前項で定理5の逆、定理5aを仮定した。定理5a:「実体 x と y の属性集合が等しければ、 x と y は同一である」
∀x. ∀y. [ ( Att_x = Att_y ) ⇒ ( x = y ) ]
この命題は Spinoza が暗黙裏に認めていて、証明を与えていない。対を成すものとして定理5「自然のうちには、同じ本性もしくは同じ属性を持つ二つ、または、多くの実体というものはありえない。」(高桑訳)があるが、先に、これを「同一の実体は同一の属性集合を備える」と読み換えて以下のように表現した:
∀x. ∀y. [ ( x = y ) ⇒ ( Att_x = Att_y ) ]
定理5aは定理5の逆になっている。命題「実体 x と y の属性集合が等しく、かつ x と y が別の実体であることはあり得ない」から始めて変換していくと、定理5aが得られる。
∀x. ∀y. ¬ [ Att_x = Att_y ∧ x ≠ y ] を ∀x. ∀y. [¬( Att_x = Att_y ) V ¬ ( x ≠ y ) ] に変換し、さらに ∀x. ∀y. [¬( Att_x = Att_y ) V ( x = y ) ] に変換し、もう一度、 ∀x. ∀y. [ ( Att_x = Att_y ) ⇒ ( x = y ) ] に変換すると定理5aになる
では、「実体 x と y の属性集合が等しく、x と y が別の実体であることはあり得ない」をどう証明するか。これが言えるには、「実体 x の属性集合が x を特定するに必要十分な手がかりである」必要がある。言い換えると、「属性集合のほかに実体を特定する術がない」ことが条件である。
しかし、この言明は信じるほかないものであって、他の知識から証明できない。理解を助けるため、Beth Lord の説明をみてみよう。
First, assume that two substances are distinguished from one another by a difference in their attributes, as substances B and C are in Figure 1.2. In this case, the two substances have different attributes and can be distinguished. But if different attributes are the only way to distinguish substances from one another, then two substances with the same attribute (A and B) cannot be distinguished. They are both pure, indeterminate being, perceived as extension. There is no other way of distinguishing A from B, so they must be the same substance. Therefore, there is only one substance of the same attribute.
粗訳:まず、二つの実体が各々の属性集合の違いによって区別されるとしよう。(図を省略する。)そのとき、二つの実体は異なる属性集合を備え、相互に区別される。さて、属性集合だけが実体を区別する手がかりだとしたら、同じ属性集合を備える二つの実体が区別できない。どちらも混じりけのない、無形の存在であり、物として知覚される。属性集合以外に二つの実体を区別する術がなく、ゆえにそれらは同じ実体でなければならない。(訳注:「と受け止めるしかない」と訳したいところだ。)以上より、同じ属性集合を備える実体はただ一つ存在する。
This is more easily understood if we remember that attributes are what the substance exists as. Two substances sharing the same attribute exist as, and are perceived as, the same thing. The attributes cannot be taken away to reveal two different substances underneath, for a substance without its attributes is just pure, indeterminate being. An attribute is the most basic determination of being. Two substances with the same basic determination cannot be distinguished; therefore they are the same thing. There cannot be multiple substances sharing the same attribute.
粗訳:(定理5の証明の後)このことはこう考えたらわかりやすい:属性集合は実体の「有り様」である。同じ属性集合を備える二つの実体は同じものであり、同じものと知覚される。属性集合をそれぞれの実体から取り除き、二つの実体(の生の姿)を暴き出すなどといったことは不可能だ、なぜなら属性なしの実体というのは混じりけのない、形が定かでない存在だから。属性は being (存在およびその活動)を定める最も基礎的なものだ。同じ基本特徴を備える二つの実体を区別できない。だからそれらは同じである。複数の実体が同じ属性集合を備えることはない。
以上、同じことを何度も繰り返すことになったが、少しずつ異なる表現を見比べ、何度も読んでようやく納得できるような命題である。この難しさは「直接に知り得ないもの」、「それ自体に知る手がかりがないもの」を想像しづらいことにある。我々の理解を超えて、なおも存在するもの。それは理解の対象ではなく、信仰の対象である。