
トランプ政権と文化大革命
トランプの頭の中には歴史がない。過去もなければ未来もない。世界史の記憶に掉さすでもなければ、地球の未来を想像する力もない。ただただ目の前のソロバン勘定(=ディール)があるのみ。
面白いコメントがあった。トランプは複数の人と話をしても、次々に上書きされていって頭には直近の記憶しか残っていない、と。プーチンより前にゼレンスキーと話したといっても、結局はプーチンのロジックが上書きされている。ディールと言いつつ落としどころを会談前に口にしてしまい、プーチンにまんまとつけこまれそうな気配!
ウクライナをめぐるディールについて、識者は1938年のミュンヘン会談の二の舞を懸念するが、もちろんトランプの頭にそんな歴史の教訓はあるはずもなく…
ナチスドイツによるチェコはズデーテン地方の併合をめぐって英仏独伊が会談するも、英仏の宥和(弱腰)スタンスによってヒトラーを図に乗らせ、第二次世界大戦へと突入したのだった。しかもこのとき当事者のチェコは会議から締め出されていた。はたしてウクライナは第二のチェコになるのか!? (どころか、最新の情報ではこのたびのディールからヨーロッパ諸国さえ締め出そうとしている。)
おりしもミュンヘン安全保障会議でのヘグセス国防長官やヴァンス副大統領の演説には知性のかけらもなく、反発以前に失笑を買う始末。親分が親分なら子分らの資質は推して知るべし。
こんな破天荒なトランプ政権に引っ掻き回されるアメリカそして世界を見ていると、唐突だが、自分はかつて中国で起きた文化大革命を思い出す。もちろん違いはある。トランプ政権は4年間がまんすればいいが、後者は66年から76年まで続いた(77年に終結宣言)。後者の暴政はほぼ国内問題に終始したが、前者の影響は世界に波及する。
毛沢東語録に酔いしれた紅衛兵の極論暴論は論にとどまらなかった。間接をふくめ推定死者数は2千万人とされ、多くの中国人の人生を狂わせた。かたやぼっち紅衛兵マスクは「すべての米連邦政府機関をつぶす」と息巻いている。文化大革命は中国社会に絶大な禍根を遺し、歴史を何年も後退させたと評されるが、はたしてポストトランプのアメリカは立ち直ることができるだろうか?
筆者はトランプのアメリカファーストとMAGAは整合しないと小文で触れたが、そもそも何をもって great というのか寡聞にして聞いたことがない。どころか、パリ協定からの離脱やWHOからの脱退等々、トランプが吠えるたびにアメリカは small で selfish で solitary に、なんなら shabby になっていく。そう、MAGAとは実のところMASAである。
トランプは選挙という審判には勝ったが、歴史の審判を逃れることはできまい。トランプ政権第二期はアメリカ史に刻まれた暗黒の四年間と称されることだろう。
にしても、世界最大の民主主義国において、みずからを法の上に置くほど傲慢で、地球や人類の運命を歯牙にもかけず、かつ予測不能な発言を繰り返す人物が最高権力を握りえたという事実に戦慄をおぼえる。
この事実を前にして、人類の無限の進歩を信じられる人に幸あれ! あんな男の面接試験にパス(?)したといって満面の笑みを浮かべる孫正義や石破首相の能天気に幸あれ!