を回避した今日まで、人間を突き動かしてきた。
しかし、現代においては、それが少しずつ変わってきているのではないかと思う。その変化した欲求たちを新・三大欲求、転じて、新参欲求と呼ぼう。その新参欲求は「金欲・承認欲・性欲」(順不同)だと思う。
もうすっかり資本主義、インターネットに慣れてしまった私たちは、常に"金"と"いいね!"を欲している。しかし、古今東西、老若男女問わず変わらない欲がある。それが、それこそが、古参欲求の中で最大かつ最強を誇る、「性欲」パイセン。
この性欲パイセンの存在感たるや。これは、アイドルや芸人の3人組で、3人等しく均等に売り出そうとするも、持ち前の華から、明らかに一人だけ目立ってしまうあの感じ。性欲パイセンはあの感じの権化だ。
私が以前、コロナ禍全盛期で人気まばらな地元プールの監視員バイトをしていたときも、他の古参・新参欲求たちを引き離し、性欲パイセンだけがぶっちぎっていた。というのも、20歳前後のやさぐれヤンキーカップルの彼女が、プールサイドで水着へと着替えだしたのだ。彼氏が箱根駅伝よろしく、大判のバスタオルで彼女を包み込んでいる。その光景は、さながらマジシャンの早着替えのようだったが、そんなことはお構いなしと、彼女はメイドイン彼氏の即席早着替え空間で着替える。
そんな様子を近くのオッサンたちはサングラス越しに見つめていた。かく言う私もその一人だった。本来ならば、注意喚起の意を込めて笛を鳴らさなければならないが、ハプニングポロリを望む僕は、見ていることを悟られないよう、首を明後日の方へ向け、サングラス越しに目だけをヤンキーマジシャンズに向けていた。もちろん笛なんてポケットに入ったままで。
このときと、このエッセイを書いているとき、時間を跨ぎながらも、まさに新参欲求に囚われていることに気づく私だった。