Day2.5 夜警
北に進むにつれ赤錆びた色の雪がちらちらと視界に舞い始める。
夜のペンギン諸島海域を目指し、船は進む。
俺はグレムリンに乗り、甲板の上で不寝番だ。
未識別機動体にはグレムリンでしか対抗できないのなら、
グレムリンを置くしかない。当然の帰結だ。
2基のレーダーを回しつつ、演算結果を待つ間グレイヴネットを開く。
こんな状態になってしまった世界でもヒトは生活していて、
どこかで何か出来事があって、ニュースが流れる。
それは終わりの見えない戦いに身を投じる者にほんの少しの慰めを与える。
ぴこん、と通知がポップアップする。メールだ。
筆を咥えて6色の絵の具を体に塗りつけた蛇のエンブレム。
「げ」
思わず声が出る。万に一つ重要なメッセージだと困るので、渋々開く。
「ナイスバトル😁おじさん関心しちゃったナ 😉キミのファンになっちゃお😘」
メールを破棄しますか?
>yes
あいつ、この手のメッセージは女傭兵にしか出さないんじゃなかったのか?
ついに気が触れたのか?それ以上考えるのをやめ、メールを破棄した。
そのときちょうど、レーダーの演算が終わった。
複数の機影が映る。
「……!」
「こちらザミエル、レーダーに未確認の機影あり。画像を通信室に転送した。どうぞ」
"普通の"船舶であるなら航行情報が入っているはずだ。
未識別なら――
「こちら通信室。該当する船舶の情報はなし。こちらのレーダーに反応なし。未識別機動体と判断します。」
「了解した。ザミエル、交戦を開始。応援を要請する。」
グレムリン搭載のレーダーは長距離まで対応していない。
つまり、レーダーに引っかかったという時点で危険な距離と言える。
僚機のイゾルフのスクランブルまでおよそ5分。
それまで一人で持ちこたえることが求められる。
幸い、ツォルンの連日の徹夜が功を奏してマトモな火器もようやく使えるようになった。
「――一人じゃ少し荷が重いな」
そう嘯くが、それは『一人で全てを相手する』という前提だ。『僚機が到着するまで』『母艦へ向かう敵機を足止めする』この条件なら、ハードルは格段に下がる。
エンジンの暖気は済んでいる。跳躍力に優れる逆関節の性能を遺憾なく発揮しつつ、着水する。鋼の駆動音と水を切る音を響かせ、海上を疾走する。
小型粒子銃の放つ光条が、戦闘の開始を告げる。
――夜はまだ、始まったばかりだ。
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