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就業者数最多を考える
2月1日の日経新聞で、「就業者最多6781万人 昨年34万人増 正社員に転換進む ミスマッチ、人手不足解消せず」というタイトルの記事が掲載されました。日本の総人口は既に減っていますが、就業者数は最多を更新したという内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
働く人が過去最多となった。総務省が31日公表した2024年の就業者数は6781万人と前年から34万人増え、比較可能な1953年以降で最も多い。女性やシニア層の就労が広がり、正規雇用が増加した。余剰労働力は乏しい。日本経済は生産性を高めながら、どう人手不足に対応するかという課題に直面する。
就業者とは15歳以上の人のうち、仕事を持って働いている人や一時的に休職している人を指す。24年は過去最高だった19年の水準を上回った。15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率も24年は61.7%と、前年から0.5ポイント拡大した。
女性の就業者は前年比で31万人多い3082万人と最多だった。就業率でみると男性は直近10年間で1.9ポイントの上昇にとどまったが、女性は6.6ポイント上昇した。高齢者の就業率も上昇傾向にあり、65歳以上は前年比で0.5ポイント高い25.7%だった。
雇用形態別にみると就業者のうち正規雇用は39万人増と大きく増えたが、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用は2万人増だった。より良い雇用条件を示さなければ、人材が集められない状況が広がっている可能性がある。
リクルートの高田悠矢・特任研究員は「企業側の人材ニーズが高まるなか、これまではパートなどで働いていた女性が正社員となっている」と指摘する。
企業側の人手不足感は強い。日銀がまとめた24年12月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、雇用が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」を引いた雇用人員判断指数(DI)は全規模・全産業でマイナス36、先行きはマイナス41だった。
厚生労働省によると介護や建設分野では有効求人倍率が4倍を超える職種もある一方、事務系は1倍を下回る。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平・副主任研究員は「求人と求職者のミスマッチが起きている。女性や高齢者は働く時間が短く、想定よりも労働力の確保につながっていないという側面もある」と語る。
働く人の増加は経済成長にプラスだ。企業の生産やサービスの供給が増える上、収入増が消費拡大につながり需要が伸びる。社会保険への加入者が増えることで、年金や健康保険の財政的な安定性が高まる。
少子高齢化の進展で15歳以上人口は10年代に減少が始まった。女性や高齢者の拡大による就業者の増加には限界がある。労働政策研究・研修機構の推計によると、40年時点の就業者数は最も低いシナリオで5768万人まで落ち込む。今のうちから人工知能(AI)などを活用した生産性の向上などで働き手の減少に備える必要がある。
同記事からは、大きく2つのことを考えました。ひとつは、業務プロセスの見直しと人材のさらなる有効活用です。
前回の投稿「スキマバイト活用を考える」では、現在就労していないが隙間バイトという形態なら就労可能という新たな労働力の取り込み、既に就労しているがさらに時間と活動領域を広げられる人材の取り込みについて考えました。また、業務分掌や担当する役割を見直して、人材の最大活用を目指していくことについても考えました。
隙間バイトといった方法などで、労働力や1人あたりの労働時間をさらに増やしていく工夫も大切ですが、同記事によるとその余地がだんだんなくなってきていることがわかります。あるとすれば外国人人材の取り込みで、今後さらに期待される領域ですが、いろいろな課題もあり一気に進むのは難しそうです。
よって、業務プロセスを今一度把握し、必要な工程を再定義したうえで、だれがどのように担えばよいか人材の最適配置・最適配分を考えて実現させるマネジメントの視点は、ますます大切になると言えます。
もうひとつは、人材を雇用するための費用(人件費)は、今後さらに上昇スピードが上がっていく可能性があるということです。
同日付の日経新聞記事「きょうのことば 余剰労働力 減少なら賃金に上昇圧力」を抜粋してみます。同記事では、工業化の過程で農村部からの労働供給力が限界に近づくと賃金上昇の活性化が起こる「ルイスの転換点」の事象が、今後の日本全体で起こることが想定されることに触れています。
現在は仕事に就いていないものの、今後労働者になり得る人たちのこと。企業側の人材ニーズが高まると新たに仕事に就く人が増え、余剰労働力が減る。余剰労働力が少なくなると労働者の採用ハードルが上がるため、賃金には上昇圧力がかかりやすくなる。
1979年にノーベル経済学賞を受賞した英国の経済学者アーサー・ルイス氏は「ルイスの転換点」を提唱した。工業化が進む過程で農村部の余剰労働力が底をつくと、賃金上昇と労働力不足が起こるという学説だ。現在の日本でも、女性や高齢者の余剰労働力がなくなる転換点が近づいているとの指摘がある。
総務省は短時間労働者でさらに働きたい人や失業者、求職活動をしていない就業希望者など、働きたくても働けない「未活用労働者」の数を集計している。新型コロナウイルス禍の2020年4~6月期に535万人まで増加したが、足元は400万人台前半で推移している。
今の賃上げの動向が、今後沈静化していく可能性もありますが、一方で今以上に上昇圧力がかかっていく可能性もあるということを示唆しています。
国全体で賃金が上がれば国全体で消費が増え、企業全体の収益も上がって一部を人件費に充てるというサイクルが回るはずですが、そうした流れの恩恵を受けるようになるまでに時間のかかる企業もあります。
世界的なインフレのペースが多少落ち着くとしても、賃金相場の上昇スピードが落ち着くとは限らないという視点をもって、業務プロセスの見直しと人材のさらなる有効活用という課題に向き合う必要があることを、これらの記事は示唆していると思います。
<まとめ>
業務プロセスの見直しと人材のさらなる有効活用という課題に向き合う必要がある。