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「マニュアル」ではなく「備忘録」

先日、子供向けのサービス業でシルバー人材として勤めはじめた知人Aさんの話を聞きました。Aさんは事業部長を歴任するなど社会経験が豊富で、今の勤め先にとっては、「中途採用でやってきた異分子」のような存在だそうです。

Aさんの勤務先では、業務内容・業務プロセスが可視化されていません。お客さまに対して、場面ごとに従業員がどのような対応をすべきなのかが、各従業員の属人性に委ねられているようです。新しく入ったメンバーにとっては、業務の全体像がたいへん分かりにくく、把握しづらい状態です。また、何がお客さまに対する適切な対応なのか、人によって解釈がバラバラで一様でないそうです。

例えば、ある先輩社員から指示されたとおりに作業したところ、別の先輩社員から「なんでそんなやり方をしたんだ」と叱られるなどで、困惑することが日常的なのだそうです。そのこともあって若手社員は定着しにくい状態だと言います。サービス業に限りませんが、これと似たような現場もありますよね。

Aさんは、新たに外から入ってきたメンバーということもあり、このことにとても違和感があったと言います。そこで、業務の標準化・マニュアル化を提案したそうです。「マニュアルがあれば、メンバー間の業務品質のばらつきも少なくなって業務プロセスも安定するし、新しく入ってくる人の困りごとが減る。業務の効率化・圧縮にもなる。自分が主導して作ることでよい。」と説明しましたが、部門長や周囲のメンバーの反応は冷ややかだったそうです。

「うちのサービスは、マニュアル化するようなものではない。各場面でお客さまの顔を見ながら対応を考えるものだ。お客さまによっても求めていることは違う」というのが理由のようです。

しかし、「具体的にどのような対応をするのかは場面や相手によって違っても、背景にある考え方や、どんな場面で何を判断しないといけないかの基準は可視化できるはず。また、どんな相手であっても落としてはならない共通の作業や手順もあるはず」というのが、Aさんの意見でした。

そこで、アプローチを変えたそうです。「自分は学卒社員と違って若くないから、忘れっぽいんですよ。それで、いろいろな場面や場所でどう対応したらいいか忘れてしまわないように、備忘録をまとめています。これがサンプルです。よかったら、周りのメンバーとも共有したいのですが」 すると、部門長も周りのメンバーも「これは便利でいいね」とすんなり通ったそうです。結局は、Aさんの提案には現場のニーズがあったということです。

Aさんに言わせると、「やろうとしたことはまったく同じ、「マニュアル」を「備忘録」と言い換えただけ」とのことです。

この出来事から感じたことは、大きく2点です。ひとつは、「ものは言いよう」です。

同組織のメンバーは、「マニュアル」と聞くといかにも機械的な響きがし、冷たいイメージがするようです。人相手のサービス業、それも子ども相手が主な仕事ということで、「決まった通りに杓子定規にするためのものは容認できない」とでもいうような拒否反応があるのでしょうか。

マニュアルとは本来そのようなものではないと思います。その商品・サービスを使うユーザーの視点に立って、品質を安定させ、より便利に使っていただく結果につながるやり方をまとめたものです。人相手で場面に応じて対応に可変性のある業務であれば、それを踏まえた上でマニュアル化すればよいだけです。

しかし、聞き手はそのような認識をしているわけではありません。その聞き手に対して、マニュアルの意味をひたすら説明しても、理解が得られるとは限りません。聞き手が拒否反応をもつ言葉をわざわざ使わなくても、受け入れやすい別の言葉を使って物事が進むのであれば、それに越したことはないでしょう。Aさんいわく「「業務の圧縮」などもダメで、「仕事のムリ・ムダをなくす」ならOKだそうです。

もうひとつは、具体的な事例を示すことの有効性です。上記の例では、Aさんが目に留まった業務を例に、マニュアル化のサンプルも作って見せながら説明しています。「マニュアル化」とだけ聞くと身構えてしまう聞き手も、「備忘録」と聞きさらに具体的な仕上がりイメージもあることで、「これはいいね」となったのでしょう。

相手や抵抗勢力が受け入れにくいことも、アプローチを少し変えれば展開がまったく変わるかもしれない。どの組織でも当てはまる事例だと思います。

<まとめ>
相手の拒否反応や先入観がない言葉に言い換える。


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