Spinoza Note 27: [定理13] 絶対無限な実体は分割できない
定理13で、実体が絶対無限なら分割できないことを証明する。定理12で同じく、実体が分割できないことを証明しているので、その違いがわかりづらい。定理12は実体の属性が有限であることを(暗黙裏に)前提にしている。定理13は実体の属性が無限だったらどうなるかを考えた結果のようにみえる。
Elwes訳:Substance absolutely infinite is indivisible.
粗訳:絶対無限な実体は分割できない
証明は前項(「Spinoza Note 26: [定理12] 実体は分割できない)と同じ方法をとる。実体を分割したとき、分割の結果生じたものが(1)性質を保持するのか、(2)性質を失うのかの二通りが考えられ、分けて証明する。
最初の場合、同じ性質を有する複数の実体が出現することとなるので、定理5に反する。証明は前項、定理12の証明に類似するが、分割の結果、同じ本性を有する複数の実体となることを Spinoza が許容するので多少変わってくる。
前項では式を以下のように展開した。” Att_y ≠ Att_x ∧ Att_y ≠ Att_z ∧ Att_z ≠ Att_x " とすることで、実体 x, y, z の属性(集合)が互いに異なるとした。この点は Spinoza が「属性が互いに異なる」と書いているため、このように記述するほかなかった。
しかし、定理13の証明に際し、「分割の結果、同じ本性を有する複数の実体となる」としているので、” Att_x = Att_y = Att_z " と翻訳する。
ここから推論を重ねて、矛盾に導きたいのだが、そのためには新たな定理が要る。それは定理5の逆である。仮にこれを定理5aとしておく。
定理5aは、ふたつのものの属性が同じだったら、それら(の実体)は同一である、を意味する。妥当性を示すに多少の説明を要するので、ここではこの式が真と仮定し、先に進む。次項で、定理5aの妥当性を示す。
定理5aを使って、定理13の式を次のように変換する。" Att_y = Att_z " を " y = z " に置き換える。
すると、後件に ( y ≠ z ) ∧ ( y = z ) が含まれることとなり、矛盾が導かれた。前半の証明がこれで終わる。ただし、実体の属性集合は無限なので、 Att_x = Att_y を確認する作業が有限時間内に終わる保証がない。述語論理の表現を超えて翻訳している。(述語論理で無限集合を扱えない。)
次に、実体を分割したとき、生じたものが(2)もとの性質を失う場合を考える。生じたものは実体でなくなるか、あるいは(実体であったとしても)何者をも産み出さなくなる。前項(定理12)から論理表現を転載する。これは矛盾に導かれることを既に示した。
矛盾を導く際、Spinozaは(前項のように定理7でなく)定理11(下記の式)を根拠とするが、これを使って変形しても is-substance が消え、is-in に置き換わるだけで、大勢が変わらない。その後、定理7を使って矛盾を導くほかないので、結局、定理12と同様に証明することとなる。詳細は前項を参照のこと。
冒頭、定理12は実体が有限、定理13は実体を無限と捉えている点が異なると述べた。定理12で実体が有限であることが前提なのは、実体 x から生じた二つの実体 y と z が x = y + z にあるとし、そこから y と z の間に因果関係があるとしているからだ。仮に x, y, z が各々無限だったら、y と z の間の因果関係を主張しづらい。y = x - z で、z = x - y だが、どれも無限だったとすると、y = ∞ - ∞, z = ∞ - ∞ なので、y と z が相互に x の構成要素を取り合うのかわからない。場所を節約するためと言って is-infinite( y ) と is-infinite( z )を省いたが、本気で省かないと証明が成立しないかもしれない。
Spinoza は実体が無限と考えたから、定理12の位置づけは一考を要する。要点は属性集合の扱いにあり、分割前の x の属性集合が分割後の y と z に引き継がれるのかが判断の分かれ目となる。Spinoza が x の本性が y と z に引き継がれるというので、x, y, z の属性は互いに等しいはずだが、本人が明示的にそれらが異なるというので、証明に工夫を要した。わざわざ追記しているから、分割によって属性がどうなるかが本題であることは間違いない。
定理13では一転、実体 x を分割すると「元の実体と同じ属性を備えたものが現れる」とする。定理12を証明した後、あらゆる無限集合が相互に等しいかもしれないと気づいたのだろう。定理12を考えていたとき、Spinoza はそれらが互いに異なると考えた。別の可能性に気づき、定理13を加えたと想像する。両方の可能性を検討しており、どちらが正しいか決めていない。
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