「ねじの豆知識」 エンザート VOL.4 下穴の設定
私たち藤本産業が取り扱っている様々な「ねじ」をご紹介しその世界を少し味わっていただけたら嬉しいです。
今回はケー・ケー・ヴィ・コーポレーション株式会社製雌ねじ補強用インサートナット「Ensat ®ーエンザートー」のVOL.4 “下穴の設定編” です。
Vol.1 「エンザート」とは
Vol.2 形状
Vol.3 相手材ごとの適性
Vol.4 下穴の設定
Vol.5 エンザートの工具と機械を用いた挿入
Vol.6 エンザートのハンドツール挿入
下穴の設定
下穴径
エンザートの機能を十分に発揮させるには刃先を相手材にセルフロックさせることが重要です。そのためにはエンザートの下穴径を慎重に決定し、相手材の被削性や加工性によっての微調整が求められます。
エンザートを使用する場合には必ず試作を行い下穴径の選定をします。被削性の悪い材質ではこのことは特に重要となります。
一般的な材料に対し推奨されている下穴径は次の様です。
下穴は相手材ごとに設定された引っ掛かり率を目安にします。
ここでの “引っ掛かり率” とは
“エンザートの外径ねじがどれだけ母材と噛み合っているか”
を表した数字で次のように計算します。
引き抜き強さに関して、割溝タイプは引っ掛かり率30%で、三つ穴タイプは50%でほぼ最大の強さが得られます。
(図は割溝タイプの引っかかり率と引抜強度)
エンザートはセルフタッピングすることで母材へしっかりセルフロックします。下穴径が大きすぎるとエンザートの母材への固定が不十分になり、空回りなどして接合強度不足の原因となります。
また、小さすぎる下穴径もトラブルの原因になります。加工トルクが過大になり工具や装置の破損を引き起こします。挿入加工の最終段階でピッチ遅れ-エンザートが1回転に対して1ピッチ分前進することが出来なくなること-が生じ、挿入加工前半と後半のピッチ送りの差によりエンザートが軸上方へ強く圧迫されることになります。このことにより母材に噛み合っているエンザートの外周ねじ山が損傷し結果として緩みを生じます。
下穴の深さ
止まり穴では切り粉の逃げ場を確保する必要が有ります。
※穴の深さに先端のテーパー部分はカウントしません。
下穴の面取り
下穴に面取りをすることで材料面よりも深くエンザートを入れることが出来るので接合時に想定外の隙間を生じません。また、加工工具と相手材表面との衝突を防ぐことも出来ます。
壁の厚さ
母材の材質や弾性によって下穴から母材端までの安全な長さ(図S)が異なります。
目安は以下の様です。
下穴径を含めいくつもの要素を考慮して下穴の設計をすることが、エンザートを十分に機能させ質の高いねじ締結を実現するカギと言えます。
次回はエンザートの加工と工具の話です。