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「ねじの豆知識」 六角ボルトの基礎知識 Vol.3 強度区分編

藤本産業は締結資材「ねじ」の専門商社です。あまりに身近で存在を意識しない「ねじ」ですが、とても奥深い世界が広がっています。このコラムを通してねじの世界にご興味抱いていただけたら幸いです。今回の「六角ボルトの基礎知識Vol.3」は「強度区分」強度にまつわるよもやま話です。
 

Vol.1 六角ボルトの基礎知識
Vol.2 六角ボルトの ねじ山
Vol.3 強度区分  
Vol.4 「本体規格品」と「附属書品」 
Vol.5 締結・用途・バラエティー


強度区分


鉄材ボルトは現在主に『4.8』 『8.8』 『10.9』 『12.9』とされる強度区分が一般的で、数字が大きいほど高強度になります。中には『14.9』の様なさらに高強度のボルトも製造されています。かつては『4T』『7T』 『11T』『12T』という強度表記がなされていましたが、1999年4月1日で廃止されました。

同じ太さのボルトであれば数字が大きいほど大きな荷重に耐えることが出来ます。また、強度区分が同じであれば呼び径が大きい(有効断面積が大きい)ほど最大荷重が大きくなります。
現在のJIS規格では、次の10種類の強度区分が定められています。
3.6 / 4.6 / 4.8 / 5.6 / 5.8 / 6.8 / 8.8 / 9.8 / 10.9 / 12.9

強度区分 鋼製ボルトの場合

強度区分『4.8』『8.8』『10.9』『12.9』の1番目の数(少数点より前の数)は呼び引張強さを、次の数は呼び強さに対する呼び降伏点(又は0.2%耐力 単に耐力とも呼ばれる)を引張強さに対する割合で示しています。

※呼び引張強さ
ボルトが荷重に耐えられなくなり破断する荷重
※降伏点
荷重を取り除いたときに永久伸びが生じ元の長さに戻らなくなる荷重
※0.2%耐力(強度区分8.8/10.9)
高張力鋼は降伏点が明確に表れないので永久伸び(永久歪)が0.2%残る限界の引張荷重を0.2%耐力として表示します。

例えば『4.8』であれば引張強さが
4×100=400(N/mm²)
降伏点は
400×0.8=320(N/mm²)
であることを示しています。

ボルトの伸びと降伏

強度区分 ステンレスボルトの場合

ステンレスの場合、SUS304やSUS XM7といったオーステナイト系ステンレス製が一般的です。他にもSUS316(L)や黄銅(真鍮)製、純チタン製のボルトも比較的広く普及しています。
ステンレスとは、『Stain(汚れ)』と『Less(より少ない)』を合わせた言葉で、鉄に10.5%以上のクロムと他の元素(ニッケル、モリブデン、チタン等)を添加したさびにくい合金鋼です。このクロムが酸素と結合しやすく、鉄よりも先に酸化し、緻密なごく薄い酸化クロムの膜(不動態化被膜)を作ります。この膜が鋼材を錆びにくくします。
金属組織により、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系と大別されます。
強度区分はA2-80の様に表記されます。
―(ハイフン)の前のアルファベットと1桁の数字の組は鋼種を表します。アルファベットが鋼種区分を示し、鋼種に含まれる化学成分の範囲を1ケタの数字が表します。例えばA2はSUS304系を、A4はSUS316系をという具合です。A○はオーステナイト系、C○はマルテンサイト系、F○がフィライト系のステンレスであることを示します。
そして―(ハイフン)の後ろの数字が引張強さを表します。『50』であれば引張強さは500(N/mm²)、『80』であれば800(N/mm²)であることを示します。耐力の表示はありません。

鍍金(めっき)

10.9強度以下の鋼製ボルトについては表面処理が施されたものも広く流通しています。
ユニクロめっき・クロメートめっき・溶融亜鉛めっき(ドブめっき)・三価クロメートめっきが施されたものは、比較的入手しやすいものと言えるでしょう。
ただし、ユニクロやクロメートは、RoHS指令で規制の対象とされている六価クロムなどの環境規制物質の含有物がある為、現在では三価クロムを使用した三価系めっき(三価クロメートなど)への移行が進んでいます。

※RoHS指令
EU(欧州連合)において、2003年2月に公布され、2006年7月に施行された、電気・電子機器などに含まれる特定の有害物質の使用を制限する指令です。鉛・水銀・カドミウム・六価クロム・ポリ臭化ビフェニール(PBB)・ポリ臭化ジフェニエルエーテル(PBDE)の6種類が制限の対象になっています。
2015年6月に改正され、それまでの6物質と新たに4物質が追加され10物質が対象となります。改正後のRoHS指令は“RoHS2”とされています。
追加されたのは、フタル酸ビス(DEHP)・フタル酸ジブチル(DBP)・フタル酸ブチルベンジル(BBP)・フタル酸ジイソブチル(DIBP)の4物質です。
これらは2019年7月22日より順次適用されています。

参考 : 高強度ボルトと水素脆化(すいそぜいか)

水素脆化は鋼材が水素を吸収することで靭性(粘り強さ)が低下して脆くなり突然破壊する「遅れ破壊」を生じさせる現象です。強度の高い鋼、特に引っ張り強さの高い金属(ハイテン)において起こりやすいことが報告されています。このため12.9以上の高強度のボルトに対して電解メッキを基本的には行いません。

高炭素鋼ボルト(8.8や10.9強度の熱処理されたボルト)や六角穴付ボルトなどにめっきを付ける際、前工程の酸洗い処理もしくは電気亜鉛めっき時で水素粒子が鋼材へ入り込み、応力集中などの他の要因と重なると鋼材自体が脆化を引き起こし遅れ破断する水素脆化割れを生じます。
この遅れ破断を防ぐには、ベーキング処理(メッキ工程内でボルト・ねじを200℃程度の温度で4~24時間ほど加熱する脱水素処理)を行ない、脆化を発生させる三大要因の一つ水素を取り除くことが有効です。

頭部の刻印

現在では、ボルトメーカーで生産されている鉄製六角ボルトには、ほとんどの場合頭部へ強度区分や各メーカーなどが刻印されており、「本体規格」ではステンレス製六角ボルトにも求められるようになっています。商品をひと目見れば分かるようになっています。

「本体規格」
国際規格(ISO)に準拠して定められたJIS B 1180(六角ボルト)及びJIS B 1181(六角ナット)の規格のことを「本体規格」呼び下記附属書と区別しています。この規格で製造された六角ボルト・ナットは本体規格品と呼びます。

「附属書」
1985年のJIS改正で、それまで使用されていた六角ボルト・ナットの規格は「附属書」となりました。その附属書の規定に従って製造された六角ボルト・ナットは付属書品と呼びます。

8.8強度以上の高強度のボルトには、鋼種(SCM435など)が刻印されている場合もあります。主なボルトメーカーの刻印は次の通りとなります。
  KN - 金剛鋲螺
  NB - 日本鋲螺(強度区分4.8)
  NBⅠ- 日本鋲螺(強度区分10.8)
  NF - 日本ファスナー
  KY - 協栄製作所
  HF - ヒラノファステック
  DS - ヨット印・ダイワ
  KKT- カクマル
  HSK- 光精工

鋼製六角ナット刻印例


ステンレス製六角ボルト刻印例

※ステンレス製には刻印が無い場合もあります。

古いボルトだと、メートルねじを表わす『M』が刻印されている場合があります。また建築向けのZマークなど、特別な規格をクリアしていることを示す刻印が入っているものもあります。

Mマーク付きの六角ボルト

ナットとの組合せ

必要な六角ボルトの強度を決めると、JIS B 1052-2により組み合わせる六角ナットの強度が決まります。また、六角ボルトに組み合わせる六角ナットは、組み合わせ表より高い強度区分の六角ナットに代替できます。

六角ボルト・ナット組合せ表

六角ボルトの「強度」をテーマにした「ねじの豆知識 六角ボルト Vol.3」はお楽しみいただけましたか?
次回Vol.4ではねじ業界で取り組んでいるISO規格への移行について「『本体規格品』と『付属書品』編」と題してお届けします。

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